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幸運を売る街

第24話 幸運を売る街


 王都を出発してから、三時間ほどが経過した。


 街道の両側には緩やかな丘陵が広がり、遠くには深い緑に覆われた森が見える。時折、荷馬車とすれ違うものの、道は比較的穏やかだった。


「ねえ、時風さん!」


「んー?」


「《煌めき通り》って、あとどれくらいで着くんですか?」


 エリシアが尋ねると、時風は空を見上げた。


「そうだなぁ。この調子なら夕方前には着くんじゃないか?」


「まだそんなにかかるんですか!?」


「歩きだからな」


「馬車にすればよかった……」


「出発前に言ったじゃない」


 ミアが呆れたように言った。


「乗合馬車なら楽に行けるって」


「だって、歩いた方が冒険っぽいと思ったんだもん!」


「それで疲れたって言われてもね……」


 レオンが苦笑する。


「まあ、街道を歩くのも悪くないよ。景色も綺麗だし」


「そうだな」


 ダグラスが頷いた。


「それに、王都の外での行動にも慣れておきたい。今後は長距離の依頼を受けることもあるだろうし」


「それはそうだけど……」


 エリシアは肩を落とした。


 ジョシュアはそんなやり取りを聞きながら、周囲の景色を眺めていた。


 王都を出てから、見えるもの全てが新鮮だった。


 風に揺れる草原。


 遠くで草を食む動物の群れ。


 街道脇に建てられた古い道標。


 何かを見れば、記憶が戻るかもしれない。


 そんな期待もあったが、今のところ思い出せたことは何もない。


「……ジョシュア」


 隣を歩いていたダグラスが声をかけた。


「疲れてないか?」


「……うん、大丈夫」


「そうか。無理はするなよ」


「ありがとう」


 ダグラスは頷き、再び前を向いた。


 ジョシュアも歩き続ける。


 不思議なことに、身体はほとんど疲れていなかった。


 長い距離を歩いているはずなのに、息も乱れていない。


 けれど、それが普通なのかどうか、今のジョシュアには分からなかった。


◇


 昼を少し過ぎた頃。


 一行は街道沿いの休憩所で足を止めた。


 屋根のある簡素な建物の周囲には、旅人たちが腰を下ろせる長椅子が並んでいる。近くには井戸があり、馬車の御者たちが水を汲んでいた。


「はぁーっ!」


 エリシアが長椅子に座り込んだ。


「生き返るー!」


「大げさね」


 ミアが水筒を差し出す。


「ほら、水」


「ありがとう!」


 エリシアは勢いよく飲み始めた。


「一気に飲みすぎるなよ」


 ダグラスが注意する。


「分かってる!」


 返事だけは元気だった。


 レオンは地図を広げ、現在地を確かめている。


「この先に小さな宿場町があるみたいだね」


「そこを抜ければ、あとは一本道だ」


 時風が横から覗き込んだ。


「夕方には着くさ」


「時風さんは、何度も行ったことがあるんですか?」


 ジョシュアが尋ねる。


「ああ。何度もな」


「……昔からある街なんですか?」


「今みたいに賑やかになったのは、そんなに昔じゃないな」


 時風は近くの長椅子に腰を下ろした。


「昔はもっと小さな場所だった。旅人が休んで、商人が品物を売って、それだけの街だったんだ」


「へえ……」


 エリシアが興味深そうに顔を上げる。


「それがどうして、そんな大きな歓楽街になったんですか?」


「人が集まったからだろうな」


「……それだけ?」


「人が集まれば金も集まる。金が集まれば、もっと人が来る。そういうもんさ」


 時風は笑った。


「それに、今の《煌めき通り》には、人を惹きつけるものがたくさんあるからな」


「例えば?」


「美味い飯、派手な芝居、腕のいい芸人。それから……」


 時風は指先で硬貨を弾く真似をした。


「一夜で大金持ちになれるかもしれないって夢だな」


「……賭場ね」


