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第83話 アリシア、意見を求められる

「ところでアリシア=グリーン」


 スミナルド陛下が急にわたしに声をかけてきた。


「はひ⁉」


 びっくりした……。

 エヴァちゃんとふざけていたんじゃないの?

 急に話しかけるから、紅茶で舌をヤケドしたんですけど⁉


「私の考えはどう思うかな? アリシア=グリーンの意見を訊きたいのだよ」


「意見、ですか……」


 今のコントの話じゃなくて、さっきのあれのことですよね……。


 『君主制の廃止』と『貴族階級の廃止』。

 

「うーん。正直わからないですね……」


 もちろん言いたいことはいっぱいあるけれど、そうした時にどうなるかがまだよくわからない。メリットもデメリットもあるだろうなっていうのと……。


「進めるなら、内乱は避けられないでしょうね……」


 今が最高ってわけじゃないでしょうけど、これだけ大きく国の在り方を変えようとしたら、絶対反発は起きる。それも小さくない反発がね。


 スミナルド陛下はティーカップに口をつけてから目をつぶった。

 

「そうだな。戦いは避けられないかもしれない。しかし、できうる限り最小限にする努力はしたいと思っているよ。うん、エヴァの淹れてくれるお茶はいつもおいしいな。最高の秘書だよ」


≪照れます。でもこの体はアリシアのものなので、夜伽の打診はご遠慮願います≫


「また振られてしまったな。仕方ない。次の機会に」


≪挑戦をお待ちしております≫


 いや……わたし、けっこうまじめな話をしているつもりなんですけど……2人ともまだふざけてます?


「君主制の廃止をスムーズに進めるためのカギとなるのは、スレッドリー、お前だ」


 えー、また急にシリアス方面に極振りしてくるの?

 陛下のお考えが読めない……。


「俺は兄上の敵になるつもりはない」


「お前にその気がなくても、そうなるんだよ」


「俺はならない!」


「そう頑なになるな。いいか、順を追って話すからよく聴け。私は民の敵になるのだ。まずは私軍の解体命令により、貴族たちを敵に回した。だから暗殺計画が動き出している」


 それはそう。

 貴族たちはこれまで認められていた特権を取り上げられ、間違いなく反発意識を持ったはず。

 この新法は、大きな領地を持っている貴族ほど、受ける影響は大きいのだと思う。もしプラスの感情を持つ貴族がいるとしたら、もともと資金難などの理由で、私兵を雇用できていない貴族の方? 文字通り受け取れば、私兵を持たずに王立ギルドに支援をお願いできる、ともとれるわけだし。まあでもそういう貴族は少なそう。

 おそらく、力のある貴族の誰かが中心となって、暗殺計画を主導しているんだろうね。もしかしたら、もともと王家に反発する勢力が間に入ったかもしれない。どちらにしても、これは大きなうねりとなって、王都に迫ってくる。それは間違いなさそう。


「暗殺計画が成功しても失敗しても、治安は悪化していくだろう。そうなると民にも被害が及んでくる。経済にも影響が出て、飢える者が増えるだろう。そうなると、いよいよ貴族たちが声を上げ始める。『愚王の愚策だ』と」


 暗殺計画が失敗したら、その時点で王様はいなくなっちゃうんだけど……。

 そうなると今度は、「次の王はどうするのか」問題で混乱しそうよね。

 スミナルド陛下の息子、まだ幼い第1王子を国王に据えて、誰が実権を握るのか、とか?


「スレッドリー。お前個人が私の敵になるつもりがなくとも、私は国民の敵となったのだ。もう計画は動き出した。これは決定事項なのだよ」


「兄上……」


 もう止まれない。

 今から新法廃止を宣言しても、「じゃあ暗殺はなしね」とはならないところまで来てしまっているのだと思う。だから、「暗殺計画が成功しても失敗しても、治安は悪化していく」か……。


「暗殺計画にお前が参加するかどうかはどちらでも良い。お前の心に相談し、好きにすると良い。だがな、その後、貴族たちが声をあげ、表立って王家を糾弾し始めた時、必ずお前は立ち上がらなければいけない。先頭に立ち、『君主制の廃止』を声高らかに宣言しろ」


 そうして、スミナルド陛下の『敵』となり、民の『英雄』となれ、か。


「この先、この国に王という絶対的な存在は不要だが、民には縋る存在、民を導く存在が必要なんだ」


「それは兄上だろう! 俺のもっとも尊敬する兄上こそが、民の上に立つべき存在だろう!」


「お前はこんな私でも尊敬してくれるのか。ありがとう……」


 涙ぐんでいらっしゃる?

 気丈に振舞っているようで、ずいぶん追い詰められて……まあそれは当たり前か。自らの立場を捨てて、命も投げうって国を変えようとしているのに、精神が穏やかなわけないよね。


「私は王位に就いてしまった。だからこの国の王なのだよ。今さら、王でなくなることはできない。父上があと5年……3年存命なら、この計画も……」


 ああ、そうか。

 スミナルド陛下は以前からこの計画を……。

 そして最初から自分がこうなるつもりなんてなかったんだ。


「なあ、王位はそのままに、貴族階級だけを廃止するわけにはいかないのか? それで民の不平等はなくなるんじゃないか?」


 スレッドリーが言う。


「残念ながらそうはならないのだよ」


 スミナルド陛下が小さく首を振った。


「仮に王が命令を下し、貴族階級を廃止する。力によってねじ伏せればそれは一時的には可能だろう。そして君主制は残り、民を支配し続ける。そうなった時、特権を取り上げられた貴族たちはどうなると思う?」


「……反発するだろうな」


「それだけで済めば良いが、おそらくはそうならない」


「なぜだ?」


「貴族階級を廃止する際に、すべての財産を没収し、極刑にでもしない限り、貴族たちの影響力はなくならないのだよ。貴族でなくなったとしても、民たちに影響を及ぼし続けることは想像に難くない」


 領地を治めるという義務もなくなり、余計に事態は悪化するかもしれないね。

 

「だからこそ、お前が『君主制の廃止』を民に訴えるのだ。まずは貴族たちの支持を得る。それからその貴族たちの力を使って民衆を味方につけろ。そして民衆を味方につけた後、『すべての民を平等に。富の再分配を』宣言するのだ」


 ああ、そういうことか。

 やっとスミナルド陛下の計画の全貌が見えた、気がする!


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