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Drifter  作者: へるぷみ~
エルフの森
58/100

戦斧携えしは豪傑なり 前編



 幸いとしてなのか、この土地には広々とした空間があるために場所には困らないわけだが、前を歩くグリュークという男はきちんと実力を見定めるにふさわしい場所を作っていた。

 この時椛と椋は広いということに目を向けたが、同じような光景を目にしていた悼也は草原の中に所々歪んだ場所、抉られているが草が生えたことで隠されている場所を目ざとく見つけていた。そしてグリュークの背負っている斧を見て、この男もまた一筋縄ではいかない強者だと判断する。


 「さて、ここならば問題なく力を使える。

  遠慮はしない。オマエたちの持つ全力を以てこい。三対一だからと、甘く見るなよ」

 「……やるわよ椋、悼也」

 「おっけ~」

 「了解した」


 十メートル。

 彼我の距離はそこにある。

 グリュークは既に戦斧を構えている。隙は無い。

 そもそも、こちらが準備するのを待っているのだ、これ以上の問答も葛藤も必要は無い。ここから先に必要なのは見せつけられるだけの実力を示し、グリュークを認めさせることただ一つ。

 椛は即座に腰に提げている入れ物から愛用の品となるだけに使い込まれた手甲を装着。椋は無駄な荷物を地面において準備は出来た。悼也も、腰に提げられた金属の棒を両手持って構えた。

 準備は整い、あとは一歩を踏み出す瞬間が訪れるのを待つのみ。


 「それでは、今回の審判はザントキシルムギルドメンバーである、クィンが務めさせていただきます」


 グリュークの妻であり、ギルドマスターを除いて只一人のギルドメンバーである女性が、両者の中心へとたち、己の役割を宣言する。

 この場にいる者全員は無言の肯定を示し、意思を受け取ったクィンもそれぞれを見据た後――


 「――始め!!」


 合図は成された。





 「悼也、任せたわ」

 「わかった」


 椛の呼びかけと共に跳びだしたのは悼也。

 駆ける足はわずかな間でグリュークとの差を縮め、先制をとる。


 「ふッ!」

 「温い」


 右から繰り出された一撃にグリュークは動じることなく斧の柄で受け止める。


 「ぬっ!?」


 だが瞬間、グリュークは受け止めていた体勢を切り、素早く半歩下がって状態を引く。

 と同時に、彼の顔前を風が凪いだ。

 風の正体は悼也の左手に握られていたもう一つの棒。右の攻撃を囮にしてグリュークの注意を惹かせ、もう一方の攻撃を体で隠し不意の一撃を見舞ったのだ。

 グリュークはその攻撃を見切ったわけではない。逆に、わからなかったからこそ彼の中に潜む経験や本能が、一歩引かせたからこそ避けることを可能としたのだ。


 「出ろ」

 「ちィ!!」


 避けたからといって、悼也の攻めは終わらなかった。

 彼が振り上げた腕。明らかにそこには隙があるはずだった。しかし、腕の影となるところが悼也の一言によって蠢き、形を成し、刃となってグリュークに襲い掛かった。

 回避運動のせいにでまともに動く事の叶わないグリュークを苦い顔をして舌打ちし、目前にまで迫った影の刃を手に持った戦斧をカチ上げることで強引に防ぐ。


 「もらったぁ!!」


 その隙を、椛は見逃さない。

 完全に浮いた上体に向けて悼也の後続にいた彼女は拳を振り上げ、グリュークの胴体に叩きこむ。

 真っ直ぐに突き出された拳は必的。勢いも乗っているのだから当たればそれなりの負傷を与えることが出来るだろう。


 「土よ」


 だが、そうは簡単にいかないからからこそ彼はギルドマスターなのだ。


 「くっ!」


 打ち出された椛の拳は確かに当たった。しかし、グリュークの体には当たらなかった。正体は彼の胴体にある。突きだされた椛の拳のある場所、そこには一塊の土がある。そこに彼女の拳は埋まっており、衝撃を受け止めてしまったのだ。

