第66話 アリシア、≪シガーソケット≫の暗殺計画を知る
「それでラッシュさんとエイミーンさんは暗殺集団≪シガーソケット≫の一員として暮らしていて、今日に至るって感じなのかな?」
≪そうです。エイミーンさんは主に昼間活動し、夜早く寝る生活をされています≫
「エイミーンさんは変わってないねー。夜の暗殺は眠くなっちゃうから無理だもんねー。相変わらずかわいくって安心する♡」
ナタヌの表情が険しく……かわいいってそういう意味じゃなくて、一般的な感想だからね?
「ラッシュはどうしているんだ? ラッシュは夜早く寝たりはしないだろう……」
スレッドリーが訊きたいことの意味はわかる。
≪シガーソケット≫の真の活動時間は深夜だ。その時間に起きているラッシュさんは、暗殺業にも参加しているのか、と。
≪現在のところ、ラッシュさんが実行部隊として帯同することはありません。そういった意味ではご安心ください≫
「そうか……それは良かった……」
スレッドリーが胸をなでおろす。
直接、暗殺稼業に手を染めていないのはギリギリ良かった、と思う。
でもエヴァちゃん、「そういった意味では」ってどういう意味?
≪ラッシュさんは、『王都の事情に詳しい専門家』として、≪シガーソケット≫に迎え入れられたことになっています。『常識改変』をする際、彼らの求めるものを調べたところ、そういう流れになったのです≫
「なるほど……。それで≪シガーソケット≫はラッシュさんに何をさせようとしているの?」
王都の何の事情を、何の目的で欲しているの?
≪『スミナルド陛下暗殺計画』です≫
「マジで……」
まさかの国家転覆を企てようとしていた……。
さすがにそれは予想していなかったわ。
みんなも驚き過ぎて、声も出せないみたい。
ナタヌは目を丸くし、ラダリィは神妙な顔をし、スレッドリーは怒りをあらわにしていた。
「でもなんで暗殺集団がスミナルド陛下を狙うのかな? こんなことを言ったらあれかもしれないけれど、何でこのタイミングなのかなって……」
前国王・ストラルド様の時ではなく、新国王・スミナルド陛下が即位なされたばかりのこのタイミングで、『国王暗殺計画』なんてものが持ち上がってきたのか、すごく引っ掛かる。
「もしかして、前々から計画があって、たまたま……って言って良いのかわからないけれど、計画策定中に国王様が変わった、とか?」
≪いいえ。スミナルド陛下即位後に計画が立案されていますので、それはありません≫
「そうなりますと『国家転覆』を謀っているというよりも、スミナルド陛下個人を狙った計画である、そう考えるのが自然ですが、いかがでしょうか?」
ラダリィによる鋭い指摘。
時系列的にいって、そう考えるのが自然ですよね……。
そして次に湧いてくる疑問は、『なぜスミナルド陛下を狙うのか?』ってことだけど。
≪スミナルド陛下の掲げられた『清く正しい国家運営』という方針が各方面で物議を醸しだしていることはご存じでしょうか?≫
「ぜんぜん知らない。どういうことなの?」
「私も王宮にいればそういった情報は入ってきていたのですが、現在は……」
ラダリィが悔しそうな表情をする。
今は完全にスレッドリー付きになっていて王都から離れてしまっているし、王宮内の情報ネットワーク外にいるもんね。情報に疎くなるといろいろ取り残されちゃうな……。
≪パストルラン王国全土に対して発布されたいくつかの新法があるのですが、その中に『私設軍隊、および武装集団の即時解体を命ずる。非正規軍隊の結成はいかなる理由があっても許可はせず、軍事行動の一切は王直轄の正規軍、またはその指示を受けた王立ギルドのみが行うものとする』というものがあります≫
「おー、だいぶ思い切っているね。ここで言う軍事行動ってどこまでの範囲何だろう?」
≪2人以上が集まり武器を携帯することを軍事行動として定義しているようです≫
「だいぶ厳しいルール! そうなると、貴族がそれぞれの領地の警備を行うことも許されないって感じなのかな?」
≪はい、必要に応じて正規軍の派遣を要請するか、非戦闘員で構成された警備隊を結成するしかありません≫
「正規軍の派遣は面倒だよねぇ。正当な理由として認められるのかわからないし。非戦闘員の警備隊? それってなんか役に立つの? それこそ戦闘力のないラダリィみたいなもの?」
お城の管理運営業務だけをするメイドさんの集団、みたいな?
「私は手刀でも武装勢力を制圧できるように訓練されていますが」
うん、わたしもできるけれど、たぶんこの新法が意図しているのって、そういうことではないと思うんだ。
「んー、だいぶ平和な国だし、それでも良いのかなー? そんなに武力による解決が必要な案件も少ないって考えれば、新法もアリな気がしないでもないけれど……」
≪前国王・ストラルド様が在位なされていた時代も、その前の時代も、表向きには内乱などはなく平和だったという記録が残っています。しかしそれは表向きなのです≫
「実際は違った、と?」
≪内乱、と呼べないほどの小競り合いは、そこかしこで起こっています。この国には、人族以外にも複数の種族が暮らしており、文化や習慣の違う集団が複数あれば、多少の小競り合いがあるのはごく自然なことです。また、各地で大規模な魔物の群れが出現することも珍しくありません。それらの解決にあたっていたのが、各領主たちが管理する私設軍隊であり、ギルドであり、非認可の武装集団でした≫
そうだよね。
軍事行動って一口に言っても、いろいろな系統があるもんね。魔物の討伐もここに入るのかー。
「この中で残るのは王立ギルドだけ、か。さすがに全部にギルドだけで対応するのは無理だね。各街でギルドの大きさはまちまちだし、登録しているギルド員の戦闘力にもムラがあるだろうし」
≪今回の『スミナルド陛下暗殺計画』は≪シガーソケット≫が怒りに任せて単独で計画しているものではありません。複数の貴族たちや武装集団が絡んでいる用意周到なものなのです≫
いやー、聞けば聞くほどヤバいね……。
もはや暗殺ってレベルに聞こえないわ。
クーデター?




