Eランク昇格試験
第41話「Eランク昇格試験」
王都の冒険者ギルドは、朝から普段以上の賑わいを見せていた。
依頼を探す冒険者たちの声に混じって、訓練場へ向かう者たちの足音が響いている。
その中に、五人の姿があった。
「おはよう!」
エリシアが元気よく手を振った。
すでにギルド前で待っていたジョシュアとレオンが振り向く。
「おはようございます」
「おはよう、エリシア」
「二人とも早いね!」
「僕は少し早く目が覚めてしまって」
ジョシュアが答える。
「僕も似たようなものだよ」
レオンは微笑んだ。
「試験のことを考えていたら、あまり眠れなくてね」
「レオンでも緊張するんだ」
「もちろん。失敗したくないからね」
エリシアは笑った。
「私も!」
そこへ、ダグラスが歩いてきた。
「おはよう」
「おはよう!」
エリシアが答える。
「盾は大丈夫?」
「ああ。昨日、修理してもらった」
ダグラスは背負っていた大盾を軽く叩いた。
「これで問題ない」
最後に現れたのはミアだった。
「おはよ」
彼女は少し眠そうに目を擦っている。
「ちゃんと寝た?」
エリシアが尋ねた。
「寝たわよ。ルイが朝から大騒ぎしてただけ」
「何かあったんですか?」
ジョシュアが尋ねる。
「私が試験に受かったら、お祝いに肉を食べたいんですって」
ミアはため息をついた。
「まだ受かってもいないのに」
「いいじゃないか」
ダグラスが笑った。
「帰りに何か買っていけばいい」
「そうしたいところだけど、財布と相談ね」
ミアは肩をすくめた。
五人は顔を見合わせた。
昨日までの緊張は、まだ少し残っている。
それでも、こうして仲間と話していると、不思議と気持ちが落ち着いた。
「よし!」
エリシアが拳を握った。
「行こう!」
五人はギルドの中へ入った。
◇
午前九時。
ギルド併設の訓練場には、十二名の受験者が集まっていた。
剣士、槍使い、弓使い、魔法使い。
装備も年齢も様々だったが、全員がFランクからEランクへの昇格を目指している。
訓練場の中央には、年配の男性が立っていた。
短く刈り込んだ白髪。
日に焼けた顔。
左頬には、古い傷跡が残っている。
男性は受験者たちを見回した。
「全員揃ったな」
低い声が響く。
「本日の昇格試験を担当する、ギルド試験官のグレイヴだ」
受験者たちが姿勢を正した。
「まず、確認しておく」
グレイヴは腕を組んだ。
「この試験は、強い奴を選ぶためのものじゃない」
エリシアが首を傾げた。
「……え?」
グレイヴは続けた。
「冒険者として、次のランクの依頼を任せられるか。それを判断するための試験だ」
彼は受験者たちを見回した。
「剣が強くても、仲間を見捨てる奴は失格。魔法が得意でも、状況を判断できない奴は失格だ」
レオンが小さく頷いた。
「午前中は基礎審査。午後は実技審査を行う」
グレイヴは手元の書類を開いた。
「まずは基礎審査から始める。名前を呼ばれた者は、順番に前へ出ろ」
◇
最初の審査は、冒険者としての基礎知識だった。
机の上には、魔物の特徴が記された資料や、簡単な地図が並べられている。
受験者は一人ずつ呼ばれ、試験官からの質問に答えていく。
「では、次。レオン・アルフェリス」
「はい」
レオンが前へ出た。
グレイヴは一枚の地図を指さした。
「この森で、三人組の冒険者が行方不明になったとする。最後に目撃された場所はここだ。お前なら、どう捜索する?」
レオンは地図を見つめた。
「まず、最後の目撃地点と周辺の地形を確認します」
「それから?」
「捜索範囲を絞ります。水場や獣道、避難できそうな場所を優先します。ただし、行方不明の原因が魔物である可能性もあるので、単独行動は避けます」
グレイヴが頷いた。
「悪くない」
次はミアだった。
「ミア・クロフォード」
「はい」
グレイヴは机の上に三つの足跡の図を並べた。
