第84話 アリシア、実現可能な案を提示する
「最初は貴族たちの思い通りに動いている振りをする……か」
「ああ、そうだ。アリシア=グリーン、さすが理解が早いな」
スミナルド陛下が、即座にわたしの呟きに反応する。
「つまり、どういうことだ……?」
スレッドリーは理解できていなさそう。
じゃあもう少し、わかりやすく説明するね。
「貴族たちが求めるのは、『スミナルド陛下の排除』なのよ。思惑はそれぞれ違うと思うけれど、主だった目的は『悪法を発令したスミナルド陛下を止めたい』とか、『スミナルド陛下がいなくなれば自分の権力が大きくなる』とかかな?」
要するに、スミナルド陛下が邪魔なのね。
「そこに、1つ乗っける。『君主制の廃止』ってやつをね」
「兄上の排除だけではダメなのか?」
「ダメじゃないよ。それだけで貴族たちの望みは達成するからね。でも、それだけで終わっちゃうと、国は変わらない。次の王が立つだけだから」
それだと、貴族たちの望みを叶えるだけになっちゃう。
「必要なのは、『貴族たちの側に立っていますよー。あなたたちの味方ですよー』って、見せかけておいて、気づかれないように仕掛けをすること。『スミナルド陛下を排除するだけでは温い! 王という概念自体が悪なのだ!』ってね」
「貴族たちの望みは叶えているから、反対は出にくいというわけか……」
「そう。なんなら『君主制を廃止』することで、もっと甘い汁を吸えるかもしれない。そういう匂わせをすると、より貴族たちの協力を取り付けやすいかもね」
これからは王に成り代わり、我々貴族が支配する時代がくるのだー。領主としての領地経営のノウハウがあるほうが、より国をうまく運営できるのだー。みたいな?
デメリットがなさそうに聞こえるし、不満を持っている貴族たちはおそらく話に乗ってくると思う。でも、この話に乗ってくる貴族の割合がどれくらいかはわからないから、詳しい事前調査は必要かな。
「というわけでエヴァちゃん。全国に散らばる全貴族のリスト作成をお願いできる?」
≪Yes, My Lady. すぐに用意可能です≫
「ありがとう。あとは正確な島の地図をお願い。そこに貴族のデータを書き込んでいって。各貴族の領地の有無、現状での新法に対するスタンスと、王家への忠誠度合いを可視化したいかな」
≪可能です≫
「スレッドリーやお姉さま方、微力ながらわたしのコネも使って、浮動票をこっちに抱き込む算段を取りたいね。期待値を算出してちょうだい。できるだけ『君主制を廃止』が実現可能な魅力的な案のように見せかけたいかな。見せかけの数値もプラスして8割の支持は集めておきたい」
「見せかけ、とはどういうことだ?」
「うん。ホントに騙して動かしたいのは、王家に不満を持っている貴族たちだからね。わたしたちのコネで動かせる貴族たちには、『君主制を廃止』に賛成した振りをしてもらうって感じかな。その気運が高まっていると思わせるためには、そこかしこで声が上がらないと難しいからね」
「そういうことか。実際に俺に『君主制を廃止』する気持ちがなくても良いわけだな?」
「まあそうね、そうなる……かな」
でも、まあ、気持ちがなくてもそうするしかないんだけどね……。
それはスミナルド陛下がおっしゃった通り。
もう止められないことだから、煽りに煽ってそれを積極的に利用するしかないんだと思う。
「でも『君主制の廃止』だけだとダメなのよ。『貴族階級の廃止』をして身分制度をなくし、国民に主権のある『法治国家』に生まれ変わらないといけないから」
「それに賛成する貴族はほとんどいないんじゃないか?」
鋭い。
「そうね。現時点ではいないと思うよ。わたしだって、別に賛成ってわけじゃないからね。あくまで、陛下のお考えを実現するならこうするって話をしているだけだから、勘違いしないで」
「おう、わかった。話を聞かせてくれ」
聞き分けが良くて助かります。
「『君主制の廃止』に8割以上の貴族が賛成する状態になったら、次の段階へ。次は民衆を煽ることに注力するのね。8割の貴族たちの権威を使って一気にって感じかな。『自分たちを苦しめる王を倒すぞ』って」
どれだけ大げさに騒げるか。
短期間に民衆の空気を変えられるか。
「民衆の扇動は、やっぱりエヴァシリーズを中心に行うことになると思う。でもそれは各領地の貴族たちがバックについているって前提になるけれどね」
≪可能です。必要に応じて『交渉』スキル『誘因』スキル、そして『常識改変』スキルを使用します≫
可能な限り友好的なスタンスを取りつつ、民衆たちの心の隙間に入り込んで、明るい未来が待っていると信じ込ませる。
ダメなら、まあ、ピンポイントで『常識改変』しちゃえば……ってちょっと強引だとは思うけれど、エヴァちゃんならやり遂げられるだろうね。
「ここからが、この案の肝とも言うべき行動よ。全貴族、全国民を騙す大芝居を打つ場面ね」
貴族たちを躍らせ、民衆を味方につけることができたら、あとは仕上げに取り掛かる。
「もう民衆の動きが止められない。『打倒・君主制』の気運が最高潮に達した時、最後の仕掛けを打つのよ」
「最後の仕掛けとはなんだ……?」
「『王を倒そう。君主制を廃止しよう。……そして、王も貴族もない、真に平等な世界を作ろう』ってね」