 さらに、土はグリュークの体を段々と覆っていく。

 まるでそう、鎧のように。


 「やるな。こうも早くコレを使わされるとは」

 「やっぱ精霊ね、土を借りる力なのかぁ」


 土がグリュークを覆う間に、椛も悼也も危険を察知し飛び退く。

 そうこうしているうちにグリュークの体は土色の鎧が出来上がり、さらに彼の獲物である斧も土を覆うことでひと回り大きさを増した。


 「見事な連携と奇襲だ」

 「お褒めにあずかり光栄です」

 「では、再度くるがいい」

 「お言葉に甘えます。援護するから、お願い!」

 「わかった」


 再度、駆けだす悼也。同時に椛は悼也を射線上に捉えながらも、己のすべきことをする。


 「風莉、来なさいッ!」

 『喚んだか?』

 「私のすることを補助できる?」

 『任せよ!』

 「だったら、コレ!」


 拳を前面に構え、念じ、周囲の風が椛の拳に集められたと同時に、撃ち出した。

 今行ったのは風を弾として撃ち出すというもの。

 椛の中で想像し創造することは可能であっても、周囲の影響、軌道、威力などの細かい部分はわからない。だからこそ、風莉を喚んだのだ。小さくあっても風莉は風精霊。つまりは風の扱いに関しては自分の手足を操る容易に容易いこと。なので椛の行いたいことを風莉は代理演算しすることで、可能としたのだ。

 撃ち放たれた風の塊は正面を走る悼也の背へと迫る。椛の放った風に避けるや曲がるなどの行為は入れていない。ただ、真っ直ぐに放たれる風を想像しただけだ。だからこそ、悼也が避けなければ当たる。


 「………………」


 しかし、悼也は当たる直前に膝を曲げ、さらに体勢を低くした。

 彼の頭頂を風が過ぎ去り、髪が舞うがそんなことで悼也の進行が止まるということは無い。

 椛の信じたとおり、風の弾はグリュークへと襲い掛かった。


 「ふんっ」


 といっても、グリュークもまた椛の行うであろうことも、わかっている。悼也があの狙い澄ましたかのように姿勢を下げたことには驚きもしたが、それでも想定の範囲内である。

 風は不可視だ。しかし、風の起こした屈折現象は視える。半分は知識で、半分は経験で。真っ直ぐにグリューク目掛けて飛んでくる弾の被弾位置を確認し、彼は風の弾を叩き(・・)落とした。

 上から叩き付けられた衝撃によって形を成していた風は崩れ霧散し、圧縮されていた風が吹き出されるがなんの影響も及ぼすものではない。

 あとは、このまま向かってくる悼也を迎え撃つだけである。


 「シッ!」

 「二度は無い」

 「く!?」


 悼也が攻撃に範囲に入った瞬間、一歩踏み出そうとして、叶わなかった。

 驚愕を目の奥に表し、すぐさまどうしてそうはいかなかったのかが判明する。

 悼也の足は、盛り上がった土に絡めとられていたからだ。

 ビクともしない土に悼也は動く事も叶わない。


 「まず、一人」


 動揺は大きな隙だ。

 待ち構えていたことで最初から準備の出来ていたグリュークは戦斧を悼也の横から薙いだ。


 「……逃げたか」


 だが必殺の一撃は空振り、残ったのはグリュークの足元に存在する影。その影もまた、すぐさまグリュークから離れ、椛の傍で波打ちそこから悼也が姿を現した。影に潜ることで、悼也はどうにか避けることを可能にしたのだ。


 「さて、どうする?」


 余裕を示す言葉をグリュークは言い放つ。

 それは当然であり、彼は土の鎧を纏ってからまだ一度も足を動かしていないのだ。嘗められているというわけではない。ただ、動く必要がないというだけ。たった少し状況が変わっただけで、大きく戦況は変化した。


 「厄介ね、あの土……」


 何せ、まともに近づくことが叶わない。

 今椛と悼也が足つけている場所も土なのだ。そうなれば、この場所はグリュークの為の戦場と言っても過言ではない。そうなれば空中から攻めるのが定石なのだろうが、それもグリュークは承知しているはずなのだから下手に宙へ身を置けば的でしかない。

