第29話 三等師試験
ノートから手紙が来た。
検査官の手紙というのは珍しい。一度だけ接触した人間から、わざわざ手紙を送ってくることも。
内容は短かった。
「ガルト工房の見習いに。王立星図院の三等星図師試験について、来年の春に特例受験の申請ができる。年齢条件の例外規定に当てはまる可能性がある。検討されたし」
父に見せた。
「知っている」
「知っていたんですか」
「ノートが俺にも同じ内容で連絡してきた。お前が知らないうちに勝手に決めるつもりはなかったから、お前から話すまで待っていた」
「なぜ待っていたんですか」
「お前がどうしたいかが先だ」
俺は少し考えた。
「試験を受けたいと思います」
「理由は」
「各地を回るには、見習いより資格がある方が動きやすいと思うので。星図師として各地に行けば、工房を訪ねることができる。情報が集めやすくなる」
「それだけか」
「あとは——父さんの工房に、ずっといるわけにはいかないと思っているので」
父が少し黙った。
「お前は出ていくつもりか」
「いつかは。星の消失が各地で起きているなら、各地を自分で確認したい。それには独立するしかない」
「まだ九歳だ」
「知っています。でも早く準備を始めた方がいい」
父が俺を見た。
「……試験を受けろ。俺が推薦状を書く」
「ありがとうございます」
「ただし、試験に受かってもすぐに出るな。もう少し工房で学べ。お前にはまだ実務が足りない」
「はい」
ソーラに相談した。
「試験の範囲を教えてもらえますか」
「どの試験」
「三等師試験」
ソーラが少し驚いた。
「受けるの?」
「はい」
「年齢……」
「特例申請を検討しています」
ソーラが黙った。少し考えた。
「……筆記と実技と口述の三つがある。筆記は星座の位置、航路計算、星図の読み方。実技は実際の観測と星図の作成。口述は試験官との対話」
「どれが一番難しいですか」
「人による。あなたの場合は筆記は問題ないと思う。実技も観測精度はある。口述が難しいかもしれない」
「なぜ」
「試験官は大人だから。七歳が対等に話せると思っているか確認されると思う」
「対等に話す自信はあります」
「そういうことを言うからよ」
試験の準備を始めた。
ソーラが筆記の問題集を貸してくれた。「昔自分が使ったもの」と言って渡してくれた。書き込みがいくつかあって、ソーラがどういう順序で覚えたかが分かった。
実技は毎晩の観測がそのまま練習になる。精度を上げる意識で続けた。
口述は練習しようがなかったから、普段通りに過ごすことにした。
ベルが「試験って難しいですか」と聞いた。
「そうですね。でも俺がやってきたことを確認するだけだと思います」
「受かりますか」
「受かるように準備します」
「受からなかったら?」
「また受ければいい」
ベルが少し笑った。
「レンって余裕あるよね」
「余裕というより、急いでもしかたないことは急がないようにしているだけです」
「それが余裕ってことだと思うけど」
ダンが来たとき「試験受けるって本当か」と聞いた。
「本当です」
「俺と同じ試験か」
「はい」
「七歳で」
「もうすぐ九歳です」
「……十六の俺と九歳のお前が同じ試験を受けるのか」
「ダンが受けるんですか?」
「エッダ師匠が来年受けろって言ってる。準備中」
「では一緒ですね」
「一緒じゃない! いや、一緒なのか……」
ダンが複雑な顔をしていた。困っているわけではないが、何か思うことがあるらしかった。
その夜、記録帳に書いた。
三等師試験を受けることにした。理由:各地を回るための資格として必要。父の推薦状あり。
試験に合格したとしても、すぐにファーレンを出るわけではない。父の工房でもう少し学ぶ必要がある。でも、方向は決めた。
俺はこれまで、記録することを目的としていた。でも、記録するためには範囲を広げなければならない。消えた星はファーレンだけにあるわけではない。
記録を続けるために、動く必要がある。




