第49話 ネベルを去る
霧の中を三人で歩いた。
ヴェラが道を知っていた。ネベルの裏道、旅人が使わない農道を案内してくれた。
二時間ほど歩いたとき、後ろに人の気配があった。
「ヴェラさん」
「気づいている。速めるけど、走らなくていい。走ると目立つ」
速く歩いた。
しばらくして、気配が消えた。
「追ってきていましたか」
「一人だった。シェードではなかった。使いだろう。確認していただけだと思う」
「それは良かった」
「ただ、俺たちが出たことは分かった。次の動きが速くなるかもしれない」
昼ごろ、街道に出た。
旅人が数人いた。その中に紛れて歩いた。普通の旅人のように見せる方が安全だ。
ロットが得意そうにした。
「旅人の中に紛れるの、得意! 俺、どこでも旅人に見える」
「それは分かります」
「レンは星図師の証章をつけていると目立つかもしれない」
「外しておきます」
「ヴェラさんは?」
「私は普段から目立たない格好をしている」
昼の休憩のとき、ヴェラと話した。
「シェードはなぜ記録を追いかけるんですか」
「…記録が存在すると、困ることがあるから」
「星種実験の証拠が表に出ると困る、ということですか」
「それだけではない。シェードには、世界の記録が変わることへの恐れがある。記録が変わると、人の認識が変わる。人の認識が変わると、社会が変わる。シェードはその変化を恐れている」
「変化が怖い、ということですか」
「恐れ、というより——信念だと思う。「記録を保つことが安定をもたらす」というシェードなりの信念がある。だから消す」
「でも消した記録は失われる。それは安定ではなく喪失だ」
「私もそう思う。だから——ここにいる」
ロットが「なんか難しい話してるな」と言った。
「ロットが理解する必要はありません」
「でも同行してる以上、知りたい」
俺はロットに簡単に説明した。
「星の記録を消そうとしている人間がいる。俺はその記録を守りたい。ヴェラさんはその人間の元仲間で、今は別の立場にいる」
「それで俺たちが一緒に逃げてる」
「そうです」
「分かった! 任せて!」
ロットが荷物を背負い直した。頼もしかった。
夕方、次の町の宿に入った。
三人で夕飯を食べた。ヴェラが「今夜は安全だと思う」と言った。
「これからの予定を話し合いましょう」
「どこに行く?」
「俺はエスタへ行くつもりでした。東端の港です。古い記録がある可能性がある」
「エスタは遠い。でも、記録があるなら行く価値はある」
「ヴェラさんも来ますか」
「……エスタまでは行けないかもしれない。でも、途中まで同行できる」
「分かりました」
夜の記録帳に書いた。
ネベルを脱出した。写しはイヨに預けた。クロウへの手紙を残した。
収穫:星種実験の記録の写し、消えた記録の断片、ロットの証言集、フォルムの地図写し。
シェードの存在が具体化した。組織のトップで、記録の抹消を指示している人物。ヴェラの元上司。
次の目的地:エスタ。




