第65話 帰路
夜、工房に帰った。
ベルとガルトが待っていた。ロットとクロウとヴェラのことを紹介した。ガルトがヴェラを見て、少し顔色が変わった。でも何も言わなかった。
「今夜は全員泊まれる場所があります。クロウさんとロットはここに。ヴェラさんは——」
「私は外の宿に泊まる」
「それでいいですか」
「構わない」
ヴェラはガルトの視線を感じていたと思う。でも騒がなかった。
夕飯の後、ガルトが俺を呼んだ。
「ヴェラを連れてきたのか」
「旅の途中で合流しました。助けてもらいました」
「危なくなかったか」
「危なかったです。でもヴェラさんがいたから情報が得られた」
父が少し黙った。
「……分かった。ヴェラをどう扱うかは、お前が決めていい」
「信頼できる人物だと俺は思っています」
「そうか」
「父さんの手紙を読みました」
「そうか」
「若い頃の話。カイさんを見ていて怖くなったという話」
「……書いた」
「教えてくれてありがとうございます」
「お礼を言うな」
「なぜですか」
「言うべきことを言えずにいて、お前が動いてから初めて言った。それはお礼を言われることではない」
父が窓の外を見た。夜の港が見えた。
「カイについて、ミラ老師から聞いたか」
「明日、老師からカイの記録を受け取ります」
「そうか」
「父さんはカイさんと面識がありましたか」
「ネベルで少し会った。カイは俺より年上だった。俺がネベルに来たとき、カイはもう何年も「星がおかしい」と言い続けていた。誰も聞かなかった」
「そのカイを見て、父さんは黙った」
「そうだ」
「俺は黙らなかった」
「お前は強い」
「強くはありません。ただ、黙る方が怖かった」
父が俺を見た。
「……そうか」
それだけだった。
でも、その言葉に父の長い沈黙の全部が入っていた気がした。
記録帳に書いた。
ファーレンに帰ってきた。旅の収穫は大きかった。各地の証言、百年の記録、星種実験の写し。
明日、ミラ老師からカイの記録を受け取る。
帰路の間も観測は続けた。南西の星は、まだある。でも確実に暗くなっている。時間があまり残っていないかもしれない。




