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銀髪の魔法使い

第7話 銀髪の魔法使い 

突然声をかけてきた青年を、エリシアは警戒するように見つめていた。


「……あの、どこから聞いてました?」


「魔法使いがいた方が安全だ、というあたりからかな」


「ほとんど聞いてるじゃないですか!」


「聞こえてしまったものは仕方ないだろう?」


 青年は悪びれる様子もなく答えた。


 銀色がかった金髪に、澄んだ青い瞳。整った顔立ちと長く尖った耳は、彼がエルフであることを示していた。


 服装は旅人に近い。濃紺の外套の下には動きやすそうな衣服を着込み、腰には短い杖を提げている。片手に持っている本は随分使い込まれているようで、表紙の角が擦り切れていた。


「レオン・アルフェリス。さっきも言ったけど、Fランクの冒険者だ。魔法を専門にしている」


「私はエリシア。こっちはジョシュアです」


「よろしくお願いします」


 ジョシュアが頭を下げると、レオンは少し意外そうな顔をした。


「随分と丁寧なんだね」


「そうかな?」


「冒険者には、初対面でそこまで礼儀正しい人間は少ないからね」


「それ、冒険者に失礼じゃないですか?」


 エリシアが口を挟む。


「事実を言っただけだよ」


「絶対、友達少ないでしょ」


「否定はしない」


 あっさり認められ、エリシアは言葉に詰まった。


 ジョシュアは思わず笑ってしまった。


「……それで?」


 エリシアが咳払いをする。


「同行者を探してるって言いましたよね。どうして私たちなんですか?」


「理由はいくつかある。まず、君たちはFランクの依頼を受けるつもりなんだろう?」


「そうですけど」


「僕も同じだ。上位の依頼に参加できる実力があると主張したところで、ギルドが認めなければ意味がないからね」


 レオンは肩をすくめた。


「それに、僕は前衛が苦手なんだ」


「魔法使いなら、そういう人も多いんじゃない?」


 ジョシュアが尋ねる。


「もちろん。ただ、僕の場合は少々極端でね。魔法を使う前に殴られたら、かなり困る」


「それは誰でも困ると思うけど……」


「まったくだ」


 レオンは真面目な顔で頷いた。


 エリシアは額に手を当てた。


「……なんか、変な人が増えた気がする」


「増えた?」


「こっちの話です」


 ジョシュアは自分を指さしかけたが、何も言わなかった。


「それで、僕としては剣を扱える前衛が欲しい。君は剣士なんだろう?」


 レオンがエリシアの腰に視線を向けた。


「ええ。一応」


「なら、利害は一致していると思うけど」


「そう簡単には決められませんよ。お互いのこと、何も知らないんですから」


「もっともな意見だね」


 レオンは頷き、空いている椅子を引いた。


「だったら、まず話をしよう。座っても?」


 エリシアは少し迷ってから頷いた。


「……どうぞ」


 レオンが席に着く。


 宿の主人が近づいてきたので、彼は温かい茶を注文した。


「さて。君たちはいつから一緒に活動しているんだい?」


「今日からです」


 ジョシュアが答えた。


 レオンの動きが止まる。


「……今日?」


「はい。僕は今日、冒険者になったばかりなので」


「なるほど」


 レオンはエリシアを見た。


「つまり、君は登録したばかりの新人を連れて、さっそく依頼を受けたわけか」


「採取依頼ですよ。しかも、登録試験です」


「それなら納得だ。どんな仕事だった?」


「青筋草の採取です。10束集めてきました」


「それは順調だったようだね」


「まあ、途中までは」


 エリシアの返答に、レオンが眉を上げた。


「途中までは?」


「スライムとゴブリンに遭遇したんです」


「ゴブリン?」


 レオンは茶を受け取りながら聞き返した。


「何体いた?」


「3体です」


「それは災難だったね。逃げられたのかい?」


「2体は倒して、1体は逃げました」


 レオンはカップを口元へ運びかけ、その手を止めた。