 たった一人の人間であるというのに、いま二人の前にいる男は要塞であった。

 切り崩すのは、容易ではない。


 「影装」

 「悼也!?」

 「見ていろ」

 「っ……わかったわ」


 すると悼也は自身の影を身に纏わせてグリュークに特攻する。

 いきなり悼也が跳び出したことに椛は驚いたが、悼也は止まらない。

 それは悼也が囮としての役割と同時に、グリュークの不確定要素であるものを椛に見極めさせるため。

 悼也の言葉の真意を悟った椛も一瞬躊躇いも生じたがすぐに頷き返した。


 「………………」


 三度として同じように向かってくる悼也に対して、グリュークは些かの失望を覚えた。

 確かに実力として椛よりも悼也の方が高い。だが、それにしたってあまりに単調。この程度の者であればそこらにごまんと存在する。それどころか、もう少し頭を巡らせた策を弄した者だっていた。

 悼也の行ってくる攻めへの対処はそれほど難しくはない。近づいて来れば足止めをする。足止めを警戒して宙へと身を躍らせればそれこそ的だ。手に持ったグリュークの戦斧で薙ぎ払われる。

 影を纏っているからと言って、いまグリュークが纏っている土の鎧の下に攻撃は通らないだろう。


 「フッ!」


 悼也は跳躍した。

 案の定頭上からの双棒による打撃だが、それよりも速くグリュークの必殺の一撃は決まる。

 両手に持った斧を振りかぶり、振ろうとした瞬間――


 「むっ?」


 そこにあった悼也の姿は消えていた。

 そして自らの振るおうとしている腕に、黒いナニかが張り付き、後ろへと伸びていた。

 グリュークが意図に気付くと同時、後頭部に衝撃が走る。だが彼に自身に痛みはない。土によって守られた頭部に衝撃は伝わっていないのだ。


 「影を利用しての空中移動かッ!」


 後ろをとられたことにグリュークは反射的に振り向き、体を反転させると同時に片手を斧から離し、握られた拳が振られる。

 といってもこの攻撃の意味は当てるのではない。牽制であり、悼也を引き離すためのもの。

 意図して悼也は振られた拳に対してしゃがむことも選択できたが、近づいている以上危険なことに変わりはなく、すぐさま後ろへと跳んで避ける。

 だが、地に足が着くと一緒に無理やり後ろへと向かおうとする勢いを殺し、前へと跳びだす。


 「二度は無いと言っているだろう!」


 既に突っ込んでくることはわかっている。対策も出来ている。

 影を操ることでそこまでの行動が出来るというのなら、それに即した反撃を入れればいいのだ。

 だから、それであっていたはずだった。


 「ハァ!!」

 「ぬぅ!」


 だが、前方から向かってくる悼也に集中したことで後ろにいる椛の存在に気付かなかった。

 当然椛の拳はグリュークの鎧を通すことは出来ない。それでも、気にしていなかったものを再度知覚してしまったことで後ろに対処するべきか迷った。

 その間に悼也はグリュークの懐へと潜り込み、手にしていた棒には影が纏わり棒を軸として回転をした状態で土鎧を抉る。電動回転式鋸と同じ要領であり、押しこめば押し込むほどに土は削れ、鎧に穴を穿とうとする。


 「ぜぁああ!!!」

 「きゃぁ!?」

 「くっ」


 かといってグリュークが許すことは無い。無挙動からの全方角への戦斧による薙ぎ払い。

 真後ろにいた椛は避けることに成功していたが、振るわれた際の余波によって地面転がる。悼也は一歩踏み込んだところにいたことから完全に避けるということは出来ず、双棒を構えて吹き飛ばされた。


 「そろそろ第二段階へ移るか」


 グリュークは鎧を削られたということに驚いたからこそか、まだ体勢を立て直しきれていない椛へと、一歩踏み出した (・・・・・・・)。

 要塞が移動する。





後編に続きます。

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