↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/43

勝つための一歩

第19話 勝つための一歩


「対人模擬戦は、5人対5人で行う!」


 教官の声が第3訓練場に響いた。


「武器は訓練用を使用! 魔法は出力を制限し、殺傷を目的とする攻撃は禁止だ。戦闘不能の判定はこちらで行う!」


 訓練場の中央では、職員たちが木製の柵を移動させていた。


 先ほどまで模擬魔狼と戦っていた場所が、二つの陣営に分けられていく。


「勝敗は、相手チームの全員を戦闘不能にするか、制限時間終了時に残っている人数で決定する。人数が同じなら有効打の数で判定だ!」


「……結構、本格的なのね」


 ミアが呟いた。


「相手も考えて動くからね」


 レオンは杖の先端を確かめながら答えた。


「さっきより難しいと思うよ」


「でも、楽しそう!」


 エリシアはすでに剣を握っていた。


「人と戦うのは初めてじゃないけど、こういう訓練は初めて!」


「楽しむのはいいが、突っ込みすぎるなよ」


 ダグラスが釘を刺す。


「分かってるって!」


「さっきも同じことを言ってたぞ」


「今度は本当に分かってる!」


 そのやり取りを聞きながら、ジョシュアは訓練場を眺めていた。


 対人戦。


 魔物とは違い、相手も剣を使い、盾を構え、こちらの動きを読んでくる。


 自分がどれほど戦えるのか、まるで分からなかった。


「ジョシュア」


 ダグラスが声をかける。


「さっき教官に言われたこと、覚えてるか?」


「仲間の動きを見ること?」


「そうだ。それと、無理に一人で倒そうとしなくていい」


 ダグラスは自分の盾を軽く叩いた。


「困ったら俺の後ろへ戻れ」


「……分かった」


「それだけで十分だ」


 ジョシュアは頷いた。


 そのとき、教官が手元の名簿を確認した。


「第4班! 相手は第7班だ!」


 向かい側から、5人の冒険者が歩いてくる。


 先頭にいるのは、短い黒髪の青年だった。


 革鎧を着込み、片手剣を腰に下げている。


 その後ろには槍使い、盾を持った男、弓使い、そして杖を持った女性が続いていた。


「よろしく頼む」


 黒髪の青年が声をかけてきた。


「俺はロイド。第7班のまとめ役だ」


「ダグラスだ。よろしく」


 二人が握手を交わす。


 ロイドはジョシュアたちを見渡した。


「そっちは盾が一人か」


「ああ」


「なるほどな」


 その言い方が、ミアには少し引っかかったらしい。


「……何か?」


「いや、別に」


 ロイドは笑った。


「お互い頑張ろう」


 そう言って、自分の仲間たちのもとへ戻っていった。


「……今の、何?」


 エリシアが首を傾げる。


「多分、こっちの編成を見てたんだと思う」


 レオンが答えた。


「相手は剣、槍、盾、弓、魔法。かなり均等な構成だね」


「嫌な感じ」


 ミアは耳を伏せた。


「こっちの弱いところを探してたんじゃない?」


「模擬戦なんだから、それは当然だろう」


 ダグラスが言った。


「俺たちも考えるぞ」


 5人は円を作った。


「まず、俺が中央を守る。エリシアは右、ジョシュアは左だ」


「うん!」


「分かった」


「ミアは自由に動いていい。ただし、敵を見つけたら早めに知らせてくれ」


「了解」


「レオンは後ろで詠唱。敵の弓使いには注意してくれ」


「僕もそう思ってた」


 レオンが頷く。


「相手に弓がいるなら、魔法を撃つ前に狙われる可能性がある」


「俺が守る」


「頼んだよ」


 作戦を決め終えると、教官が両チームを呼んだ。


「位置につけ!」


 ジョシュアたちは訓練場の片側へ並んだ。


 向こう側では、ロイドたちがすでに構えている。


 盾役が中央。


 槍使いがその隣。