「……君たち2人で?」


「はい」


「片方は今日登録したばかりの新人なんだよね?」


「そうですけど」


 レオンはジョシュアを見た。


 頭から足元まで、じっくりと観察する。


「……その服は?」


「分かりません」


「分からない?」


「気づいたときから着ていたので」


 レオンは少しの間、黙っていた。


「なるほど。なかなか興味深い人だ」


「ちょっと待ってください」


 エリシアが身を乗り出した。


「変な勘繰りはやめてくださいね。ジョシュアは記憶を失ってるんです」


「そうなのか。それは失礼した」


 レオンはすぐに頭を下げた。


「無遠慮だったね。答えたくないことは答えなくていい」


「ありがとうございます」


 ジョシュアが礼を言うと、レオンは小さく笑った。


「それにしても、ゴブリン3体か。よく無事だったね」


「無事ってほどでもないわよ。ジョシュアは腕を打たれたし」


 エリシアが言う。


「だから、私としては次からもっと安全に依頼を受けたいの。魔法使いがいてくれたら助かるのは確かだけど……」


「僕が本当に魔法を使えるのか、まだ分からない?」


「そういうことです」


 レオンは頷いた。


「当然の疑問だね。言葉だけなら誰でも魔法使いを名乗れる」


 彼は腰の杖を取り外し、机の上に置いた。


 木製の短い杖だった。先端には小さな青い石が埋め込まれている。


「明日、ギルドで簡単な実技を見せよう。それで判断してくれて構わない」


「……いいんですか?」


「もちろん。僕も君たちの動きを見てから決めたいしね」


 エリシアはジョシュアを見た。


「どう思う?」


「いいと思うよ」


「即答ね」


「だって、ちゃんと確かめられるなら安心でしょ?」


「……まあ、そうだけど」


 レオンは楽しそうに笑った。


「話が早くて助かるよ」


 こうして、翌朝ギルドで合流する約束が決まった。


 レオンは茶を飲み終えると、席を立った。


「それじゃあ、明日の朝に。また会おう」


「はい。よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 彼は軽く手を振り、宿を出ていった。


 扉が閉まる。


 エリシアはしばらくその方向を見つめていた。


「……どう思った?」


「レオンさん?」


「そう」


「話しやすい人だったね」


「そうかなあ……」


 エリシアは腕を組んだ。


「なんか、こっちが色々聞くつもりだったのに、気づいたら向こうに質問されてばっかりだった気がする」


「そう言われると、確かに」


「でしょ?」


 彼女はため息をついた。


「まあ、悪い人には見えなかったけど」


「明日、魔法を見られるのが楽しみだよ」


「……あんた、本当に気楽ね」


 そう言いながらも、エリシアは笑っていた。


◇


 翌朝。


 ジョシュアが大部屋の寝台で目を覚ますと、窓から柔らかな日差しが差し込んでいた。


 同じ部屋には数人の宿泊客がいたが、ほとんどは既に出かけたらしい。


 寝台の脇に置いた荷物を確認し、身支度を整える。


 昨夜は久しぶりに、まともな寝台で眠ることができた。


 もっとも、隣の寝台から聞こえる大きないびきには、何度か起こされたが。


 ジョシュアは肩に黒い布を掛け直し、食堂へ下りた。


 宿の主人が朝食の準備をしている。


「おう、兄ちゃん。よく眠れたか?」


「はい。隣の人のいびきがすごかったですけど」


「ああ、あいつか。毎晩あんなもんだ」


 主人は笑った。


「大部屋は安い代わりに、そういうこともある。嫌なら稼いで個室に泊まるんだな」


「頑張ります」


 ジョシュアは軽い朝食を注文した。


 パンと薄いスープで30ユグド。


 昨夜の夕食代も含めると、手元に残ったお金は80ユグドだった。


 明日も宿に泊まるなら、今日のうちに仕事を見つける必要がある。


 食事を終え、ギルドへ向かう。


 朝の街は既に動き始めていた。


 市場では商人が商品を並べ、通りには仕事へ向かう人々が行き交っている。


