表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星図師は空の欠けを知っている  作者: ごま
第一部:工房の空

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/76

第25話 ヴェラ再び

 ヴェラが俺に直接接触してきたのは、ノートが巡回を終えてファーレンを去った翌日だった。

 港の近くで、一人で歩いていた。父はいなかった。

「レン、少し話せる?」

 ヴェラは穏やかに言った。

「何の話ですか」

「工房に行ったとき、ガルト師匠に追い返されてしまって。あなたに直接伝えたいことがあった」

「父が来ない方がいいと言ったなら、それには理由があります。俺も同じことを言います。父のいないところでの話は聞きません」

「そう言うかと思った。でも一つだけ」


 ヴェラが少し声を落とした。

「記録は残さない方がいいこともある、と伝えたかった」

「どういう意味ですか」

「言葉通りの意味。星の記録、消えた星の記録、それを詳細に残していくことで、困る人間がいる」

「困る人間がいることは分かっています。だから俺は記録します」

「危険なことだと分かっている?」

「分かっています」

「本当に? 七歳で分かっていると言っているのか」

「七歳であることと、分かっているかどうかは別です」

 ヴェラが少し黙った。


「ガルト師匠は、あなたに危ない目に遭わせたくないはずだ」

「父の気持ちを代わりに伝えないでください。父から直接聞きます」

「……強い子ね」

「強くはありません。記録を続けることが正しいと思っているだけです」

「記録を続けることで、何かを失う可能性がある。それでも続けるつもり?」

「失う可能性があることと、やめる理由になることは違います。失う可能性があるなら、なくさないように注意しながら続けます」


 ヴェラが俺を見た。

 不思議な目だった。敵意ではない。心配しているような、でも何か別の感情も混ざっているような。

「あなたが記録しているものは、本当に存在する」

 ヴェラが言った。

「知っています」

「そして、それを消そうとしている人たちも、本当に存在する」

「知っています」

「それでも」

「続けます」

 ヴェラが少し息を吐いた。

「……ガルト師匠があなたを私から遠ざけようとする理由は、私が危険な立場にいるからです。私と関わると、あなたも同じ立場に引き込まれる可能性がある。そういう意味で、師匠は正しい」

「ヴェラさんはどういう立場にいるんですか」

「言えない。でも、あなたの記録は価値がある。それだけは伝えたかった」


 ヴェラが去った。

 俺はしばらくその場に立っていた。

 港の風が来た。海の匂いがした。コルダ老人の船が見えた。

 ヴェラは何者なのか。父が知っていて、遠ざけようとしている。でもヴェラは「記録は価値がある」と言った。記録をやめさせようとしているわけではない。

 複雑だ。

 記録帳に書くべきことがある。書き方を考える必要があった。


 工房に戻った。父がいた。

「港でヴェラに会いました」

 父の動きが止まった。

「何を言った」

「記録は残さない方がいいこともある、と言っていました。でも、記録は価値がある、とも言っていました。矛盾しています」

「……そうか」

「父さん、ヴェラは何者ですか」

 ガルトが少し長く黙った。

「……昔、同じ場所にいた人間だ」

「ネベルですか」

「そうだ」

「それ以上は言えませんか」

「今は言えない。お前が大きくなったら話す」

 俺はそれで引き下がった。「今は言えない」は「永遠に言えない」ではない。


 夜の記録帳。

 ヴェラとの接触。「記録は残さない方がいいこともある」「あなたの記録は価値がある」。矛盾する二つの言葉。

 推測欄に書いた。

 ヴェラは記録を消すことを目的とする組織にいるが、個人的には記録の価値を認めている可能性。組織の方針と個人の認識が一致していない状態かもしれない。

 ベルがヴェラに「欠けた感じ」を覚えると言っていた。それがヴェラ自身の性質なのか、ヴェラが関わっている何かの性質なのかは分からない。

 「危険な立場にいる」とヴェラが言った。ヴェラ自身が危険な立場にいる。

 記録帳に書いてから、俺はしばらく考えた。

 ヴェラは敵なのか、そうでないのか。今の段階では判断できない。だから判断しないと書いた。

 判断を保留することも、記録の一部だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