 剣士のロイドは少し離れた位置に立ち、後方に弓使いと魔法使い。


 ジョシュアは剣を握り直した。


 掌に汗が滲んでいる。


「……緊張してる?」


 隣からエリシアが尋ねた。


「少し」


「私も!」


 エリシアは笑った。


「でも、みんながいるから大丈夫!」


 ジョシュアも小さく笑った。


「そうだね」


「両者、準備!」


 教官が片手を上げた。


 訓練場が静まり返る。


 そして。


「始め!」


◇


 最初に動いたのは、相手の弓使いだった。


 弦が鳴る。


「レオン、伏せろ!」


 ダグラスが叫ぶ。


 レオンが身を屈めた直後、先端を丸めた訓練用の矢が頭上を通り過ぎた。


「いきなり僕か!」


「後衛を狙うのは当然だ!」


 ダグラスが盾を構える。


 その正面へ、敵の槍使いが突っ込んできた。


「はあっ!」


 長い槍が突き出される。


 ダグラスは盾で受け止めた。


 乾いた音が響く。


「エリシア!」


「分かってる!」


 エリシアが右から回り込む。


 しかし、その前にロイドが立ちはだかった。


「悪いな。そっちは通せない」


「だったら、あなたを倒す!」


 エリシアが剣を振るう。


 ロイドはそれを受け流した。


 続けて反撃。


 エリシアは身を引き、剣を構え直す。


「……っ、結構やる!」


「そっちもな!」


 二人の剣がぶつかり合う。


 一方、ジョシュアは左側へ回ろうとしていた。


 狙いは、相手の後衛。


 だが、そこへ敵の盾役が移動してきた。


「行かせないぞ!」


 大きな盾が進路を塞ぐ。


「……!」


 ジョシュアは足を止めた。


 右へ動けば盾も右へ。


 左へ動けば、相手も左へ動く。


 簡単には通してもらえない。


「どうした! 来ないのか!」


 相手が挑発する。


 ジョシュアは剣を構えた。


 盾の向こうから、相手の剣が伸びてくる。


 その瞬間、身体が動いた。


 刃を避け、相手の懐へ踏み込む。


 剣先が、盾の横を抜けようとした。


「うおっ!?」


 相手が驚いて盾を引く。


 ジョシュアの剣は、その縁をかすめた。


 あと少し。


 そう思ったとき、相手の足が動いた。


 盾が横から押しつけられる。


「……っ!」


 ジョシュアは後ろへよろめいた。


「甘い!」


 相手が追撃してくる。


 剣が迫った。


 ジョシュアは身体を捻ってかわした。


 だが、そのまま反撃しようとした瞬間、盾が再び目の前へ現れる。


 攻撃が通らない。


 相手は無理に倒そうとしてこなかった。


 ただ、ジョシュアを足止めしている。


「……どうすれば」


 ジョシュアは距離を取った。


 自分だけで突破する方法を考える。


 右か。


 左か。


 それとも正面から押し込むか。


 そのとき。


「ジョシュア! 戻って!」


 ミアの声が聞こえた。


 振り向く。


 レオンのいる後方へ、ロイドが向かっていた。


 エリシアは追いかけているが、少し距離が開いている。


 そして、ダグラスは槍使いに足止めされていた。


「……!」


 ジョシュアは駆け出した。


 しかし、敵の盾役が再び進路を塞ぐ。


「行かせるか!」


 ジョシュアは反射的に剣を振った。


 相手の盾が上がる。


 その下へ足を踏み込み、脇を抜けようとする。


 だが、盾が肩に当たった。


「くっ……!」


 足が止まる。


 そのわずかな時間で、ロイドはレオンの間合いへ入っていた。


「もらった!」


「……まずい!」


 レオンが杖を引く。


 詠唱を始める余裕はない。


 ロイドの剣が振り下ろされる。


 その直前。


「《防御態勢》!」


 ダグラスが割り込んだ。


 ガンッ!!


