表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星図師は空の欠けを知っている  作者: ごま
第二部:消えた星を追う旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/76

第35話 村の星図師

 ランドを出ようとしたとき、村の老人が「カルという老師がいる」と教えてくれた。

「星図師ですか」

「元星図師だな。もう引退しているが、昔はネベルで仕事をしていた人だ。今は村に引きこもって、畑を耕している」

「話を聞けますか」

「本人に聞けばいい。村の東の端に家がある」


 カルは七十代後半の男で、見た目は普通の農夫に近かった。

「なんだ、星図師か。久しぶりだ、そういう格好を見るのは」

「少し話を聞かせてください。ランドでの調査をしていて」

「調査? 何の調査」

「星の消失と、村の老人たちの記憶喪失について」

 カルが少し表情を変えた。

「……入れ」


 家の中は、外見と違って本がたくさんあった。棚に古い本が並んでいて、一角に紙の束があった。

「現役の頃の記録が残っている」

 カルが言った。

「見せてもらえますか」

「昨夜ここに来た理由があるとしたら、その記録を見せるためだと思っている。俺は気にしていなかったが」

「気にしていなかった?」

「あの村人から聞いたはずだ。若い星図師が調べに来ていると。それで今朝少し考えた。俺の記録が役に立つかもしれない」


 カルが紙の束を持ってきた。

 ネベルで仕事をしていた頃の観測記録だった。日付は、二十年前から三十年前にかけてのものだ。

「ネベルから見えた星の記録ですか」

「そうだ。ネベルとランドは少し距離があるが、方向は似ている。見える範囲に重複がある」

 俺は記録を開いた。

 カルの記録は丁寧だった。ファーレンで俺が覚えた「明暗の五段階」方式で書いてあった。時系列で並んでいて、読みやすかった。


「二十二年前と二十一年前のあたりを見てほしい」

 カルが言った。

 俺はその時期を探した。

 南西方向の記録が急激に変化していた。

「この時期に輝度が下がっていますね」

「そうだ。一年で「やや明るい」から「やや暗い」まで落ちた。俺の記録で二段階の変化は前例がなかった」

「報告しましたか、その変化を」

「報告した。ネベルの院に。でも、「単年の変動の範囲内だ」と言われて終わった」

「それで」

「俺もそういうものかと思ったが——翌年もさらに落ちた。二年目には「暗い」になった。三年目には見えなくなった」


「消えたんですか、その星」

「消えた。俺の記録から消えた。院に再度報告したが、やはり「観測誤差の積み重ねだろう」と言われた」

「信じてもらえなかった」

「一等師の俺が報告して、信じてもらえなかった。だから引退した。引退後は院から離れたかった。だから田舎に来た」

 カルが苦い顔をした。

「俺は諦めたんだ。でも諦めて正しかったとは思っていない」

「今でもその記録は手元にありますか」

「ここにある。全部」

「これが本物の証拠になります」

「今更何に使える」

「今の俺の記録と合わせると、時系列が繋がります。二十年前に急激な変化があって、今も続いている。それを示す記録になります」


 カルが少し長く黙った。

「……コピーを作っていいか。写す時間をくれ」

「写してください。俺はここでしばらく待ちます」

 俺は記録帳を出した。カルの記録を書き写した。全部ではなく、重要な部分。南西方向の変化が記録されている部分。

「カル師、ありがとうございます」

「役に立てば」

「立ちます。絶対に」


 その夜の記録帳に書いた。

 カルという元一等師の証言。二十年前に急激な消失があった。院に報告したが信じてもらえなかった。引退。

 これが、過去にあった記録を握りつぶした形の一例だ、と思った。

 俺の補足欄に書いた。

 「信じてもらえなかった記録が、俺の記録と組み合わさることで、意味を持ち始める。カル師の二十年前の記録がここにある」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