 ギルドに到着すると、入口の前にエリシアが立っていた。


「おはよう!」


「おはよう、エリシア」


「ちゃんと眠れた?」


「うん。少し騒がしかったけど」


「大部屋だものね。仕方ないわよ」


 エリシアは笑った。


「レオンさんは?」


「まだ来てないみたい」


「じゃあ、中で待とうか」


 2人はギルドへ入った。


 朝の掲示板には、新しい依頼書がいくつも貼り出されていた。


 採取、配達、荷運び、街道の見回り。


 ジョシュアは依頼書を眺めた。


「結構あるんだね」


「そうね。でも、報酬がいい依頼はすぐに取られちゃうのよ」


 エリシアは掲示板を指さした。


「ほら、あの荷運び。半日で250ユグドだって」


「それなら、昨日の薬草採取とあまり変わらないね」


「そう。でも、荷物が重かったり、時間がかかったりするから、楽とは限らないわ」


 ジョシュアは頷いた。


 そのとき、背後から声がした。


「おはよう。2人とも早いね」


 振り向くと、レオンが立っていた。


 昨夜と同じ濃紺の外套を着ているが、今日は腰に杖だけでなく、小さな革袋も提げている。


「おはようございます」


「おはようございます。約束、覚えてたんですね」


 エリシアが言うと、レオンは片眉を上げた。


「僕はそこまで信用されていないのかい?」


「昨日会ったばかりですから」


「実に正直だ」


 レオンは苦笑した。


「それじゃあ、実技を見せるとしようか。ギルドの訓練場を借りよう」


「訓練場?」


 ジョシュアが尋ねる。


「建物の裏にあるんだ。冒険者が武器や魔法の練習をする場所だよ」


 エリシアが説明した。


「利用には少しお金がかかるけど、今回は私が出すわ」


「いや、僕が誘ったんだ。費用は僕が持つよ」


 レオンが言った。


「その代わり、君たちの実力も少し見せてほしい」


「……分かりました」


 エリシアは頷いた。


 3人は受付で手続きを済ませ、ギルドの裏手へ向かった。


◇


 訓練場は、木製の柵で囲まれた広い空き地だった。


 地面は踏み固められ、端には木製の人形や的が並んでいる。


 数人の冒険者が剣を振るい、別の場所では弓の練習をしていた。


 レオンは空いている的の前に立った。


「さて。まずは簡単な魔法から」


 彼は杖を取り出した。


 先端の青い石が、淡く光り始める。


 ジョシュアは思わず身を乗り出した。


「光った」


「魔力を流しているんだよ」


 レオンは説明しながら杖を構えた。


「魔法には色々な種類があるけれど、僕が得意なのは水と風だ。今日は水の魔法を見せよう」


 杖の先に、小さな水の塊が現れた。


 空中に浮かぶ水は、球形を保ったままゆっくりと回転している。


「すごい……」


 ジョシュアは目を輝かせた。


 レオンは少し得意げに笑った。


「これはまだ準備段階さ」


 彼が杖を前へ向ける。


 水球が勢いよく飛び出した。


 的に命中すると、水が弾け、木製の板が大きく揺れた。


 乾いた音が訓練場に響く。


 ジョシュアは思わず拍手した。


「すごい!」


「ありがとう」


 レオンは軽く頭を下げた。


 エリシアも感心した様子だった。


「詠唱なしで使えるんですね」


「この程度ならね。複雑な魔法になると、もう少し準備が必要だけど」


 レオンは杖を下ろした。


「次は風を見せようか」


 彼が杖を振ると、足元の砂が舞い上がった。


 目に見えない何かが地面を走り、少し離れた場所に置かれた木箱を押し動かす。


 木箱は数歩分ほど滑って止まった。


「今のは攻撃用というより、牽制や移動の補助に使う魔法だね」


「便利そう」


 ジョシュアが言う。


「実際、便利だよ。敵を倒すだけが魔法の役割じゃないからね」


 レオンは杖を腰に戻した。


「さて、これで僕が魔法を使えることは証明できたかな?」


「十分です」


 エリシアが頷いた。


「思ってたより、ずっと上手でした」


「それは褒め言葉として受け取っておこう」


 レオンは微笑んだ。