 ミアが眉をひそめる。


「そういうこと」


「私は絶対にやらないわよ」


「賢いな!」


「あなたもやらないでよ?」


「俺か?」


 時風は少し考えた。


「気が向いたらな」


「……絶対やるつもりでしょ」


 時風は答えず、楽しそうに笑った。


 その時だった。


「おい、聞いたか?」


 近くのテーブルから、男たちの話し声が聞こえてきた。


「また《煌めき通り》で大当たりが出たらしいぞ」


「本当か?」


「ああ。昨日の夜、どこかの若い商人が賭場で大金を当てたんだと」


「へえ! そりゃ羨ましいな!」


 エリシアの耳がぴくりと動いた。


「……大当たり?」


「聞かなくていい」


 ミアが即座に言った。


「まだ何も言ってないよ!」


「顔に書いてあるわよ!」


 男たちの会話は続いていた。


「ただな、その隣で遊んでた奴はひどいもんだったらしい」


「何があったんだ?」


「賭けるたびに負けて、最後には靴まで質に入れようとしてたって話だ」


「ははっ! そりゃ間抜けだな!」


 男たちは笑った。


 だが、一人だけ笑わなかった者がいた。


 ジョシュアだった。


「……靴まで?」


 小さく呟く。


 賭け事で財産を失う人間がいる。


 昨日、ギルドで聞いた話と同じだった。


「気になるか?」


 時風が尋ねた。


「……うん」


「賭け事なんて、そんなもんだぞ」


「……そうなんですか?」


「勝つ奴がいれば負ける奴もいる。全員が勝てる遊びなんて、普通はないからな」


 時風はそう言って立ち上がった。


「さて、そろそろ行くか」


「えっ、もう!?」


 エリシアが悲鳴を上げた。


「休みすぎると、着く頃には夜になるぞ」


「うぅ……」


 ミアが笑った。


「ほら、立ちなさい」


「はーい……」


 エリシアは渋々立ち上がった。


 ジョシュアも荷物を背負い直す。


 その時、ふと時風を見ると、彼は街道の先を眺めていた。


 先ほどまでの笑顔は変わらない。


 けれど、何かを考えているようにも見えた。


「……時風さん?」


「ん?」


「……何でもないです」


「そうか?」


 時風は笑った。


「じゃあ、行こうぜ」


◇


 午後。


 一行は街道を進み、小さな宿場町へ到着した。


 石造りの家々が並び、通りには旅人向けの商店が軒を連ねている。


 王都ほど大きくはないが、行き交う人々の数は多かった。


「ここ、結構賑やかだね!」


 エリシアが辺りを見回す。


「《煌めき通り》へ向かう人たちが立ち寄るんだろうね」


 レオンが答えた。


 通りには、華やかな服を着た商人や旅芸人の姿もあった。


 大きな楽器を背負った一団。


 色鮮やかな衣装を身につけた踊り子。


 そして、荷車いっぱいに酒樽を積んだ商人たち。


「……みんな、あの街へ行くのかな?」


 ジョシュアが尋ねる。


「そうだろうな」


 ダグラスが答えた。


「大きな歓楽街なら、物資も人手も必要だろうし」


「なるほど……」


 ジョシュアは頷いた。


 その時、通りの一角から賑やかな声が聞こえてきた。


「さあさあ! 幸運のお守りはいかがですかー!」


 小さな露店だった。


 台の上には、色とりどりの石や装飾品が並べられている。


「《煌めき通り》へ行くなら、幸運のお守りは必需品! 勝負運を高めたい方はぜひ!」


「……幸運のお守り?」


 エリシアが足を止めた。


 ミアがすぐに腕を引く。


「買わないわよ」


「まだ何も言ってない!」


「絶対欲しそうな顔してた!」


「ちょっと見るだけ!」


「駄目!」


 店主が二人に気づいた。


「お嬢さん方! 見るだけでもどうぞ!」


「ほら!」


「ほら、じゃない!」


 エリシアはミアを引っ張り、露店へ近づいた。


 ジョシュアたちも仕方なく後を追う。


「いらっしゃい!」


 店主は人のよさそうな笑顔を浮かべた。


