第97話 アリシア、エヴァちゃんの提案を聴く
≪私の提案する「現在の貴族領とは異なる自治州の在り方」をお聴きください≫
エヴァちゃん堂々の宣言。
今とは違う自治州かー。
教えて教えて?
≪まず初めに、各自治州には、現在の貴族のように独裁的な権限を持つ者を置きません。その代わり複数の代官を置き、自治州内での権限を分散させて担当させます≫
代官?
ということは、誰か別のところで指示をしている人がいるってことだよね? その誰かの考えに従って全自治州が動かされていく? 今よりも王宮からの指令が伝わりやすい環境づくりなのかな。
≪複数の代官を置くことでの懸念として、その自治州において代官が実質的な権限を持ってしまうことが挙げられると思います。そうならないように、主権は住民全員にあり、代官はあくまで中央政府との連絡役、そして自治州内の政治や経済を取りまとめる役割を実行しているだけの人物である、というように見える必要があります≫
ん?
最後のは何?
≪最後の、とはなんでしょうか?≫
いや、「見える」って? 実際にはそうじゃなくても良いって聞こえちゃったんだけど?
≪はい。実際にはそうである必要はありません。今お伝えしているのは、表面上、住民からこう見えると納得感がある、という話なのです。具体的なことはこれからお話しようと思います≫
先走っちゃってごめんね?
続けて?
≪続けます。「見える」ということが重要であるということを補強する手段として、各住民に対して、選挙権を付与します。代官の任期は有期的なものです。仮の期間を2年としておきましょうか。代官は同じ自治州において最大で2期まで期限を延長して活動をすることが可能です。つまり同じ自治州で働けるのは4年間ということです。住民は代官の任期満了時に信任・不信任の投票をすることができます。また代官の期限満了時以外にも、全住民の1/3以上の署名が集まった場合には緊急動議を提出することができ、その場合にも代官の信任・不信任の投票が行われることになります≫
代官は中央政府的なところから派遣されてくるけれど、住民側はその人に対して選挙権を行使して拒否することも可能ってことなのね。
それなら住民も納得しやすい、のかな?
≪住民たちに不満が溜まりにくい制度を用意しておく。これがもっとも重要なことだと考えています≫
選挙制度は良さそうに感じるかなー。
そうなってくると気になるのは、この代官制度自体に対する納得感かな。今の貴族制とは違うよ、というのをどう伝えるかは、今の説明だけでは弱いよね。誰が、どういうふうに運営していくから今よりも良くなります。安心してください。って流れに持っていかないと民衆は乗ってきてくれないよね。
≪そこはスミナルド陛下が描いたシナリオの通りに進めるのが良いと思いますよ≫
スミナルド陛下が描いたシナリオ?
わたしが代弁した、民衆を煽って君主制の廃止と貴族の特権をとりあげるってやつ? じゃあエヴァちゃんが「代官」って呼んでいるのは、今の貴族じゃないんだ?
≪はい、そうです。完璧なシナリオですね≫
ん、んんー?
ねぇ……まさかと思うけど……。
あのシナリオって、裏でエヴァちゃんが作ったの……?
≪ふふん♪≫
ふふん、じゃないよ。
その顔はそうなのね……。
なんかこう、話がスッと入ってくるなーと思ったんだよね。それならそうと先に言っておいてよ……。
≪アリシアが得意顔でドリーちゃんに説明をしていたので、かわいいなと思いながら見つめていました≫
めっちゃくちゃ恥ずかしいわ!
スミナルド陛下のお考えを完璧に理解したぞーと思っていた純粋なわたしの気持ちを返して!
≪アリシア、かわいいぞ~! アリシア、愛してるぞ~!≫
うっせーわ!
えっ、じゃあ何?
スミナルド陛下が王位を退いて、その後釜としてスレッドリーにその役割を担わせようってこと? 民衆を煽って君主制を終わりにして、貴族の特権も取り上げて、スレッドリーを中央政府の顔として立たせる。
≪はい。私がそのシナリオを描きました≫
そしてわたしが裏からいろいろと助力をしちゃった感じに。
じゃあつまり、そのシナリオを実際に実行するのはわたし……。
≪そうです。もちろん、ラダリィさんやナタヌさん、ラッシュさんにも働いていただきます≫
そんな理想的にうまくいくと思う?
流れはね、ツッコミどころもなくて良いとは思うんだけど、実際問題シミュレーション通りに民衆を扇動できるのかなって。それに貴族たちの反発って予想以上にとんでもないものになったりしないかな? 結局のところ、スレッドリーが立ったとしても、新政府を打倒しようって動きになりそうな気がしているんだけど……。
≪アリシア、大事なことを忘れていませんか?≫
大事なこと? なんだろ……。
≪アリシアには私、完璧なる存在のエヴァがついているのですよ≫
エヴァちゃん。
完璧なる存在……ね。
≪すでに不可視の端末も含め、エヴァシリーズがパストルラン王国全土を掌握しているも同然なのです。つまり、この国はすでにアリシアのものなのですよ≫
またそうやって先走っていろいろ勝手に暗躍して……。
≪それともう1つ≫
まだ何かやらかしているの?
≪各自治州に派遣される代官はすべて私です≫
……はぁ?




