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第85話 アリシア、運命の女神様になる?

「『王を倒そう。君主制を廃止しよう。……そして、王も貴族もない、真に平等な世界を作ろう』ってね」


 これが最後の仕掛けね。


「民意は完全に傾いているから、もう『打倒・君主制』の流れは止まらない。あとはそこに『すべての人が平等な世界』という平民たちの理想を乗っけるだけ。もうここまで来たら、あとはみんなの想いが膨れ上がるのをただ見つめていれば良いってかんじかな。貴族たちが本気で待ったをかけたとしても、民衆の動きは止められないだろうからね」


 最後の最後に強いのは、やっぱり数の暴力だから。

 

「そして、王国は滅び、貴族は特権階級を失うことになるのでした、と。めでたしめでたし」


「なるほどな……」


 スレッドリーにも理解できたかな?


「アリシア=グリーン、説明をありがとう。まさに私の想い描いたシナリオの通りだよ」


「それは良かったです」


 エヴァちゃんをキーマンとして登場させることによって、実現可能性を高めるアレンジを加えてみましたよ、と。


≪私はマンではなくロボです。キーロボに訂正してください≫


 細かいな……。

 キーマンって、別に男って意味じゃないよ?

 まあ、キーロボね、はいはい、キーロボキーロボ。


「しかし、わからないことがある。王がいなくなり、貴族がいなくなり、皆が平等になったとして、その後どうするんだ? 誰も命じる者がいなくなったら混乱しないか?」


 スレッドリーが眉根を寄せて険しい表情を見せる。


「だーかーらー、それをスレッドリーがやるってことでしょ!」


「俺か? 何をだ?」


 ちょっとー。

 今まで何の話をしてきたと思っているのさ? 大前提を理解できてなかったってわけ?


「スレッドリー。お前が民衆を率いる勇者となれ」


 そう。

 スミナルド陛下は最初からそれをおっしゃっていたでしょ。


「勇者……とはなんだ?」


 王ではなく、民意によって後押しされた新しい形のリーダー。

 それが勇者のあるべき姿。


「たくさんの人の心を動かす中心人物のことだよ。王族という身分ではなくて、スレッドリーという個人に期待して、民衆は自分たちの運命を預け、スレッドリーの背中を追うようにして共に戦うことになるの。そして民衆の後押しを受けたスレッドリーは、君主制を廃し、貴族の特権を廃し、全国民を平等な立場へと導く英雄となる。それが勇者の正体」


「俺がか……? 今の話だと、俺個人にできることは少なそうに思えるが……」


 怖気づいているの?


「個人で何でもやれなんて言ってないでしょ。みんなが一丸となって動くには、わかりやすいシンボルが必要なの。そのシンボルがスレッドリーなんだよ。裏表がなくてまっすぐで、バカみたいに民衆の味方ができる人物。この国中探しても、この役はスレッドリーくらいにしかできないだろうね」


「俺は褒められている……のか?」


「褒めてるでしょ? 何か気に入らなかった?」


「いや……バカと言われたから……」


≪それはアリシアの照れが込められた言葉です。裏を返すと『好き』と書かれています。逃げられないようにそっとめくってみてください。良かったですね。勇者ドリーちゃん≫


「ちょっと! 適当な解説つけないで! そんな裏はないからね⁉」


 こら、スレッドリー! そういうのだけすぐに信じるのはやめなさいよ!

 顔がにやけ切ってキモイぞ!


「アリシア=グリーン……スレッドリーのことを、我が弟のことを頼む」


「えっ? あ、はい」


 ちょっとスミナルド陛下⁉

 なんで頭を下げるんですか⁉

 わたしなんかに頭を下げても何も得しませんよ⁉


「私はな……所詮、勇者の器ではなかったのだよ」


 頭を上げたスミナルド陛下は、どこか淋しそうに微笑んでいらっしゃった。


「もう何年もの間、父上と2人、水面下でこの計画を進めてきていたのだが……私には自分が民意を動かしているイメージが持てずにいた。口には出されなかったが、父上も同じように考えていたのだろうと思う」


 そっか。

 この計画には前国王のストラルド様も噛んでいらっしゃったのね。

 ストラルド様はもともとご自分が倒されるつもりで……。


「ある日、父上がな、子どものように顔を綻ばせてこう言ったんだ。『この国を変えることができる人物を見つけた』とな」


 その話の流れでわたしのほうを見ないでくださいますか……?

 えー、ウソでしょ……。

 わたし、そんな大それた人物じゃないですって!


「既成概念にとらわれず、非凡な才能を持ち、女神たちの寵愛を受け、ノーアに認められながらも、野心的ではない人物」


 何その完璧超人の人……。

 わたしとはかけ離れた人ですね……?


「そしてそれは、幼きスレッドリーが一目惚れした人物でもあった」


「うむ。俺はアリシアのことだけを見てきたからな。アリシアは俺の目標だ」


 そこでスレッドリーがドヤ顔すんな!


「聴けば聴くほど、私はスレッドリーがうらやましく思えたよ。そして、それと同時に、私は自分自身が運命の女神には選ばれなかったのだということを理解したよ」


 運命の女神様……?

 そんな女神様いらっしゃったっけ?


「私がアリシア=グリーンのような人物と出逢うことができていたら……。いや、それは今考えても仕方がないことだな。もし私の目の前にアリシア=グリーンがいたとしても、私が選ばれることはなかったのだろう。運命とはそういうものなのだと思っている」


 達観していらっしゃる……というか……なぜそんなにご自分を卑下されるのかな……。

 

「運命の女神に選ばれたのはお前だ、スレッドリー。アリシア=グリーンは、世界を動かす力を持っている。決してその手を離すな」


 買いかぶり過ぎですって……。

 え、今手を繋ぐの?

 ちょっと緊張して汗が……スレッドリーの手もしっとりしていたわ。それなら、まあいっか。


 わたし、とうとう運命の女神様扱いされちゃったよ……。

 どうすれば良いのよ……。


 助けて! 本物の女神様たち!


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