第54話 海の向こう
エスタの夜は、空が広かった。
大陸の東端だから、海の方向に遮るものがない。港を出て少し歩くと、地平線まで海が続く場所に出られる。夜はそこで観測した。
最初の夜、気づいた。
星の配置が、ファーレンで見たものと少し違う。
当然といえば当然だ。距離が離れると、角度が変わる。同じ星でも、位置が少し変わって見える。
でも、変わり方が俺の想定より大きかった。
基準星を確認した。基準星は変わっていない。でも、基準星に対する他の星の位置が、ファーレンと比べてわずかに違う。
「この差が気になる」
ロットに言ったら「どのくらい違うの?」と聞かれた。
「計算が必要です。ファーレンとエスタの距離から、角度変化を計算して、実際の位置変化と比較します」
「それ、計算できるの?」
「できます。前の世界で——」
また言いかけた。
「習いました。三角測量の応用です」
計算した。
ファーレンからエスタまでの距離から、想定される角度変化を出した。次に実際に観測した位置変化を測定した。
一致していなかった。
実際の変化が、計算上の変化より少し大きかった。
なぜか。
星が動いているとしたら、説明できる。でも星は動かない、というのが星図師の常識だ。
あるいは——俺の計算が間違っている。
あるいは——星種実験で植えられた星は、自然の星より動きが大きい。
「ロット、確認してほしいことがあります」
「なに?」
「ソルテやマルで観測したとき、星の位置について記録はしましたか。方向と位置の具体的なメモ」
「……した。あんまり正確じゃないけど」
「見せてもらえますか」
ロットがメモを出した。感触ベースの記録だったが、方向は書いてあった。
俺はロットのメモとエスタでの観測を比較した。
複数の地点から見た同じ星の「位置」が、移動量に対して大きすぎる。
これは——星が動いている可能性がある。
または、俺の基準星が正確でない可能性がある。
どちらかは今すぐには確認できない。でも記録した。
「ロット、エスタから見える星の配置をもう一度確認させてください。今度は俺が位置を指定するから、その方向にどの星が見えるか教えてほしい」
「二人で確認するの?」
「第二の目が必要です。俺の感覚が合っているか確認したい」
「任せて!」
二人で二時間かけて観測した。
ロットが「あっちの方向にあれが見える」と言い、俺がそれを位置として記録する。素人の目と俺の目を合わせた記録は、精度の確認に使えた。
結果:ロットの感触と俺の記録は概ね一致した。俺の基準は間違っていない。
つまり、星が予想より大きく動いている。
「面白い発見をしましたね」
「面白いの? 怖くないの?」
「怖い部分もある。でも、分かることが増えたということは面白い」