「こちらは幸運を呼ぶと評判のお守りでございます!」


 台の上には、小さな金色の鈴が並んでいた。


「これを身につけて賭場へ行けば、勝負運が上がること間違いなし!」


「本当ですか!?」


 エリシアが目を輝かせた。


「もちろん!」


「……根拠は?」


 ミアが冷たく尋ねた。


 店主の笑顔が少し固まる。


「え、ええと……昔から伝わる由緒正しいお守りでして……」


「誰が作ったの?」


「そ、それは……」


「効果を証明できるの?」


「…………」


 店主は黙り込んだ。


 ミアは腕を組んだ。


「つまり、ただの鈴でしょ?」


「い、いやぁ……」


 レオンが苦笑する。


「ミア、その辺にしてあげなよ」


「だって、適当なこと言って売りつけようとしてるんだもの」


 エリシアは少し残念そうに鈴を見つめた。


「……可愛いのになぁ」


「可愛いから欲しいなら、そう言いなさいよ」


「えっ?」


「幸運がどうとかじゃなくて、飾りとして欲しいなら別にいいでしょ」


「……いいの?」


「自分のお金で買うならね」


 エリシアの顔がぱっと明るくなった。


「じゃあ、一つください!」


「ま、毎度あり!」


 店主はほっとした様子で鈴を包んだ。


 エリシアは受け取った小さな鈴を、嬉しそうに眺めている。


「えへへ、綺麗!」


「よかったな」


 ダグラスが笑った。


 その横で、時風が店主に尋ねた。


「なあ、最近あっちの街はどうだ?」


「え?」


「《煌めき通り》だよ」


「ああ!」


 店主はすぐに笑顔になった。


「そりゃもう、大賑わいですよ!」


「ほう?」


「特に最近は、賭場が盛り上がってましてね。大当たりの噂を聞きつけて、遠くから来る人も多いんです」


「へえ」


「ただ、妙な話もありまして……」


 店主は少し声を落とした。


「妙な話?」


 ジョシュアが尋ねる。


「ええ。最近、運の悪い人が増えたって噂です」


「……運の悪い人?」


「そうです。賭場で負けるだけじゃなくて、道で転んだり、財布を落としたり、買った品物がすぐ壊れたり……」


 ジョシュアはレオンと顔を見合わせた。


 ギルドで聞いた話と似ている。


「まあ、ただの噂でしょうけどね!」


 店主は笑った。


「だからこそ、こういうお守りが売れるんですよ!」


「……なるほどね」


 ミアが呆れたように言った。


 時風は店主に軽く手を振った。


「ありがとな」


「いえいえ! お気をつけて!」


 一行は露店を離れた。


「……やっぱり、変な噂があるんだね」


 レオンが呟いた。


「偶然にしては、似た話を何度も聞くな」


 ダグラスが頷く。


「……何かあるのかな?」


 ジョシュアが尋ねた。


「さあな」


 時風が答えた。


「世の中、妙な噂なんていくらでもあるさ」


「……そうですか」


「まあ、行けば分かるだろ」


 時風は笑った。


「それより、そろそろ街が見えてくるぞ」


◇


 夕方。


 丘を越えた瞬間、エリシアが足を止めた。


「……わあ」


 その声につられて、ジョシュアも顔を上げる。


 そして、言葉を失った。


 眼下に、巨大な街が広がっていた。


 幾重にも重なる建物。


 遠くまで続く大通り。


 赤や青、金色の装飾が施された屋根。


 そして、夕暮れの空の下で、無数の魔導灯が一斉に輝き始めていた。


「……すごい」


 ジョシュアが呟く。


 王都とはまるで違う景色だった。


 王都が歴史と秩序を積み重ねた街なら、ここは楽しさと欲望をそのまま形にしたような街だった。


 遠くからでも、賑やかな音楽が聞こえてくる。


 大通りには人が溢れ、馬車が行き交い、巨大な看板が夕日に照らされていた。


「……本当に、街全体が光ってるみたい」


 エリシアが感嘆の声を漏らす。


「これが……《煌めき通り》」


 レオンも目を細めた。


「想像以上だね」


