第77話 アリシア、ミィちゃんに尋ねる
王宮前。
わたしはスレッドリーの見送りにやってきていた。
ステファンはお休み中。まあ、聞き込み調査ではだいぶがんばってくれたからね。ずっと人の感情のオーラを見てくれていたみたいだし。
「では行ってくる。吉報を待っていてくれ」
スレッドリーはにこやかに微笑むと、力強く拳を握ってみせた。
うん、まあ大丈夫そうだね。
気合いが入り過ぎって感じでもないし、適度にリラックスはしている、かな?
「……悔いのないようにね」
こういう時にはどんな言葉を掛けるのが正しいんだろうね。「がんばれ」とも、「無理はしないで」とも言えないし。
スレッドリーの顔が引き締まる。口を真一文字に結び、無言のまま頷いてから、わたしたちに背を向けて歩き出した。護衛の兵士たちと一緒に、王宮の城門の中へと消えていく。
≪あとは私にお任せください≫
頼んだよ、エヴァちゃん。
スレッドリーの影に潜んでいるエヴァちゃん(お庭番)からの脳内通信だ。
感度良好。
あとはエヴァちゃん(お庭番)と視界を共有してもらって、プライベートな会見の様子を盗み見ようってわけ。
展開がマズそうだったら……。
ホントのホントにスレッドリーの命にかかわるような事態になりそうなら……。
わたしは躊躇なく動くよ。
≪その時は、女王・アリシアの誕生ですね≫
茶化さないで。
そういうことじゃないから。
≪愛、ですね≫
そういうことでもないってば。
スレッドリーは大切な仲間なの。わたしにとっては国なんかよりもね。
≪アリシア、それを愛と言うんですよ≫
えー……うーん。そうなのかなー。
≪何も愛というのは、恋愛だけに使う言葉ではありません。アリシアの心の中に大きく灯るその想いこそが『愛』なのですよ≫
そうなのかー。
なんかさ、エヴァちゃんって、ちょっとミィちゃんみたいになってきたよね。最近説教臭いし、愛のことばっかり言ってくるし?
≪ありがとうございます≫
なんで今お礼を言ったの?
『エヴァの成長はアリシアの成長でもあるのです』
あ、噂をすればミィちゃんだ。おはようございます!
『はい、おはようございます』
≪おはようございます。ミィシェリア様≫
『おはようございます。エヴァも挨拶ができてえらいですね』
ところで、エヴァちゃんの成長がわたしの成長ってどういう意味?
一心同体だから?
≪二心同体です≫
それはあの時だけ! 今は体も別でしょ!
『エヴァはアリシアの知識、そして経験を吸収して成長しているのです。アリシアがいろいろなものを見聞きし、実際に経験をしなければ成長することはできないのですよ』
≪なのですよ≫
そういうものなの?
なんかもう、わたしの知らないところでいろいろな街や村や、異空間にまで出向いて並行稼働しているけれど? それって勝手に経験して勝手に成長してない?
『そのエヴァの経験は、こうしていろいろな形でアリシアに還元されているでしょう? お互いに刺激し合いながら成長していく。これも1つの愛の形なのですよ』
≪なのですよ≫
エヴァちゃんさ、そのエアドヤ顔、ちょっとウザいよ?
良いことを言っているのはミィちゃんだからね?
それにしても、愛ねぇ。
まあ、エヴァちゃんのことは大事だけど、これも愛ってことなのかな?
『すべては愛です。愛し愛されることで人は生きることができるのですよ』
愛の女神様っぽいなー。
ミィちゃん以外の誰かが言ったら、すごく胡散臭いと思うけれど、ミィちゃんだしなー。
ねぇ、ミィちゃん。
『なんでしょうか?』
今回のことはどう思っているの?
『今回のこととはなんでしょうか?』
とぼけないで。
国の一大事でしょ。
このままだとスミナルド陛下が暗殺されちゃうよ? それで良いの?
『それが良いのかどうかを見極めるため、これから話し合いが行われるのではないですか?』
そうなんだけどさー。
女神様たちはどう思っているのかなって。
スミナルド陛下に何か助言したりしないの?
『もしそれをおこなうとしたら、スークルの役目ですね。私ではありません』
んー、なんか冷たくない?
スミナルド陛下がスーちゃんの信徒だから?
『もちろんそれもありますが、私は愛の女神で、スークルは戦いの女神だから、というのが答えになるでしょうか?』
やっぱりこの話し合いの後に、戦いが待っていると思っているの?
避けられないのかな?
『それは私が述べるべきことではありません』
うー、いじわる!
良いもん。スーちゃんに直接訊くから!
お義姉ちゃーん! 教えてお義姉ちゃーん!
うわっ、無視だ!
なんでよ⁉
『スークルは今、スミナルド陛下とともにあるからではないでしょうか』
こっちにも顔を出してくれたって良いじゃない。
女神様は並行稼働できるんでしょ?
『あえてそれをしない、とは考えられませんか?』
わたしとは話をしたくないってこと?
『そうではなく、2人の話し合いを見守ってはどうか、というメッセージではないでしょうか』
うーん。
わたしが外野からとやかく言うなってこと、なのね……。
これはスレッドリーが始めたことだから、わたしはそれを助けるって決めただけだから……。
任せるしかない、か……。
わかりました!
最後まで見守ります!
『よくできました。この話し合いの結果、何が起ころうとも、私はすべての民を愛しています。それが私の答えです』
ミィちゃんらしい……かな。
≪アリシア、始まります≫
うん……。
スレッドリー、悔いのないようにね!
わたしが後ろで見守っているから! 絶対大丈夫だから!