「この中で、灰牙狼の足跡はどれだ?」
ミアは一目見て答えた。
「真ん中です」
「理由は?」
「爪の跡が深いことと、足指の開き方です。ほかの二つは形が違います」
「正解だ」
ミアは少し得意げに笑った。
ダグラスには、護衛依頼中の判断について質問された。
「護衛対象が負傷した。だが、敵はまだ周囲にいる。どうする?」
「まず護衛対象を安全な場所へ移します。移動が難しければ、仲間と連携して防御を固めます」
「敵を倒すことを優先しないのか?」
「護衛依頼なら、守ることが最優先です」
グレイヴは頷いた。
「その通りだ」
エリシアには、魔物との遭遇時の判断が問われた。
「目の前に、自分より明らかに強い魔物が現れた。どうする?」
「戦います!」
即答だった。
グレイヴの眉が動いた。
「……ほう?」
レオンが小さく顔を覆った。
ミアも額に手を当てる。
エリシアは二人の反応に気づき、慌てて言い直した。
「あっ、違います! まず仲間を逃がして、それから……」
「それから?」
「……私も逃げます」
グレイヴはしばらく彼女を見つめた。
「最初からそう答えろ」
「はい……」
エリシアは肩を落とした。
最後に、ジョシュアが呼ばれた。
「ジョシュア」
「はい」
グレイヴは一枚の依頼書を差し出した。
「この依頼を受けたとする」
そこには、街道沿いに現れた魔物の討伐依頼が記されていた。
討伐対象は三体。
ただし、出現場所の情報は曖昧だった。
「依頼を受ける前に、何を確認する?」
ジョシュアは依頼書を読んだ。
「……目撃情報です」
「ほう」
「いつ、どこで、誰が見たのか。それから、魔物の種類と数が正しいのかも確認したいです」
「理由は?」
「依頼書の情報だけでは、危険の大きさが分からないからです」
グレイヴは腕を組んだ。
「なるほど」
ジョシュアは続けた。
「もし三体以上いた場合、僕たちだけでは対処できないかもしれません。だから、撤退する場所も考えておきたいです」
グレイヴは頷いた。
「いい判断だ」
ジョシュアは小さく息を吐いた。
午前の審査は、こうして進んでいった。
◇
昼休憩。
五人は訓練場の端に腰を下ろしていた。
「……危なかった」
エリシアが呟いた。
「何が?」
ミアが尋ねる。
「最初の質問」
「自分より強い魔物と戦うって答えたやつ?」
「言わないで!」
エリシアは顔を赤くした。
レオンが苦笑した。
「でも、途中で考え直せたのはよかったと思うよ」
「本当?」
「うん。試験官も、最後の答えには納得していたみたいだし」
エリシアは少し安心したように息を吐いた。
ダグラスが水を飲んだ。
「午後は実技か」
「どんなことをするんでしょうね」
ジョシュアが尋ねた。
「普通なら、模擬戦か実戦形式の課題だろうね」
レオンが答えた。
「ただ、試験官は仲間との連携を重視しているようだった」
ミアが頷いた。
「じゃあ、昨日の訓練が役に立つかもしれないわね」
「そうだな」
ダグラスが笑った。
「時風さんには感謝しないと」
その時、訓練場の向こうから声が響いた。
「午後の実技審査を開始する!」
グレイヴだった。
受験者たちが立ち上がる。
「全員、中央へ集合!」
五人も立ち上がった。
◇
午後の実技審査は、訓練場の奥にある広い区画で行われることになった。
そこには、木製の障害物や低い柵が配置されている。
グレイヴは受験者たちを見回した。
「これから行うのは、模擬依頼だ」
彼は背後の区画を指さした。
「想定は、魔物が出現した森の中。お前たちは指定された地点まで進み、目標物を回収して帰還する」
エリシアが目を輝かせた。
「おお……!」
「ただし、途中には妨害役がいる」
グレイヴが手を叩くと、訓練場の奥から数人の冒険者が現れた。
全員、木製の武器を持っている。
「彼らはギルド所属の協力者だ。試験中は敵役として行動する」
