第四話 あれから1年
3ヶ月ほど経った頃ようやく、目が見えてきました。どうやら、目が見えなかったのは、病気とか失明とかではなく、赤ん坊でまだ目が発達していなかったからのようです。
目が見えます。見えるんです。こんなにも違うのですね。前世では、失明しても何ら問題はなかったのです。回復魔法がありましたし。時折、五感を封印魔法で封じてくる者もいましたが、それでも数日程度でした。
目が見えるようになった当初は柄にもなくはしゃぎました。最高にハイになってましたね。
はじめは、いろいろ大変だった。目が見えるようになったから、本でも読もうかと思ったが、身体が動かない良くてハイハイが関の山だ。
目が見えるようになって、言語も音だけはある程度覚えた。
そうして、わかったことがある。ここはどうやら孤児院のようだ。今思い返すと、あのときの二人は、ここの孤児院の院長だったようだ。もう一人はよくわからなかったが孤児院の職員とかだろう。
生後半年の頃には歩くことも、話すこともできるようになっていた。
言葉は前世のものと近かったので、そこまで苦労はしなかった。
だが、あまり普通よりも早くにできることが増えると、周りは期待してしまうものだ。
人より早く歩くことができるようになったとしても、後々何か問題が出てくるわけではない。どちらかというと、些細なことだ。しかし、そういったものが積み重なってくると、周囲はどうしてもちやほやして、どんどんと新しいことを教えてしまいたくなってくるようだ。
普通と比べると突出した能力を持っているものたちばかりであった俺の故郷でさえもそうだったのだから。
それに、俺の故郷は才能のあるものを褒めたり認めることはあっても、その才能を蹴落とそうとする者はいなかったから良かったが、この孤児院も同じだとは断言できないわけで。
そういうわけで、俺はとりあえずそれからさらに半年ほど情報収集することを我慢することにした。さすがに、生後一年も経てば、歩いたり話すくらいなら可能だろう。俺が魔法を初めて使ったのも3歳くらいの時だったそうだしな。
♦♦♦
というわけで、それからさらに半年が過ぎ、ここにきてから感覚的には11ヶ月ほど経った。
院長たちに話をあとから聞いてみると、俺がこの孤児院に来たのはだいたい生後1ヶ月くらいとのことだったので、肉体年齢的には約1歳くらいになるだろう。
ひと月ほど前から、ちょっとずつ話したり歩いたりしていき、最近は俺が歩いていても普通な目で見られ始めた。まあ、何かにつけて構おうとしてくるけどな。
よって、それに合わせて、今日から情報収集を始めたいと思う。
まず最初に、ここがどこなのかということだ。建物的には、俺の世界よりも発展しているように見える。俺が生まれた街ぐらいだろうか。
現状、俺がわかっているのはここが孤児院であるということと、院長がとても良くできた人間だということぐらいだ。
まずはこの世界が前世と同じ世界かどうかを確認したい。それによって、これからの俺の活動方針に変化が出てくるだろう。俺は今世では、自由に楽しく生きていきたいのだ。
勇者なんてあんな如何にもな期待はもうまっぴらごめんだしな。俺は普通に旅をしたい。
手始めに、本を読もうと思う。前世と同じ世界ならそんな必要はないと思うやつもいるかもしれないが、それはそれだ。
情報収集を怠るのは下策だと思う。もしも、言語が似ているだけの異なる世界だったときは、価値観の違いがコミュニケーションに大きく関わってくるし、前もってそれがわかっていれば、合わせることもある程度は可能だしな。
それに俺は本が好きなのだ。前世で、俺の故郷はとても発展していた。それは本についてもだ。
いろいろな本があった、違う世界に召喚されてしまう物語などもあった。なぜわざわざ違う世界を舞台に魔法を使って戦うのかはわからなかったが。
まぁ、そんなわけで本だ。本を読もう。ここの孤児院は普通の家と比べると大きい。現在ここには、子供が20人ほどいるようだ。皆俺よりも歳は上で十代だけでほとんどだ。話がそれた。この辺のことは後回しでも構わないだろう。
この孤児院では共通共有の本棚が一つある。もっと作れよ、と思わないでもないが、基本的には子供に読ませるためのもので、ここは十代ばかりということも合わさり、それなりに学べる物が多そうだ。
孤児院に勤めていて、割と若そうな人が近づくのを待ってから、本棚を指差す。
「上にある本、読みたい」
とりあえず、今の自分が一番取れないところにあるものから始めていく。子供用の本棚なので横に広く、高さはあまりないはずなのだが、それで1歳児の身長的には厳しいものがある。
あと、あまり関係ないが、普通にペラペラ話したら怖いだろうから、頑張ってつたない言葉を使っている。少しばかり恥ずかしいが、あと一年ほどの我慢だろう。
「う〜ん。上の本はね、少し難しいから、今は、下の方から読もうか。」
くっ! そう簡単にはいかないか、だが下の本棚は昨日ちらっと見た限りだと絵本やそれに近い文字を覚えるためのが多い。しかし、この世界の文字を覚える上では必要なことだろう。けれど、こちらもただただ譲歩するわけにはいかない。
「なら、下も上も読む!」
これならどうだ?
