第45話 忘却師の痕跡
食事をしながら、クロウと話した。
宿の食堂で、夜遅い時間だった。他の客はほとんどいなかった。
「封印された部屋の記録、消えていたのは意図的なものだと思うか」
「自然ではない消え方でした。文字だけが消えて、紙は残っている。インクを拭き取ったわけでもない。何か別の方法で消した」
「魔法的な方法か」
「その可能性があります。俺の知識にはないが、記録を消すことができる人間がいるという話は聞いたことがある」
「どこで」
「父から。「忘却師」という呼び名で」
クロウが少し止まった。
「忘却師。俺も聞いたことがある。院の古い人間が、たまに使う言葉だ。「あれは忘却師の仕事だ」という言い方をする」
「院の中で知られている存在なんですか」
「知られているが、公式には存在しない。都合の悪い記録を消す組織があるという噂は、院の中では古くからある。でも証拠がない」
「今日見た、消えた記録が証拠になりませんか」
「消えた記録という証拠は、存在を証明しない。記録が消えた事実は示せても、誰が消したかは示せない」
「では、どうすれば」
「消した人間を見つけるか、消したという証言を取るか。どちらも難しい」
俺はしばらく考えた。
「ヴェラが知っているかもしれない。ヴェラは「危険な立場にいる」と言っていました。ヴェラ自身が忘却師の組織にいる可能性があります」
「ヴェラという人物を知っているか?」
「ファーレンで接触してきました。父が遠ざけようとしていた人物です」
「どういう印象だった」
「敵でも味方でもない、と自分で言っていました。記録の価値を認めているが、組織の立場もある、という矛盾した状態にいると思います」
クロウが食事を続けながら言った。
「ヴェラを探すか、ヴェラを待つかだな」
「ヴェラはこちらの動きを把握しているようです。ランドでも、ここでも、俺が動いた後に現れています。だから待てば来ると思う」
「待ちながら調査を続ける」
「そうです。今できることを続ける」
「君は焦らないな」
「焦っても仕方ない。記録は積み上げるしかない」
翌日、記録の整理をしていたときにヴェラが来た。
今度は正面から来た。図書館の入り口でイヨと話していた。俺が来るのを知っていて、待っていた。
「話せる?」
「話します」
外に出た。霧の中で立って話した。
「消えた記録を見たのね」
「見ました。忘却師がやったことですか」
ヴェラが少し黙った。
「……そうだ、と言ったら」
「組織のことをもっと教えてほしいです」
「それは言えない。でも——」
ヴェラが空を見た。霧の中の空だ。
「消えた記録の中に、私が関わっていないものもある。二十年前に消えたものの中に、私が知らないうちに消されたものがある」
「あなたも知らないうちに消された記録がある」
「私の記録が消された」
俺は記録帳を出した。
「ヴェラさんが持っていた記録が消されたんですか」
「私が調査していた記録が、途中で消えた。二十年前。調査を止めた」
「調査を止めたのは」
「怖くなったから。そして、消した人間が誰か分かったから。止めなければ、もっと消されると思った」
「消した人間は誰ですか」
「シェードという。私の、元上司だ」