レオンが小さく頷いた。
「なるほど」
「目標物を回収しても、仲間を置き去りにしたり、無理な戦闘を続けたりした場合は減点する」
グレイヴは続けた。
「逆に、状況に応じて撤退する判断も評価対象だ」
ミアが腕を組んだ。
「ただ強ければいいってわけじゃないのね」
「その通りだ」
グレイヴは頷いた。
「では、順番に始める」
受験者たちは、個人申請者とパーティー申請者に分かれた。
最初に個人申請者たちの審査が行われた。
ある剣士は、敵役を倒すことに夢中になり、目標物を回収する前に時間切れとなった。
別の弓使いは、敵を避けながら進んだものの、帰還経路を見失った。
成功した者もいれば、途中で失敗した者もいる。
五人はその様子を見ながら、互いに小声で相談していた。
「敵を全部倒す必要はないんだね」
エリシアが言った。
「そうだね」
レオンが頷く。
「むしろ、必要以上に戦うと不利になる」
ミアは障害物の配置を見つめた。
「奥の方、見通しが悪いわね」
「敵が隠れているかもしれないな」
ダグラスが答える。
ジョシュアは地面に置かれた木箱を見た。
目標物は、あの中にあるのだろう。
だが、そこへ向かう道は一つではない。
「……正面から行かなくてもいいんですよね」
ジョシュアが呟いた。
レオンが彼を見る。
「うん。ルートは自由みたいだ」
「なら、少し考えてみたいです」
ジョシュアは地面に指で簡単な図を描いた。
障害物。
敵役が隠れられそうな場所。
目標物の位置。
五人は顔を寄せた。
◇
「次!」
グレイヴの声が響いた。
「エリシア、レオン、ミア、ダグラス、ジョシュア!」
五人が立ち上がる。
「はい!」
エリシアが元気よく返事をした。
グレイヴは彼らを見回した。
「準備はいいか?」
「はい」
レオンが答える。
ミアは短剣を抜き、ダグラスは盾を構えた。
エリシアは剣を握り直す。
ジョシュアも鞘から剣を抜いた。
グレイヴは片手を上げた。
「では、始め!」
合図と同時に、五人は動き出した。
先頭はミア。
その少し後ろにダグラスとエリシア。
レオンとジョシュアは、周囲を確認しながら進む。
障害物の陰から、敵役の冒険者が現れた。
「来た!」
エリシアが叫ぶ。
敵役は木剣を構え、こちらへ向かってくる。
「エリシア、待って!」
レオンが声をかけた。
エリシアは踏み出しかけた足を止めた。
「えっ?」
「倒す必要はない!」
ジョシュアが叫んだ。
「ダグラスさん、進路を塞いでください!」
「分かった!」
ダグラスが前へ出た。
盾で敵役の進路を制限する。
その隙に、ミアが横を抜けた。
「こっち!」
彼女が手を振る。
五人は敵役を避け、障害物の間を進んだ。
グレイヴは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
「……ほう」
彼は小さく呟いた。
五人は順調に進んでいた。
だが、目標物のある木箱まで、あと少しというところで。
「……っ!」
ミアが足を止めた。
前方の障害物の陰から、二人の敵役が現れたのだ。
さらに、背後からも足音が響く。
「挟まれた!」
エリシアが叫んだ。
ダグラスが盾を構える。
「後ろは俺が見る!」
レオンは杖を握り直した。
ミアは周囲を見回した。
「どうする!?」
ジョシュアは前方を見た。
敵役は二人。
背後にも一人。
正面から突破するのは難しい。
だが、障害物の配置を見れば、右側に細い通路がある。
「……右です!」
ジョシュアが叫んだ。
「右の通路から抜けましょう!」
レオンが頷いた。
「分かった!」
ダグラスが盾で敵役を押し留める。
エリシアがその横に立ち、木剣を受け止めた。
「ミア、先に!」
「了解!」
ミアが走った。
右の通路へ飛び込み、障害物の陰へ消える。
その後をレオンが追った。