「……大きいな」


 ダグラスが呟く。


 ミアは街を見下ろしながら、少し警戒したように耳を動かした。


「……人が多そうね」


「そりゃそうだ!」


 時風が笑った。


「ここは、夜になってからが本番だからな!」


 そして、街へ向かう坂道を歩き始める。


「さあ、行こうぜ!」


 ジョシュアたちも後に続いた。


 坂を下るにつれ、街の喧騒が近づいてくる。


 楽器の音。


 人々の笑い声。


 商人の呼び込み。


 どこかから漂う甘い菓子の香り。


 街の入口には、大きな門が建てられていた。


 その上には、金色の文字で名前が刻まれている。


 《煌めき通り》


 そして、門の両脇には、揃いの黒い服を着た男たちが立っていた。


 腰には武器。


 胸元には、星を模した小さな徽章。


 ジョシュアが視線を向けると、ダグラスが小声で言った。


「……あれが《煌星》の連中かもしれないな」


「……そうなの?」


「分からない。ただ、警備をしているようには見える」


 男たちは通行人を見回していたが、普通の観光客を止める様子はなかった。


 時風は気にした様子もなく、門へ近づいていく。


「おっ」


 片方の男が時風を見た。


 その表情が、わずかに変わった。


「……あんた」


「ん?」


 時風が振り向く。


 男は何か言いかけたが、すぐに口を閉じた。


「……いや、何でもない」


「そうか?」


 時風は笑った。


「ご苦労さん!」


 そのまま門をくぐっていく。


 ジョシュアたちも後に続いた。


 男たちは何も言わなかった。


 ただ、六人が通り過ぎた後も、しばらく時風の背中を見つめていた。


◇


 街の中は、想像以上の賑わいだった。


「すごーい!」


 エリシアが歓声を上げた。


 通りの両側には、華やかな店が並んでいる。


 大きな窓から音楽が流れる酒場。


 煌びやかな衣装を飾った服飾店。


 焼き菓子の香りが漂う屋台。


 そして、入口に巨大な金貨の装飾を掲げた賭場。


 人々は笑い、歌い、酒を飲み、思い思いに夜を楽しんでいた。


「……こんな場所があるんだ」


 ジョシュアは周囲を見回した。


 見たことのない景色。


 聞いたことのない音楽。


 知らない人々。


 けれど、不思議な感覚があった。


 初めて訪れたはずなのに、どこか懐かしい。


 何かを思い出せそうな気がする。


 しかし、その感覚はすぐに消えてしまった。


「……ジョシュア?」


 エリシアが顔を覗き込んだ。


「どうしたの?」


「……ううん」


 ジョシュアは首を振った。


「何でもない」


「そう?」


「……うん」


 時風が振り向いた。


「どうだ? いい街だろ?」


「はい!」


 エリシアが元気よく答えた。


「すっごく綺麗です!」


「だろ?」


 時風は満足そうに笑った。


「さて、まずは宿を探すか」


「そうね」


 ミアが頷いた。


「荷物を置いてから、少し街を見て回りましょう」


「賛成!」


 エリシアが手を上げる。


 レオンも頷いた。


「情報収集は明日からでもいいかもしれないね。今日は移動で疲れたし」


「そうだな」


 ダグラスが答えた。


 ジョシュアも頷く。


 六人は大通りを進み始めた。


 その途中。


 ジョシュアの目に、一つの掲示板が映った。


 広場の隅に設置された、大きな木製の掲示板。


 そこには、色とりどりの紙が何枚も貼られていた。


 上部には、少し変わった文字が刻まれている。


 《縁結びの掲示板》


「……あれは?」


 ジョシュアが足を止めた。


 時風が振り向く。


「ん?」


 ジョシュアは掲示板を指差した。


「……あれ、何ですか?」


「ああ、あれか」


 時風は笑った。


「この街の名物みたいなもんだな」


「……名物?」