・・・・・・と、そのような問答をしばしして、あちらが「まあ、いいでしょう」といって折れた。どうやら、俺がすぐに飽きると思ったのだろう。まあ、普通ならそう思うよな。
それから、その人に、上の段の本を6冊ほどと、下の段の本を10冊ほど渡された。
今はまだ、午前中なので16冊くらいなら読めるだろうか?
てかいきなり子供に16冊も本を渡すか?本読んだことないのか?まぁ俺は読めるからありがたいけど。
そんなことを考えていると、その若い人は他の勤めている人に呼ばれて去って行った。
まず、結果から言うのならば、下の段の10冊を軽く読み始めて、はっきりとわかった。
前世とこの世界の文字は同じであった。文法や文の形こそ異なるが、単語ひとつひとつはほとんど変わらなかった。形が似ているだけの可能性もあるにはあるのだが、内容はこの半年間でときどき読み聞かせてくれるものと同じだとわかったので、ほぼ間違いはない。1日で16冊なんて少し考えが甘かった。
それから2日ほど下の段の本を漁って、言葉を覚えた。若い人にとってもらった本は下の段に置いてある。
さて、今日から上の段の本を読んでいこうと思う。時刻は昼頃だ。選んでもらった6冊の本は、比較的薄い本が4冊に厚い本が2冊。上の段を見上げると右端が空いている。つまり、右から順に6冊ほど選んだのだろう。
タイトルは以下の通りだ。
『世界の料理 番外 珍味編』著 ダステス=ローウェ
『魔法の基礎』著 ディエル=ランドール
『大魔導師ドーハの冒険1〜始まり〜』著 ドーハ=ラエストロ
『大魔導師ドーハの冒険6〜終局〜』著 ドーハ=ラエストロ
『静かな勇者と怒りの世界』著 トーラ=ヴィエタ
『世界と歴史』著 ダステス=ローウェ
・・・・・・と、こんな感じだ。明らかに本の選択がおかしい。あいつ適当に選びすぎだろ。だって、生後1年の子供に世界の珍味見させてどうするんだよ!どうしたいんだよ!魔法の基礎は・・・まぁいいよ。でも、次のはダメだろう!ドーハの2,3,4,5はどうしたんだよ!なんで最初と最後だけ?気になるじゃん!!!誰だよ!順番適当に並べたやつ!
あと、ドーハはどんな気持ちで自分のことを書いたんだろう?これきっと自分のことだよな?同名なだけなのか?う〜ん、ちょっと気に・・・・・・ならない!全然ならないね!
それと、ダステス!お前は書くジャンル違いすぎだろ!どういう経緯でその二つを書いたのかすごい気になるわ!
まぁ、とりあえず読むけどさ。
〜〜Now Reading〜〜
〜〜Now Reading〜〜
〜〜Now Reading〜〜
読んでみた結果わかったことがいくつか。
まず、世界の珍味に関しては、少し食べてみたくはなったが、まあいい。でも、意外と役立った。世界の珍味に出てくる食材には魔物を用いるものもいくつかあったが、それらは前世の時にも出会ったことがあるのが二つ三つほどあった。これでますます前世と今世が同じ世界もしくは似たような世界という裏付けができた。
次に、魔法の基礎だが、これはとても面白かった。
ここの魔法は、前世と全く異なるものが多かった。
まず、この世界の魔法は大きく二種類に分けることができる。生活魔法と、戦闘魔法だ。
生活魔法とは、読んで字のごとく生活する上であると便利な魔法だ。たとえば、汚れた服を洗うために用いる浄化魔法の派生の洗濯魔法、火魔法と風魔法を用いた乾燥魔法などが挙げられる。
これは、戦闘に役立つことは稀だが、あったら日常生活が少し楽になる魔法だ。これらの魔法は、前世ではほとんど見られなかった。俺の故郷には似たようなものがあったが、それもみんなが使っていたわけではなかった。
戦闘魔法については言わずもがなというやつで、前世と似てはいたが少し量が少なかったように思う。このことからこの世界では、あまり戦闘は少ないのかもしれないと考える。まあ、基礎っていってるから戦闘より生活がメインになるのかな。
三つ目のドーハの冒険だが、これもなかなかどうして楽しめてしまった。ドーハという魔法使いが仲間を見つけながら旅をしていく物語だが、やはりというか体験談なのだろう。どこどこの王国に生まれ、冒険者を始めて一つのイベントを乗り越え、国から旅立つまでが描かれていた。
しかも、引き際がうまいのだ。ちょうど続きが気になるように終えていやがった。これは、6巻には手が出せない。また今度読むとしよう。
次の本を読もうと思い、ドーハを閉じると、その本を取り上げられた。どうやら、もう夕食のようだ。
残りの2冊を上にあげられないように下の本と入れ替えた。
早く明日にならないかな。