ジョシュアは振り向いた。
「エリシアさん、ダグラスさん!」
「大丈夫!」
エリシアが答えた。
「先に行って!」
ジョシュアは一瞬迷った。
だが、すぐに頷いた。
「分かりました!」
彼はレオンの後を追った。
残された二人は、敵役を引きつけながら少しずつ後退する。
ダグラスが盾を構え直した。
「エリシア、右へ!」
「うん!」
二人は同時に動いた。
敵役の攻撃を避け、細い通路へ飛び込む。
その先では、ミアが木箱を開けていた。
「見つけた!」
彼女は中から小さな旗を取り出した。
目標物だった。
「回収できたわ!」
レオンが周囲を確認する。
「帰還しよう!」
五人は再び隊列を整え、出口へ向かった。
敵役が追ってくる。
だが、ダグラスが盾で進路を塞ぎ、エリシアが牽制する。
ミアは先頭で道を確認し、レオンが全体の位置を見ながら声をかけた。
ジョシュアは最後尾から仲間たちを確認していた。
そして。
「到着!」
ミアが叫んだ。
五人は、指定された帰還地点へ辿り着いた。
グレイヴが片手を上げる。
「そこまで!」
敵役たちが動きを止めた。
五人は息を整えながら、互いの顔を見た。
「……できた?」
エリシアが尋ねた。
レオンが頷いた。
「目標物は回収したし、全員戻ってきた」
ミアが旗を掲げた。
「ちゃんとあるわよ!」
ダグラスは盾を下ろした。
「なら、あとは評価次第だな」
ジョシュアは小さく息を吐いた。
グレイヴが近づいてきた。
彼は五人を見回した。
「……なるほど」
エリシアが緊張した表情になる。
「ど、どうでしたか?」
グレイヴはすぐには答えなかった。
手元の記録用紙を確認し、何かを書き込む。
そして、顔を上げた。
「結果は、全員の審査が終わってから発表する」
「ええっ!?」
エリシアが声を上げた。
グレイヴは眉を上げた。
「何か問題でも?」
「い、いえ!」
エリシアは慌てて首を振った。
グレイヴは小さく頷いた。
「では、次の受験者!」
五人は訓練場の端へ戻った。
◇
夕方。
すべての審査が終了した。
十二名の受験者が、訓練場の中央に並んでいる。
グレイヴは書類を手に、全員を見回した。
「本日の審査は、これですべて終了だ」
受験者たちが姿勢を正した。
「これから、合否を発表する」
エリシアが小さく息を呑んだ。
ミアは両手を握り、レオンは静かに前を見つめている。
ダグラスは落ち着いた様子だったが、盾を持つ手には少し力が入っていた。
ジョシュアも、グレイヴの言葉を待っていた。
グレイヴは名簿を開いた。
「まず、個人申請者から発表する」
名前が一人ずつ読み上げられる。
合格した者は安堵し、不合格となった者は悔しそうに唇を噛んだ。
やがて、個人申請者の発表が終わった。
グレイヴは次の書類を取り出した。
「続いて、五人組の申請者」
エリシアの肩がぴくりと動いた。
「エリシア、レオン、ミア、ダグラス、ジョシュア」
五人が顔を上げる。
グレイヴは続けた。
「お前たちの実技審査では、敵役との不要な戦闘を避け、目標物の回収と全員の帰還を優先した」
彼は記録用紙に目を落とした。
「途中、包囲された際にも役割を分担し、仲間を置き去りにすることなく突破している」
レオンが静かに頷いた。
「ただし、改善点も多い」
グレイヴは顔を上げた。
「エリシア。敵を見つけた際、反射的に前へ出ようとする癖がある」
「は、はい!」
「ダグラス。防御に集中するあまり、周囲の状況確認が遅れる場面があった」
「承知しました」
「ミア。先行する際、仲間との距離が開きすぎることがある」
「はい」
「レオン。指示は的確だが、判断に時間がかかる場面があった」
「気をつけます」
「ジョシュア」
「はい」
グレイヴは彼を見た。
「状況判断は悪くない。だが、仲間に指示を出すことに集中し、自分の退路を見失いかけていた」
「……はい」
