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Drifter  作者: へるぷみ~
エルフの森
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互いに思うからこそ



 帰り道は椛が付けておいた標を頼りに、迷うことなく進んでいった。

 道中魔物と遭遇することもあったが、多数対個数では魔物もそこまで考えなしというわけでもなく、ほとんどは逃げてくれたため、余計な体力に時間、怪我を負うこともなかった。といっても道中ではなく休憩中、なぜか護衛であるエルフの女性の一人が悼也にしょっちゅうというほど絡んできたために、被害者一人は軽くあしらいながらもその鬱陶しさに見えないところで嘆息もついていたが。

 そんなわけもあり、手探りではなく明確に進んでいても大人数ということもあり、ザントキシルムに帰還できたのは約五日後の昼となった。





 ザントキシルムに辿り着き、すぐにグリュークが出迎えた。予め連絡をしていたためだろう。


 「よく来てくださった、ザントキシルムへ。お会いできて光栄です」

 「こちらも。あなた達と出会えてうれしい限りです」

 「ワタシはこのザントキシルムの代表者を務めるグリューク。以後、お見知りおきを」

 「フィップルです。今回我らが女王エルサーシュの遣いのものとして参りました。よろしくお願いします」


 代表者二人の滑り出しは上々であった。

 一通りの挨拶を終えると、グリューク先導のもとギルドへと案内される。


 「遠路はるばるで、お疲れでしょう。積もる話はありますが、今日のところはこちらのギルドでお休みになられてください。明日には住民を呼び、皆様を紹介いたしますので」

 「お気遣い、ありがとうございます」

 「いえ、あなた達とこうして縁を持てたのは、そこにいる三人のおかげです。先にお話も頂いた通り、人間である彼らを快く迎え入れてくれたこと、こちらこそ感謝します」


 さすがに、今回の件に関すれば、グリュークも言葉には『ですます』があった。当然ではあるが、彼と話していた時には一度も無かったものだからこそ、椛としては少し違和感を覚えたが。

 そうこうして、フィリップと男性のエルフ、そして護衛二人のエルフに女性のエルフは部屋を案内されると、その日は歓迎会を称した小さな宴がギルドの中で催された。

 主賓はもちろんエルフであるが、加えて人間との橋渡しを行った三人の少年少女もまた主賓であった。

 グリュークの妻であるクィナが腕を振るい料理でもてなし、グリュークは多くの酒を用意した。

 椛たちがエルフの食事を朝昼晩の約一週間に掛けて味わっていたために人間と大きく味覚にも差はないことはわかっており、果実酒なども彼ら飲むことはわかっていたので酒はそれらが中心だ。

 十人の宴は受付の狭いギルドで行われればそれなりにも人口密度はあがりもしたが、それだけお互いが近づく機会もあり、彼らはすぐに打ち解けていった。

 そんな宴の最中、フィップルが椛の下へとやってくる。


 「モミジさん」

 「ん、なにフィップル?」

 「実はお伝えすることがありまして。母上からの伝言です」

 「……ん。聞かせて」

 「『知恵ある竜』というのは、ご存知でしょうか?」

 「『知恵ある竜?』」

 「文字通り、知恵を得た竜の事で間違いはないです。そして彼らは、僕たちエルフが生まれるよりも遥か昔から、存在しているようなのです」

 「エルフよりも先に生まれたって……」

 「どうやら何代も前の女王がこの『知恵ある竜』の事を記していたようで、その者たちは豊富な知識を持っていたそうです」

 「つまり、その『知恵ある竜』に出会うことが出来れば、もしかしたら?」

 「モミジさんのおっしゃる、元の世界への戻り方もわかるかもしれません」


 フィップルの――エルサーシュの示したくれた言葉は大きな光を見せた。 

 エルフ以上に遥か昔から生きており、エルフ以上に知識を持つ『知恵ある竜』。エルフの女王にしか記せない資料にそれがあるというのなら、真実であろう。それこそ、『もしかしたら』と椛は考える。


 「フィップル、その『知恵ある竜』がどこにいるのかも、わかるの?」

 「どうやら、エルフの住まう場所から遥かに南東、『竜の谷』と呼ばれる場所にいると……」

 「『竜の谷』……ね」


 椛の中で、次の目的地が決まった。

 『知恵ある竜』。それに出会うことだ。


 「僕――母上からは以上です」

 「ありがとう。すごく助かったわ」

 「それでしたら、母上も喜びます。

  それと、モミジさん」

 「ん?」

 「僕たちに関していえば、気にしないでください」

 「いや、でもそれは――」

 「――モミジさんの目的は何ですか? 元の世界へと帰ることなんでしょう?」

 「そう、だけど……」

 「でしたら、これ以上モミジさんに頼ってはいけないんです、僕たちは。いずれ帰ってしまうであろう人に頼り、それがモミジさんたちを縛ることになれば、僕たちの気が済まないんです。だから、お願いします。あなた達は、あなた達のするべきことを、してください」


 フィップルが頭を下げる。

 椛は、言葉を失うしかなかった。獣人の時にはリムカヒルが勝手に動いたからこそ、有耶無耶となった。だが、今回のエルフに関していえば大きく関わった。だからこそ、椛もエルフがこのザントキシルムの者たちと打ち解けるまでは、フィップルたちの補助をしようと思っていた。

 だが、それではいけなかった。彼にも、エルサーシュにも話した通り、椛たちは本来この世界の住人ではない。本当に方法があるかはまだわからないが、あればいずれ自分の世界に帰ってしまう。それを、フィップルはわかっていたのだ。

 今ここで椛たちに依存すれば、エルフは椛たちがいなければ成り立たないことになってしまう。特に、ザントキシルム代表のグリュークまでなら良いが、このまま住人達との橋渡しまでしてしまえば、エルフも人間も、椛たちを介してでなければ意思を伝えあうことが出来なくなってしまうのだ。そんな偽りの交流関係を築いてしまえば、いずれは破綻することが目に見えている。だからこそ、ここからは彼らが――エルフたち自身が、直接人間との関係を作っていかなくてはならないのだ。


 「お願いします」


 彼の言葉がさらに絞り出される。

 その意志を汲んだからこそ、椛も答える。


 「わかったわ。これ以上は、余計なお節介だったわね。

  ええ、私たちの目的はここで立ち止まることじゃ無いもの。だからフィップル」

 「はい」

 「ありがとう」

 「こちらこそ、ありがとうございました……!」


 こうして、椛たちのエルフでの役割は、終わりを迎えるのだった。



これにて『エルフの森』の章は完結です。


次からは新章です。お楽しみください。

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