第78話 アリシア、兄弟のプライベートな会話を盗み聞きする
謁見の間。
玉座にはスミナルド陛下のお姿が。
見える見える!
エヴァちゃんナイス。とってもクリアに映像が見えていますよー。
「兄上、いや、陛下。本日は貴重なお時間をいただき誠に感謝いたします」
スレッドリーが跪いて口上を述べる。
「良い。私とお前の間に、そういった儀礼的な挨拶はいらないよ。顔も上げてくれないか」
スミナルド陛下はとても物腰柔らかな態度だった。
だけどスレッドリーはまだ顔をあげない。
「兄弟のプライベートな時間を、と指示したのに、こんな場所をあてがわれるとはな……。大臣たちは堅苦しくていけない」
スミナルド陛下は玉座から立ち上がり、伸びをしはじめた。
「おいおい、どうしたスレッドリー。まさかお前まで私に堅苦しさを求めるのか? 兄弟の間にそのような壁を作るために王位を継いだわけではないんだがな」
スミナルド陛下は冗談交じりに笑いながら、玉座のひじ掛けをコツコツと叩いた。
「もう一度言う。スレッドリー、顔をあげろ」
底冷えするような声。
非常に威圧的で……この人、こんな顔をするんだ……。
「わかりました。これでよろしいですか?」
スレッドリーは跪いたまま、顔だけをあげてスミナルド陛下のほうに視線を向けた。
その顔は無表情。
あくまで敬語を崩さない。
「数日振りに帰ってきたと思ったら、そんな深刻ぶった顔をしてどうしたんだ? 路銀でも尽きたか? わざわざ自ら来ずとも、使いを寄越してくれればいくらでも用立てしたものを」
「いいえ。俺も公爵を賜った身です。これ以上、兄上に資金援助を求めるつもりはありません。自分自身の手で領地を開拓、経営し生活するつもりです」
スレッドリーの言葉を聞き、スミナルド陛下が破顔する。
「さすが我が弟だ。彼の地の復興は我が国にとって大きな課題の1つだからな。信頼のおけるお前が成し遂げてくれれば、未来は盤石なものとなるだろうよ。頼むぞ、な」
わざわざ玉座から続く階段を降りていき、スレッドリーの肩に手を乗せた。
「はい。もちろんです。俺には信頼のおける仲間もおりますし、必ずや『アンタロスフィア』の地に人々の笑顔を取り戻してお見せしましょう」
何この会話……。
これが兄弟のプライベートな会話だって言えるの?
ストラルド様の葬儀の時には、もうちょっと仲良さそうじゃなかったっけ? まるで貴族同士の腹の探り合い……。
≪お2人はまさに腹の探り合いをされていますし、今見えている通りなのではないかと思います≫
そっか……。
王族って兄弟同士でもこんなになっちゃうのね……。
でもそれって王族だからなのかな……。背負っているものが大きいからこうなっちゃうのかな?
そんな中、先に動いたのはスレッドリーだった。
「兄上、単刀直入に言う」
肩に乗せられた手を払いのけて立ち上がる。
「そうだな。本題に入ってくれ。私はお前のそれを聴くために時間を作ったんだよ」
スミナルド陛下はさして気にした様子も見せなかった。
スレッドリーは引き続き厳しい表情のまま、小さく頷いた。
「ああ。では遠慮なく言わせていただく。今城下で、兄上はご自身が何と呼ばれているかご存じか?」
正面から切り込んだね……。
素直に知っていると答えるのか、それともとぼけるのか。
「『見掛け倒し』『稀に見る暗君』『顔だけの狂人』だったか? ほかにもおもしろいものがあったかな?」
スミナルド陛下はあごを撫で、うっすらと笑みを浮かべた。
「ご存じなのだな。ではなぜ――」
「待て、スレッドリー」
畳みかけるように話し始めようとするスレッドリーを押しとどめる。
「もちろん知っている。今何が起きているのか、これから何が起きようとしているのかもな」
「兄上! わかっているならこんなバカげたことはすぐに止めるべきだ! なぜ民を締め付けるんだ!」
スレッドリーが吼えた。
「渋々兄上の言葉に従った貴族たちの領地が今どうなっているかご存じか? 軍が解体され、多くの失業者を出している。路頭に迷ってそのまま野盗になった者たちも少なくない。治安は悪化の一途をたどっているんだ」
「だからなんだというのだ?」
スレッドリーが国民の魂の叫びを代弁した。
それに対して、スミナルド陛下は今なんて言った?
だからなんだ、と。
まるで取るに足りない、些末なことであるかのように。
「兄上……。民は苦しんでいる。なぜだかわかるか⁉」
「もちろんわかっているよ」
「兄上が発令した新法のせいだ! あれはすぐに取り下げるべきだ!」
そうだそうだ!
取り下げろー!
そして国民にごめんなさいをしろー!
「お前はそんなことをわざわざ言いに来たのか?」
「ああ。それと……兄上を暗殺しようという動きが活発化している。今すぐに手を打たないと取り返しのつかないことになる!」
スミナルド陛下の出方によっては、わたしたちがどっちに着くか、まだわかりませんからね⁉
「くだらん……。お前は本当に浅いんだな……。もう少し深い理解をしていると思っていた。……正直、失望したよ」
スミナルド陛下はスレッドリーのことを一瞥すると、完全に背を向けて、玉座へと戻っていく。
失望……?
何を言っているの⁉
まさかスレッドリーが自分の言うことを聞かないから?
ホントに暗君なの……?
こんな人がストラルド様の後継者だったなんて……。