 盾がロイドの剣を受け止める。


「……間に合った!」


 レオンが息を吐く。


「助かったよ!」


「礼はいい! 下がれ!」


 ダグラスはロイドを押し返した。


 しかし。


「そこだ!」


 背後から、敵の槍使いが踏み込んだ。


 ダグラスが持ち場を離れたことで、中央が空いていた。


 槍の穂先が、ダグラスの背中へ迫る。


「ダグラス!」


 ジョシュアが叫んだ。


 ダグラスは振り向こうとした。


 だが、間に合わない。


 槍が鎧を叩いた。


 鈍い音が響く。


「そこまで!」


 教官の声が飛んだ。


「ダグラス、有効打! 重傷判定! 戦闘不能!」


「……くそっ!」


 ダグラスは悔しそうに歯を食いしばった。


 その場で盾を下ろし、訓練場の端へ下がる。


「ダグラス!?」


 エリシアが叫ぶ。


「俺はもう戦えん! お前たちで続けろ!」


 残された4人は、一瞬だけ動きを止めた。


 その隙を、相手は見逃さなかった。


「弓!」


 ロイドが叫ぶ。


 後方から矢が飛んでくる。


 狙いはレオン。


「……っ!」


 レオンは身を捻った。


 矢が肩をかすめる。


「レオン、軽傷!」


 教官が判定を告げる。


「……痛っ!」


 レオンは顔をしかめた。


「本当に痛いじゃないか!」


「レオン!」


 ミアが駆け寄ろうとする。


「来なくていい!」


 レオンが叫んだ。


「僕より、相手の弓を止めて!」


「……分かった!」


 ミアは方向を変えた。


 低い姿勢で走り、相手の後衛へ向かう。


 しかし、弓使いはすぐに距離を取った。


 さらに、魔法使いの女性が杖を掲げる。


「炎よ、弾となれ――《火弾》!」


 小さな火球が飛んできた。


 ミアは地面を蹴り、横へ跳んだ。


 火球が足元を通り過ぎる。


「……危なっ!」


 着地した瞬間、弓使いが矢を放った。


 ミアは身を屈めた。


 矢が頭上を抜ける。


 その間に、相手の魔法使いは次の詠唱へ移っていた。


「……これ、まずいわね」


 ミアは歯を食いしばった。


 ジョシュアは、その光景を見ていた。


 ダグラスがいない。


 エリシアはロイドと剣を交えている。


 レオンは負傷し、ミアは後衛二人を相手にしている。


 自分の目の前には、まだ盾役がいる。


 どうすればいい。


 誰を助ければいい。


 頭の中で、考えがまとまらない。


「おい!」


 盾役が踏み込んできた。


「よそ見するな!」


 剣が振り下ろされる。


 ジョシュアは咄嗟に身を引いた。


 続く盾の押し込みも、身体を捻ってかわす。


 だが、それだけだった。


 避けられる。


 相手の攻撃は、なぜか見える。


 それなのに、自分から状況を変えられない。


 敵を倒すことも、仲間を助けることもできない。


「……っ!」


 ジョシュアは剣を握り直した。


 そのとき、教官の声が聞こえた。


「残り2分!」


 時間がない。


 ジョシュアは息を吸った。


 そして、ダグラスの言葉を思い出す。


 困ったら俺の後ろへ戻れ。


 だが、ダグラスはもういない。


 それなら。


 自分は、どこへ戻ればいい。


「……エリシア!」


 ジョシュアは叫んだ。


 エリシアが振り向く。


「何!?」


「こっちに来て!」


「え!?」


「一人じゃ、この人を倒せない!」


 その言葉に、エリシアは一瞬だけ驚いた顔をした。


 しかし、すぐに頷く。


「分かった!」


 エリシアはロイドの剣を受け流し、ジョシュアの方へ走った。


「逃がすか!」


 ロイドが追いかける。


 ジョシュアは盾役の攻撃をかわしながら、エリシアへ近づいた。


「どうするの!?」


「僕が、この人を引きつける!」


「それで!?」


「エリシアが攻撃して!」


「了解!」


 エリシアは迷わなかった。


 ジョシュアは盾役へ踏み込んだ。


 剣を振る。


 相手が盾で受ける。


 続けて、ジョシュアは横へ動いた。


 相手も身体を向ける。


 その瞬間。


「《強撃》!」


 エリシアが横から飛び込んだ。


 剣が盾役の肩へ命中する。


「ぐっ……!」


 相手がよろめく。


「有効打!」


 教官の声が響く。


「もう一回!」


 エリシアが叫んだ。


 ジョシュアは再び踏み込む。


 しかし、今度は相手も警戒していた。


 盾が前へ突き出される。


 ジョシュアは横へ避けた。


 その背後から、ロイドが迫る。


