第41話 星種実験とは
図書館に通い始めて五日目、俺は星種実験の全体像をある程度把握した。
完全ではない。記録が一部しか残っていないし、残っている部分も読みにくい。でも輪郭が見えてきた。
星種実験とは、百五十年前に王立星図院が試みた実験で、要するに「空に星を作る」試みだった。
当時の院長が「星の数が減っている」という観測を受け、「星を増やせば問題が解決する」と考えた。星は一定の「種」のようなものを使って増殖できると理論が立てられ、実験が始まった。
第一次から第十二次まで、実験は続いた。
成功したものもあった。現在も空に存在している星の中に、その頃に「植えられた」ものがある可能性がある。
でも失敗したものも多かった。失敗した星は、寿命が短かった。数十年で消えるものもあれば、百年かけてゆっくり暗くなるものもあった。
俺が追いかけてきた「消えた星」は、この失敗作の消滅過程かもしれない。
その可能性を記録帳に書いた。
事実:百五十年前に星種実験が行われた。失敗した星が多数あり、その後消滅している記録がある。 推測:現在観測している消失と低下は、失敗した星種の寿命が尽きることによるものかもしれない。
そして大きな問いを書いた。
「では、なぜ記憶が消えるのか?」
星の消失と記憶の消失の関係。ランドで確認した現象だ。
星種実験の記録をもう一度見た。実験の記録の中に、一つ気になる記述があった。
「星種は空気に混合することで定着する。種を植えた地域の大気に、一定期間影響が出る」
大気に影響。
大気に影響が出るということは、その大気を吸っている人間にも何かが起きる可能性がある。
イヨに聞いた。
「星種実験の際に、地域の人間に影響が出たという記録はありますか」
イヨが少し考えた。
「ある。植種を行った地域の人間が、一時的に記憶の混乱を報告したという記録があった。当時の院は「偶然だ」として記録から除外しようとしたが、複数の報告があったため残された」
「それが残っているなら」
「見せられる。ただし、この記録は院が認めたくない内容だから、極力外に出さないよう私も気をつけている」
「分かりました。メモは取りますが、院の公式見解として使うつもりはありません。俺の記録帳の傍証として使います」
その記録を見せてもらった。
植種を行った地域で、老人や子どもが記憶の混乱を訴えた事例が記されていた。「三年から五年で正常に戻る場合が多い」とも書いてあった。
三年から五年。
ランドで聞いた話では、記憶のない期間が「三年ほど」だった。
一致する。
クロウに今日の発見を話した。
クロウが黙って聞いた。
「……それが正しいとしたら、院は百五十年前から知っていたということになる」
「そうなります。実験の失敗作が今も影響を及ぼしているとしたら、院は知りながら放置してきた」
「放置というより……封印した、ということかもしれない」
「封印して、見なかったことにした」
「俺はその可能性を否定できない」
クロウが初めて難しい顔をした。
「俺は院の人間だ。院が悪いと言えない立場にある」
「言わなくていいです。でも、俺が記録することは止めないでほしい」
「止めるつもりはない」