ジョシュアは頷いた。
グレイヴは書類を閉じた。
「以上を踏まえた結果――」
五人は息を止めた。
「五名全員、合格とする」
一瞬、静寂が訪れた。
「……え?」
エリシアが目を瞬かせた。
グレイヴは繰り返した。
「合格だ」
「……やった」
エリシアが呟いた。
次の瞬間。
「やったああああ!」
彼女は両手を上げた。
ミアも笑った。
「本当に!?」
「ああ」
ダグラスが頷いた。
「合格だ」
レオンは深く息を吐いた。
「……よかった」
ジョシュアは仲間たちを見回した。
エリシアが笑っている。
ミアも、ダグラスも、レオンも。
そして、自分も。
「……合格、ですね」
ジョシュアが呟いた。
エリシアは彼の手を掴んだ。
「そうだよ!」
彼女は笑った。
「五人で、Eランクだよ!」
グレイヴは咳払いをした。
「喜ぶのは構わんが、まだ説明が残っている」
「あっ、はい!」
エリシアは慌てて姿勢を正した。
グレイヴは続けた。
「正式なランク更新は、ギルド受付で行う。今日中に手続きを済ませておけ」
彼は五人を見回した。
「Eランクになれば、受けられる依頼の種類も増える。その分、危険も増す」
五人は真剣な表情で頷いた。
「今回の合格は、冒険者として一人前になった証明ではない。ようやく、次の段階へ進む資格を得たということだ」
「はい!」
エリシアが答えた。
グレイヴは小さく頷いた。
「よし。以上で試験を終了する」
◇
夕暮れの王都。
冒険者ギルドの受付で、五人は新しい冒険者証を受け取った。
そこには、それぞれの名前とともに、新しいランクが記されている。
Eランク。
エリシアは何度も冒険者証を眺めていた。
「……本当にEランクだ」
「何回確認するのよ」
ミアが笑った。
「だって、嬉しいんだもん!」
「まあ、気持ちは分かるけど」
ミアも自分の冒険者証を見た。
その表情は、どこか誇らしげだった。
ダグラスは冒険者証をしまった。
「これで、少しは難しい依頼も受けられるな」
「そうだね」
レオンが頷いた。
「ただ、無理はしないようにしよう」
「もちろん!」
エリシアが答えた。
ジョシュアは冒険者証を手の中で確かめた。
Eランク。
仲間と一緒に手に入れた、新しい肩書きだった。
その時。
「おーい!」
聞き慣れた声が響いた。
時風だった。
ギルドの入口に立ち、片手を振っている。
「どうだった!?」
エリシアは振り向いた。
そして、冒険者証を高く掲げた。
「合格したよー!」
「おお!」
時風は笑った。
「そりゃめでたい!」
彼は五人のもとへ歩いてきた。
「全員か?」
「はい」
レオンが答えた。
「五人全員です」
「いいじゃないか!」
時風は満足そうに頷いた。
「じゃあ、今日は祝杯だな!」
ミアが眉を上げた。
「時風さんが飲みたいだけじゃない?」
「はははっ! ばれたか!」
エリシアが笑った。
「でも、今日はお祝いしたい!」
「そうだな」
ダグラスも頷いた。
ジョシュアは仲間たちを見た。
「僕も、皆さんと一緒にお祝いしたいです」
時風は笑った。
「よし、決まりだ!」
彼は先頭に立ち、歩き出した。
「今日は俺が奢ってやる!」
「本当!?」
ミアの耳がぴんと立った。
「おう!」
時風は胸を張った。
「好きなものを食え!」
「やった!」
エリシアが喜んだ。
ミアは少し考えた。
「……ルイも連れてきていい?」
「もちろん!」
時風は頷いた。
「人数が増えた方が賑やかでいい!」
ミアは笑った。
「ありがとう!」
五人は顔を見合わせた。
そして、夕暮れの街を歩き始めた。
今日、彼らはFランクを卒業した。
次にどんな依頼を受けるのか。
どんな魔物と出会うのか。
まだ分からないことばかりだった。
それでも、今夜くらいは難しいことを考えずにいよう。
エリシアは新しい冒険者証を大切にしまい、仲間たちの後を追った。




