第40話 ネベルの図書館
図書館の三日目に、イヨが「見せたい部屋がある」と言った。
「普通の来館者には見せない部屋だ。でも、ヴェラが頼んできたし、君の目的を見ていて、見せた方がいいと思った」
「どんな部屋ですか」
「封印されている。百年以上、鍵がかかったままだ」
「なぜ封印されているんですか」
「当時の院長が命じた。「開けるな、でも捨てるな」というのが引き継がれている」
図書館の地下に部屋があった。
石の扉で、鍵穴が二つある。イヨが二本の鍵を使って開けた。
「見るだけだ。持ち出しは厳禁」
「分かりました」
中に入った。
狭い部屋だった。棚が壁に沿っていて、筒がたくさん並んでいた。古い星図が入っているらしかった。一角に帳面の束があった。
ほこりがあったが、保存状態は悪くなかった。乾燥していた。
「何百年前の記録ですか」
「百五十年から二百年前のものが多い。星種実験が行われていた時代の記録だ」
「星種実験」
「知っているか」
「名前だけ。ランドで少し聞いた」
「百五十年前に、王立星図院が行った実験だ。詳細は院の外には出ていない。でもこの部屋にその記録がある」
帳面を一冊取り出した。
文字は古い形式だったが、読めた。前の世界の古文書のような感覚だ。
「星種実験・第七次」と表紙に書いてあった。
開いてみると、星の配置図があった。天の地図のような図だが、普通の星図ではない。いくつかの星に「植種完了」というマークがついていた。
「植種……」
「植える、ということだ。星を植えたという記録だ」
「星を人工的に作ったということですか」
「そう解釈できる」
俺はページをめくった。
実験の記録が続いていた。各試行の結果、成功したもの、失敗したもの。失敗したものには「消失」と書いてあった。
消失。
俺が追いかけてきた「消えた星」が、実験の失敗だったとしたら。
星が人工的に作られたものなら、寿命がある。寿命が来れば消える。あるいは、失敗した星は最初から消えやすい状態にある。
「これを院は知っているんですか」
「院のトップは知っているはずだ。でも外には出さなかった。ここに封印したまま」
「百年以上前から知っていて、公表しなかった」
「そういうことになる」
「それは——」
俺は少し止まった。
感情的になりそうだった。でも、感情で記録帳を書いても意味がない。
「それは、星図師への信頼の問題になりますね。星が消えているとしたら、星図師は漁師に正確な情報を提供できていないことになる」
「そういうことだ」
帳面を全部は読めなかった。文字が多すぎた。
でも重要なページを写した。
写しながら、俺は考えた。
星種実験。百五十年前に行われた。星を植えた。失敗した星が消えていく。それが今も続いている。
でも、それが全部なのか。百五十年前の実験の後始末が、今も続いているだけなのか。それとも、実験は今も続いているのか。
分からない。でも、謎の核心に近づいている感触はあった。
外に出て、空を見た。霧の向こうに少しだけ星が見えた。
あの星は、人工的に植えられたものかもしれない。
それが正しいとしても、俺の仕事は変わらない。記録することだ。




