第62話 星を消した理由
四人での旅が三日続いたとき、ヴェラが「少し時間を取りたい」と言った。
野営地で焚き火を囲んで座った。ヴェラが話し始めた。
「星種実験について、俺が知っていることを話す」
「星種実験は、最初は善意から始まった」
「星の数が減っていることへの対応ですね」
「そう。当時の院長が「星を作れるなら作ろう」と考えた。技術的には可能だという研究があって、実験が始まった」
「でも失敗した」
「十二次にわたって実験した。一部は成功した。でも、失敗した星が多かった。そして——失敗した星の消え方が、予想と違った」
「どう違ったんですか」
「消える過程で、周辺の大気に影響を及ぼす。影響は一時的で、人体には無害だというのが当初の見解だった。でも実際には、記憶の一時的な混乱が起きた」
「ランドで確認しました。三年間の記憶が消えていた老人たちが複数いた」
「そう。星が消えるとき、周辺で記憶の混乱が起きる。これが「無害ではない」と分かった。でも院は——」
ヴェラが少し止まった。
「院は隠した。公表すれば、星種実験そのものが否定される。院の歴史に失敗の汚点がつく。それを恐れて隠した」
「そのために忘却師が作られた」
「記録を消し続けることで、星種実験の存在を歴史から削除しようとした。星図師の報告は「観測誤差」として処理する。記録帳の中の証拠を消す。証言者の記憶を……」
「記憶も消せるんですか」
「ある程度は。星が消える過程の大気を使った方法がある。故意に使えば、特定の記憶を消せる。それが「忘却師」の由来だ」
クロウが低い声で言った。
「人の記憶を消したのか」
「組織の中で議論があった。人への使用は倫理的に問題があると言う者もいた。シェードは「より大きな安定のため」と言った。俺は……従えなかった」
「だから抜けた」
「そう。でも抜けるのが遅かった。すでに何件か関わっていた。それが今でも重い」
焚き火が静かに燃えていた。
俺は記録帳に書いた。
星種実験の失敗が記憶の消失を引き起こすことを院が知っていた。隠蔽のために忘却師が作られた。人の記憶を意図的に消す技術がある。ヴェラはその後悔から組織を抜けた。
補足欄に書いた。
「この事実が外に出れば、院の歴史が変わる。でも院の人間の大半は知らない。知っているのは一部の人間だけだ。院全体の問題ではなく、一部の判断の問題だ」
「ロット、こういう話を聞いてどう感じますか」
「怒りがある。でも——」
ロットが珍しく少し落ち着いた声で言った。
「レンが記録し続けることが、それを防ぐ一番のやり方なんだと思う。消そうとしても、記録があれば消せない。そういうことでしょ」
「そういうことです」
「じゃあ俺も続ける。証言集め、まだできることある?」
「帰ってからまた話しましょう」