「では、次は君たちの番だ」


 エリシアは腰の剣に手を置いた。


「分かりました。まずは私から」


 彼女は訓練場の中央へ進み、木製の人形の前に立った。


 剣を抜き、深く息を吸う。


 次の瞬間、鋭い踏み込みとともに刃が振るわれた。


 木製の人形に剣が当たり、乾いた音が響く。


 続けて横薙ぎ、斜めの斬撃、そして素早い後退。


 動きに無駄がないとは言えない。


 だが、昨日のゴブリン戦で見た通り、実戦で身につけた技術があった。


 レオンは真剣な表情で観察していた。


「なるほど。基本はできているね」


「ありがとうございます」


「ただ、踏み込みが少し深い。相手が避けた場合、反撃を受けやすいと思う」


 エリシアは剣を下ろした。


「……やっぱり、そう見えます?」


「自覚はあるんだね」


「師匠にも言われたことがあります」


「なら、直す価値はある」


 レオンは頷いた。


「前衛としては十分に頼れそうだ」


 エリシアは少し嬉しそうに笑った。


「それならよかったです」


 そして、ジョシュアへ視線を向けた。


「次はあんたね」


「僕?」


「そう。レオンさんも見たいって言ってたでしょ」


 ジョシュアは訓練場の中央を見た。


「でも、武器を持ってないよ」


「木剣を借りればいいじゃない」


 エリシアは訓練場の端に置かれた木剣を指さした。


 ジョシュアは1本手に取った。


 重さを確かめるように、軽く振ってみる。


 手に馴染む。


 不思議なほど、違和感がなかった。


「じゃあ、まずは人形を斬ってみて」


 エリシアが言った。


「分かった」


 ジョシュアは人形の前に立った。


 木剣を握る。


 その瞬間、自然と足の位置が決まった。


 右足を少し引き、身体の重心を落とす。


 剣先を相手へ向ける。


 誰かに教わった覚えはない。


 けれど、その構えが最も動きやすいことだけは分かった。


 レオンが目を細めた。


「……へえ」


「どうしました?」


 エリシアが尋ねる。


「いや、続けてもらおう」


 ジョシュアは木剣を振った。


 刃が人形の肩口を捉える。


 乾いた音が響いた。


 続けて、身体をひねりながら横薙ぎに振る。


 さらに一歩踏み込み、木剣を引き戻した。


 動きが途切れない。


 次の攻撃へ移るための姿勢が、自然とできていた。


 エリシアは口を開けたまま見ていた。


「……ちょっと」


 ジョシュアが振り向く。


「何?」


「あんた、本当に剣を習ったことないの?」


「覚えてないけど……」


 エリシアはレオンを見た。


「どう思います?」


 レオンは腕を組んだ。


「少なくとも、完全な初心者ではないね」


「やっぱり?」


「構えも、重心の移動も、剣の戻し方も。身体に染みついている」


 ジョシュアは木剣を見た。


 確かに、振り方を考える必要はなかった。


 ただ、身体が動きたいように動かしただけだ。


「でも、実戦では棍棒を避けきれなかったよ」


 ジョシュアが言うと、レオンは頷いた。


「それは不思議じゃない。身体が動きを覚えていても、状況を正しく判断できるとは限らないからね」


 彼は人形へ近づいた。


「それに、今の君の剣は少し危うい」


「危うい?」


「動きが滑らかすぎるんだ。考えるより先に身体が動いている。訓練では長所になるけれど、相手の動きを読み違えたときに修正が遅れる可能性がある」


 ジョシュアは頷いた。


 昨日の戦いを思い出す。


 最初のゴブリンを倒した直後、別の敵に反応できず、腕を打たれた。


 あのとき、周囲を見る余裕がなかった。


「……確かに」


「だから、今の君には実戦経験よりも、まず状況判断の訓練が必要だと思う」


 レオンはそう言って、エリシアへ向き直った。


「彼を前衛に加えるなら、しばらくは無理をさせない方がいい」


「そのつもりです」


 エリシアは即答した。


「昨日も無茶したんですから」


「……反省してるよ」


 ジョシュアが言うと、2人は顔を見合わせた。


