第39話 クロウとの初対面
翌日、図書館でクロウと会った。
クロウは二十代前半で、院の証章をつけていた。一等師の補佐、つまり院のエリートコースにいる人間だ。俺が百年前の記録を写していたら、後ろから「何をしている」と声をかけてきた。
「調査のため、記録を写しています」
「どこから来た」
「ファーレンから。三等師です」
「ファーレン……ガルト工房の?」
「そうです」
クロウが俺を見た。
「なぜ子どもがここに」
「子どもかどうかと、三等師かどうかは別の問題です」
「そういう意味で言ったわけではない」
「年齢のことを言ったのではないですか」
「……言ったが、悪意はない。単純な疑問だ。見習いが来るような場所ではないから」
「見習いではありません。三等師です」
「分かった。改めて聞く。ファーレンから来た三等師が、百年前の記録をなぜ写している」
「星の消失を調査しています。この記録に過去の消失データがある」
クロウが俺の記録帳を見た。持っていたからではなく、俺が広げていたから見えた。
「……随分と細かい記録だな」
「必要だから細かくしています」
「君が作った表記法か」
「基準星方式という、自分で考えたやり方です」
「どこかで聞いた。ノート検査官が報告書に書いていた。「ファーレンに独自の記録法を持つ見習いがいる」と」
「もう三等師です」
「そうだな。失礼した」
クロウが椅子を引いてきた。俺の横に座った。
「少し見せてもらえるか。邪魔はしない」
「構いません」
クロウはしばらく黙って俺の記録帳を見ていた。
邪魔はしなかった。本当に黙って見ていた。
俺は写しを続けた。
「質問していいか」
「どうぞ」
「ファーレンで何件の消失を確認している」
「消失確定が一件、低下継続中が二件。外部情報を含めると、各地で複数の証言があります」
「外部情報というのは」
「行商人や旅の者から聞いた話、各地の漁師や農民の証言、元星図師カルの記録」
「カル……知っている。引退した元一等師だ。ネベルで仕事をしていた」
「知り合いですか」
「知っている程度だ。記録を写したのか」
「重要な部分を写させてもらいました」
クロウが少し考えた。
「俺が院に確認できることがあれば、照合してもいい」
「なぜそれをしてくれるんですか」
「消失が複数件確認されているなら、院として把握すべき案件だ。俺の仕事の範囲でもある」
「院は以前、カル師の報告を信じなかったと聞きました」
「それは二十年前の話だ。今の院が同じ判断をするとは限らない」
「でも今の院が信じるとも限らない」
クロウが少し黙った。
「……それはそうだ」
「クロウさんは、信じますか。星が消えているということを」
「証拠が揃えば信じる」
「証拠が揃っていない段階では?」
「記録が積み上がっていれば、証拠に向かっている途中だと思う。その途中でも、情報として価値がある」
俺はクロウを見た。
「正直な人ですね」
「そうか? 普通のことを言っているだけだと思うが」
「俺の記録を初めから「証拠」として扱ってくれる人間は少ない。大抵は「証拠がないなら信じない」と言う」
「俺はそういう意味では言っていない。証拠がなければ信じないが、証拠を集めている最中の記録は「情報」として扱える。それだけだ」
夕方、クロウが席を立つとき「明日もここに来るか」と聞いた。
「来ます」
「俺も来る。続きを話そう」
クロウが図書館を出た。
俺は記録帳に書いた。
クロウ、王立星図院・エリートコース。合理的な人間。「情報として価値がある」という言い方をした。最初は警戒していたが、話してみると誠実だと分かった。
補足欄に書いた。
クロウは協力者になる可能性がある。ただし院の立場があるから、動ける範囲に限りがある。




