第53話 ベルからの手紙
エスタに着いて三日目に、手紙が届いた。
エスタの郵便窓口に「ガルト工房・レン宛ての転送手紙」として来ていた。俺が各地に転送先を伝えてあったので、ファーレンに届いた手紙が追いかけてきた形だ。
ベルからだった。
「レンへ。元気ですか。ファーレンは秋になりました。工房は変わらず。ソーラ先輩は相変わらず早起きで怖い。ダンさんが時々来てロットさんの話をします。
本題です。北の方向の星が、また暗くなっています。俺が感覚で確認して、数値でも追いかけています。
具体的には、北北東から北東の範囲にある星が、一ヶ月で「欠けてる感じ」が増えました。二件目の星(南西)は続いています。三件目の星(北北東)はさらに暗くなっています。
新しく気になるのが、真北です。こちらはまだ「うっすら欠けてる気がする」という程度で、数値では確認できていません。でも記録しておきます。
ガルト師匠は元気です。でも最近、夜に塔に上がることが増えました。俺も一緒に上がります。師匠はあまり喋りませんが、俺が観測の話をすると聞いています。
旅の話を聞かせてください。待っています。ベルより」
読み終わって、しばらく窓の外を見た。
ベルが記録を続けている。俺が旅に出ている間も、ファーレンで毎晩塔に上がって、感覚と数値で記録を続けている。
父も塔に上がっていると書いてあった。俺がいなくなってから、ガルトが自分でも観測を始めたのかもしれない。封印していた関心が、また動き始めているのかもしれない。
ロットに読ませた。
「ベル君、頑張ってる!」
「旅に出てから初めて手紙が来ました。ほぼ毎月送ると言っていたから、転送されてくるまで時間がかかったと思います」
「ガルト師匠も塔に上がってるのか。変わったな」
「変わったんだと思います。俺が旅に出たことで、父の何かが動いたかもしれない」
「家族って不思議だよな」
「そうですね」
ベルへの返信を書いた。
「ベルへ。手紙ありがとうございます。ファーレンの状況を教えてくれて助かります。真北の「うっすら欠けてる感じ」は、可能性として四件目の始まりかもしれません。引き続き記録してください。
こちらはエスタという最東端の港に来ています。古い記録者に会う予定です。各地でたくさんの証言を集めました。帰ったら全部話します。
ヨランという老記録者の話を聞けば、何か分かるかもしれません。明日会いに行きます。
ガルト師匠が塔に上がっていると知って、安心しました。父を一人にするのが少し心配でした。あなたがいれば大丈夫だと思います。
もう少ししたら帰れます。待っていてください。レンより」
書いた後で、「もう少ししたら帰れます」という部分を読み直した。
いつ帰るかは、正確には分からない。でも、帰る方向は決まっている。エスタで記録を取ったら、折り返してファーレンへ向かう。
ファーレンに帰ってから、また別の段階が始まる。