 そして、同時にため息をついた。


「本当に?」


「本当に反省してるってば」


 レオンは小さく笑った。


「まあ、少なくとも素直ではあるようだね」


◇


 訓練を終えた3人は、ギルドの食堂へ戻った。


 レオンは席に着くと、鞄から小さな紙を取り出した。


「さて、僕としては君たちと組んでみたいと思っている」


 エリシアが頷いた。


「私も賛成です。ジョシュアは?」


「うん。よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 レオンは微笑んだ。


「ただし、最初から正式なパーティーを組む必要はない。まずは何度か依頼を受けて、お互いの相性を確かめよう」


「その方が安心ですね」


 エリシアが答える。


「それで、何か受けたい依頼があるんですか?」


「実は、少し気になっているものがある」


 レオンは紙を広げた。


 そこには、ギルドの依頼書を写したらしい内容が書かれていた。


「街の北にある古い水路の調査依頼だ」


「水路?」


 ジョシュアが尋ねる。


「昔、農地へ水を引くために造られた施設らしい。今はほとんど使われていないんだけど、最近、内部から妙な物音がするという報告が出ている」


「魔物ですか?」


 エリシアが聞く。


「その可能性がある。ただ、まだ正体は確認されていない」


 レオンは紙の一部を指さした。


「依頼内容は内部の状況確認と報告。危険があれば撤退して構わない。Fランクでも受注可能だ」


 エリシアは腕を組んだ。


「……調査依頼なら、私たちでもできそうですね」


「そう思う。ただ、暗い場所が多いらしいから、光源が必要だね」


「魔法で明かりを出せるんですか?」


 ジョシュアが尋ねる。


「簡単なものならね。長時間となると魔力の消費が気になるけど」


「便利だね、魔法って」


「君は本当に魔法に興味があるんだね」


 レオンは笑った。


 エリシアは依頼書を見つめていた。


「でも、正体不明の物音か……」


「気になる?」


「ええ。危険があるなら、もっと詳しく調べてから受けたいです」


「賢明だね」


 レオンは頷いた。


「だから、今日はまず受付で情報を確認しようと思っている」


 3人は席を立ち、依頼掲示板へ向かった。


 古い水路の調査依頼は、掲示板の端に貼られていた。


 報酬は900ユグド。


 3人で分ければ、1人300ユグドになる。


 ジョシュアはその金額を見て、少し安心した。


 昨日と同じくらいの収入があれば、今夜も宿に泊まれる。


「これ、受けてみようか」


 ジョシュアが言うと、エリシアは依頼書を見たまま答えた。


「まだ決めないわよ。まずは情報を聞いてから」


「分かった」


 レオンは依頼書を掲示板から外し、受付へ向かった。


 リーナが顔を上げる。


「おはようございます。今日は3人でいらしたんですね」


「ええ。こちらの依頼について、少し確認したいことがありまして」


 レオンが紙を差し出す。


 リーナは依頼書に目を通した。


「ああ、北の旧水路ですね」


「最近、物音がするという話ですが、具体的にはどんな音なんでしょうか?」


 リーナは少し考えた。


「報告では、何かを引きずるような音や、金属を叩くような音が聞こえるそうです」


「目撃情報は?」


「今のところありません。ただ……」


 リーナは言葉を切った。


 エリシアが眉を寄せる。


「ただ?」


「昨日、調査に向かった冒険者がいるんです」


 レオンの表情が変わった。


「その人は?」


 リーナは受付台の上で手を組んだ。


「まだ、戻っていません」


 3人の間に沈黙が落ちた。


 ジョシュアは依頼書を見た。


 古い水路。


 正体不明の物音。


 そして、戻らない冒険者。


 エリシアが口を開いた。


「……その依頼、本当にFランクで受けられるんですか?」


 リーナはすぐには答えなかった。

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