「そうだ。困ってる奴が頼み事を書いて、暇な奴や手を貸したい奴が引き受ける。そんな掲示板だよ」


「……冒険者ギルドの依頼みたいなものですか?」


「似てるけど、ちょっと違うな」


 時風は掲示板へ歩み寄った。


「誰でも自由に頼み事を貼れるし、誰でも引き受けられる。ギルドも《煌星》も関係ない、街の人間たちが勝手に始めた仕組みなんだ」


「へえ……」


 エリシアが興味深そうに覗き込む。


 掲示板には、様々な依頼が貼られていた。


『迷子の猫を探してください』


『明日の舞台の準備を手伝ってくれる方募集』


『落とした指輪を探しています』


『一緒に食事をしてくれる人を探しています』


「……本当に何でもあるんだね」


 レオンが笑った。


「そういう場所だからな」


 時風は頷いた。


 ジョシュアは一枚ずつ紙を眺めていく。


 どれも、普通の人々の小さな願い事だった。


 誰かに助けてほしい。


 誰かと話したい。


 誰かを探している。


 そんな思いが、紙の上に書き残されている。


「……面白いですね」


 ジョシュアが呟いた。


「だろ?」


 時風は笑った。


「この街じゃ、金だけじゃなくて、人との縁も大事ってわけだ」


 ミアが腕を組む。


「……でも、知らない人の依頼を受けるのは危なくない?」


「もちろん、怪しい依頼もあるさ」


 時風は答えた。


「だから、ちゃんと内容を見て、自分で判断するんだ」


「……なるほど」


 ジョシュアは頷いた。


 その時だった。


「……あれ?」


 掲示板の端に、一枚の紙が貼られているのが目に入った。


 ほかの紙よりも古く、端が少し折れている。


 そこには、短い文章が書かれていた。


『最近、身の回りで不幸な出来事が続いています。原因を調べてくれる方を探しています』


 ジョシュアは、その文章をじっと見つめた。


「……不幸な出来事」


 ギルドで聞いた話。


 宿場町で聞いた噂。


 そして、この掲示板。


 同じような話が、また一つ。


「……ジョシュア?」


 レオンが声をかける。


「どうしたんだい?」


「……これ」


 ジョシュアは紙を指差した。


 レオンが覗き込む。


「……なるほど」


 ミアも近づいてきた。


「……また、運が悪いって話?」


「……うん」


 ジョシュアは頷いた。


 時風が後ろから紙を覗き込む。


「ほう」


 そして、少しだけ笑った。


「面白そうな依頼じゃないか」


「……時風さん?」


「どうだ?」


 時風はジョシュアを見た。


「せっかくだし、明日はこいつを調べてみないか?」


 ジョシュアは紙を見つめた。


 原因不明の不幸。


 それが偶然なのか、何か別の理由があるのか。


 今はまだ分からない。


 けれど。


「……うん」


 ジョシュアは頷いた。


「調べてみたいです」


「よし!」


 時風は笑った。


「じゃあ、明日の予定は決まりだな!」


 エリシアが拳を握る。


「初めての街で、初めての依頼!」


「まだ引き受けるって決めたわけじゃないでしょ」


 ミアが呆れた。


「まずは内容を確認しないと」


「分かってるって!」


 レオンが笑った。


「じゃあ、今日は宿を探して、明日改めて来ようか」


「そうだな」


 ダグラスが頷いた。


 六人は掲示板を離れ、再び大通りへ歩き始めた。


 背後では、街の音楽が鳴り続けている。


 笑い声。


 歓声。


 金貨の触れ合う音。


 そして、どこかで上がる、誰かの悲鳴にも似た叫び声。


 それら全てが混ざり合い、《煌めき通り》の夜を彩っていた。


 ジョシュアは一度だけ振り返った。


 《縁結びの掲示板》。


 そこに貼られた、小さな依頼書。


 その紙が、これから自分たちをどこへ導くのか。


 今はまだ、誰も知らなかった。

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