第33話 ランドの村
ランドという村は、小さかった。
ファーレンから東に三日。港から離れた内陸の村で、畑が多く、漁師はいない。農村だ。俺が今まで見てきた海の匂いのする場所とは、雰囲気が違った。
フィンという行商人が「記憶がおかしくなった老人が複数いる」と言っていた村だ。
俺は村の入り口にある農家に声をかけた。
「星図師なんだが、少し話を聞かせてほしい」
農家の老婆が出てきた。七十代くらいで、しわが深い。
「星図師が何の用だい」
「少し前、行商人から、この村で記憶の調子がおかしい老人が複数いると聞いた。詳しく話を聞きたい」
「なぜ星図師がそれを聞く」
「星の変化と関係があるかもしれないので」
老婆が少し考えた。
「うちの父がそうだよ。中に入るかい」
農家の奥に、老爺がいた。八十代くらいで、大きな椅子に座っていた。
「父さん、星図師が話を聞きに来た」
「なんだ」
「星の話だそうだ」
老爺が俺を見た。
「子どもじゃないか」
「三等星図師です」
「その年で?」
「はい。記憶について聞かせてもらえますか。どのくらいの期間、どういった記憶が抜けているか」
老爺はゆっくり話した。
七年くらい前から、ある時期のことが思い出せないのだという。子どもの頃の記憶は鮮明にある。数年前の記憶もある。でも、ちょうど二十年ほど前の、三年間ほどの記憶がすっぽり抜けている。
「その三年間に何があったか分かりますか」
「分からない。家族に聞くと、普通に生きていたと言う。でも俺には何も残っていない」
「三年間ずっと空白ですか」
「そうだ。夢みたいに、なんとなくの感触はある。でも何をしていたか、誰に会ったか、何を見たか——全部ない」
老爺と話した後、老婆に聞いた。
「この村で同じような人は何人いますか」
「五人はいる。みんな父と同じくらいの年だ。同じ時期の記憶がない」
「その時期というのは、二十年ほど前の三年間ですか」
「そうだね。みんな同じ時期の話だよ。だから気持ち悪くてね、医者も歳のせいだというが、同じ時期に同じ状態になる人間がこんなにいるのは変だと思う」
「同感です」
俺は記録帳を出した。
「記録させてもらっていいですか」
「構わないよ。誰かが気にしてくれるなら」
村の中を少し歩いた。
畑の間の道を歩いて、空を確認した。
ランドからの南西方向は——ファーレンとほぼ同じ方向に、あの低下中の星があるはずだった。
見た。
輝度を確認した。ファーレンで記録していたよりも、少し暗く見えた。一日分ではなく、三日分の距離が開いているから、角度が変わって見え方が変わる部分はある。でも、純粋な輝度は下がっている気がした。
村の外れに神社のような場所があって、そこに石碑が建っていた。
星の神に祈る場所らしく、石碑には星の絵が刻んであった。その中に、×印がついている星があった。
「あの×は何ですか」
近くにいた村人に聞いた。
「昔から×のついた絵なんだよ。もう消えた星だって。うちのひいじいさんの時代にはあったって、言い伝えがある」
「いつ消えたか知っていますか」
「知らない。でも二十年くらい前から、また星が消えてきているって、年寄りたちが言ってた」
俺は立ち止まった。
二十年前に始まった変化。二十年前に記憶を失った老人たち。二十年前から消えてきた星。
全部、同じ時期だ。
記録帳を出して、急いで書いた。
事実:ランドの村。二十年前の三年間の記憶が複数の老人で抜けている。石碑に「二十年前から星が消えている」という言い伝えがある。
推測:記憶の消失と星の消失が同じ時期に起きている。何らかの関係がある可能性。
「根拠はあくまで時期の一致のみ。因果関係は不明」と最後に付け加えた。




