第50話 旅の折り返し
ネベルを出て三日目の夜、野営地で俺は記録帳を数えた。
三冊になっていた。
一冊目は観測記録。毎晩書いてきた数値データが入っている。 二冊目は補足記録。事実と推測を分けて書いてきた分析帳だ。 三冊目は今回の旅で使い始めたもので、聞き取り記録。各地で話を聞いた内容を書いてある。
ミラ老師からもらった帳面も別にある。そちらは老師の記録の続きという位置づけで、特に重要な発見だけを書いている。
焚き火の前で、ヴェラが「記録帳を大切にしているのね」と言った。
「これがなくなったら、旅をした意味がなくなります」
「そうだな。でも、ここ以外に写しがあれば、なくなっても完全には失われない」
「イヨさんに一部を預けてきました。ファーレンの父にも、定期的に重要な部分を手紙で送っています」
「賢い」
「父からのアドバイスです。「記録帳を失うな。他は失っても、記録帳だけは」と言われました」
ヴェラが少し笑った。
「ガルトらしい言い方ね」
「ヴェラさんは父をよく知っているんですか」
「昔ね。ネベルで一緒にいた時代がある」
ロットが焚き火に木を足しながら「ガルト師匠って昔ネベルにいたんですか」と聞いた。
「修行時代にいたと本人から聞きました。ヴェラさんもその頃いたんですか」
「そう。ガルトは星図師志望で、私は……別の勉強をしていた。同じ施設に一時期いた」
「忘却師の勉強ですか」
「当時は「記録整理師」という名目だった。記録を整理・保全する仕事として入ったが、実際に教えられたのは別のことだった」
「消す方法」
「消す技術、と、「何を消すべきか」という判断基準。でも私はその判断基準に同意できなかった。だから——」
ヴェラが空を見た。
「途中から別のことをしていた」
「別のこと」というのは、消えた記録を復元しようとしていたことだ、とヴェラは言った。
消すのではなく、残す側に回っていた。でも、それを知ったシェードに二十年前に阻止された。
「二十年前に阻止されてから、ずっと表に出ない生活をしていた。でもレンが動いているのを見て、また動こうと思った」
「俺が動いたことで、ヴェラさんが動いた」
「ある意味ね。あなたが記録を積み上げていることは、私には見えていた。ガルトの子どもが同じことをしていると分かったとき、止められなかった」
ロットが「俺の役割はなんですか」と聞いた。
「各地の証言を集めてきてくれた。それは大きい」
「もっと集めてくる?」
「エスタから戻ったら、また集めてほしいことが出るかもしれません。今は一緒に来てほしい」
「了解!」
ロットが満足そうにした。
旅の折り返しを意識した。
ファーレンを出発したのが秋。今は冬が始まろうとしている。三ヶ月以上が経った。
集めた情報:各地の証言十三ヶ所、星種実験の記録の写し、消えた記録の断片、カルの観測記録、ソルテの漁師帳面の写し、フォルムの地図写し。
これだけ集まった。でも、まだ足りない。
エスタに行く。エスタにあるという古い記録者の記録を見る。
それが次だ。




