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星図師は空の欠けを知っている  作者: ごま
第二部:消えた星を追う旅

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33/76

第33話 ランドの村

 ランドという村は、小さかった。

 ファーレンから東に三日。港から離れた内陸の村で、畑が多く、漁師はいない。農村だ。俺が今まで見てきた海の匂いのする場所とは、雰囲気が違った。

 フィンという行商人が「記憶がおかしくなった老人が複数いる」と言っていた村だ。

 俺は村の入り口にある農家に声をかけた。

「星図師なんだが、少し話を聞かせてほしい」


 農家の老婆が出てきた。七十代くらいで、しわが深い。

「星図師が何の用だい」

「少し前、行商人から、この村で記憶の調子がおかしい老人が複数いると聞いた。詳しく話を聞きたい」

「なぜ星図師がそれを聞く」

「星の変化と関係があるかもしれないので」

 老婆が少し考えた。

「うちの父がそうだよ。中に入るかい」


 農家の奥に、老爺がいた。八十代くらいで、大きな椅子に座っていた。

「父さん、星図師が話を聞きに来た」

「なんだ」

「星の話だそうだ」

 老爺が俺を見た。

「子どもじゃないか」

「三等星図師です」

「その年で?」

「はい。記憶について聞かせてもらえますか。どのくらいの期間、どういった記憶が抜けているか」


 老爺はゆっくり話した。

 七年くらい前から、ある時期のことが思い出せないのだという。子どもの頃の記憶は鮮明にある。数年前の記憶もある。でも、ちょうど二十年ほど前の、三年間ほどの記憶がすっぽり抜けている。

「その三年間に何があったか分かりますか」

「分からない。家族に聞くと、普通に生きていたと言う。でも俺には何も残っていない」

「三年間ずっと空白ですか」

「そうだ。夢みたいに、なんとなくの感触はある。でも何をしていたか、誰に会ったか、何を見たか——全部ない」


 老爺と話した後、老婆に聞いた。

「この村で同じような人は何人いますか」

「五人はいる。みんな父と同じくらいの年だ。同じ時期の記憶がない」

「その時期というのは、二十年ほど前の三年間ですか」

「そうだね。みんな同じ時期の話だよ。だから気持ち悪くてね、医者も歳のせいだというが、同じ時期に同じ状態になる人間がこんなにいるのは変だと思う」

「同感です」

 俺は記録帳を出した。

「記録させてもらっていいですか」

「構わないよ。誰かが気にしてくれるなら」


 村の中を少し歩いた。

 畑の間の道を歩いて、空を確認した。

 ランドからの南西方向は——ファーレンとほぼ同じ方向に、あの低下中の星があるはずだった。

 見た。

 輝度を確認した。ファーレンで記録していたよりも、少し暗く見えた。一日分ではなく、三日分の距離が開いているから、角度が変わって見え方が変わる部分はある。でも、純粋な輝度は下がっている気がした。


 村の外れに神社のような場所があって、そこに石碑が建っていた。

 星の神に祈る場所らしく、石碑には星の絵が刻んであった。その中に、×印がついている星があった。

「あの×は何ですか」

 近くにいた村人に聞いた。

「昔から×のついた絵なんだよ。もう消えた星だって。うちのひいじいさんの時代にはあったって、言い伝えがある」

「いつ消えたか知っていますか」

「知らない。でも二十年くらい前から、また星が消えてきているって、年寄りたちが言ってた」


 俺は立ち止まった。

 二十年前に始まった変化。二十年前に記憶を失った老人たち。二十年前から消えてきた星。

 全部、同じ時期だ。

 記録帳を出して、急いで書いた。

 事実:ランドの村。二十年前の三年間の記憶が複数の老人で抜けている。石碑に「二十年前から星が消えている」という言い伝えがある。

 推測:記憶の消失と星の消失が同じ時期に起きている。何らかの関係がある可能性。

 「根拠はあくまで時期の一致のみ。因果関係は不明」と最後に付け加えた。


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