「二人まとめて相手してやる!」


 剣が振り下ろされる。


 ジョシュアは反射的に身を捻った。


 刃が肩のすぐ横を通り過ぎる。


 続けて、相手の盾役が剣を突き出す。


 ジョシュアは一歩下がった。


 さらにロイドの追撃。


 身体が動く。


 避ける。


 かわす。


 だが、反撃できない。


 相手が二人になったことで、ますます攻撃する余裕がなくなっていた。


「ジョシュア!」


 エリシアが叫ぶ。


「下がって!」


「……うん!」


 ジョシュアは後ろへ跳んだ。


 その瞬間、ロイドが方向を変えた。


 狙いはエリシア。


「……しまっ!」


 エリシアが剣を構える。


 だが、ロイドの方が速かった。


 剣が腕を叩く。


「エリシア、有効打!」


 教官が叫んだ。


「……っ!」


 エリシアは顔をしかめた。


 その直後、敵の盾役が体当たりしてきた。


 エリシアは足を滑らせ、地面へ倒れる。


「エリシア、戦闘不能!」


「……うそ!」


 エリシアは悔しそうに地面を叩いた。


「あと少しだったのに!」


 ジョシュアは立ち尽くした。


 また一人、仲間が減った。


 自分が下がったせいで。


 そう思った瞬間。


「ジョシュア!」


 レオンの声が響いた。


「右!」


 ジョシュアは振り向いた。


 ロイドの剣が迫っている。


 避けようとした。


 だが、身体が動くより先に、足元が滑った。


「……っ!」


 剣が胸元を叩いた。


 鈍い衝撃。


 ジョシュアは後ろへ倒れた。


「ジョシュア、戦闘不能!」


 教官の声が響く。


 ジョシュアは地面に座り込んだ。


 胸が痛い。


 呼吸を整えながら、空を見上げた。


 訓練場の天井が、やけに遠く見えた。


◇


「試合終了!」


 教官の声が響いた。


「第7班の勝利!」


 結果は、ジョシュアたちの敗北だった。


 ダグラス、エリシア、ジョシュアが戦闘不能。


 残ったレオンとミアも、相手の後衛を崩せないまま時間切れとなった。


「……負けたぁ」


 エリシアが地面に座り込んだ。


「悔しい!」


「僕もだよ」


 レオンは肩をさすりながら答えた。


「途中までは悪くなかったと思うんだけどね」


「悪かったところなら、いくらでもあるわよ」


 ミアが腕を組んだ。


「最初にダグラスが倒れたのが大きかった」


「……すまん」


 ダグラスが頭を下げる。


「俺が持ち場を離れたせいだ」


「でも、レオンを守ってくれたじゃない」


 エリシアが言う。


「それはそうだが……」


「守る相手を間違えたわけじゃない」


 ミアは少し考えた。


「ただ、その後のことを誰も考えてなかったのよね」


 レオンが頷いた。


「そうだね。ダグラスが動いたとき、僕たちも位置を変えるべきだった」


「……俺も」


 ジョシュアが口を開いた。


 4人が振り向く。


「僕も、何もできなかった」


「ジョシュア?」


 エリシアが首を傾げた。


「敵の攻撃は避けられた。でも、どうすればいいか分からなくて……」


 ジョシュアは自分の手を見た。


「エリシアにも、無理をさせた」


「そんなことないよ!」


 エリシアが慌てて言う。


「一緒に攻撃しようって言ってくれたの、嬉しかったし!」


「でも、負けた」


「それは……」


 エリシアは言葉に詰まった。


 少しの沈黙。


 そのとき。


「お前たち」


 教官が歩いてきた。


「なかなか面白い試合だったぞ」


「……負けましたけど」


 ミアが言う。


「ああ。見事に負けたな」


 教官はあっさり答えた。


「だが、最後まで何とかしようとしていたのは悪くない」


 ダグラスが顔を上げた。


「……ありがとうございます」


「ただし、敗因は明確だ」


 教官は指を一本立てた。


「お前たちは、全員が自分の役割だけを考えていた」


「……役割?」


 ジョシュアが尋ねる。


「ああ。盾役は守る。剣士は攻撃する。魔法使いは詠唱する。シーフは敵の隙を突く」


 教官は5人を見渡した。


「それ自体は間違っていない。だが、状況が変わったとき、誰も次の動きを決められなかった」


 ジョシュアは黙って聞いていた。


「特に、盾役が倒れた後だ。そこから全員がばらばらになった」


「……はい」


「ただ、最後にジョシュアが仲間を呼んだのはよかった」


 ジョシュアは顔を上げた。


「……僕が?」


「ああ。自分一人では倒せないと判断して、助けを求めた。それは正しい」


 教官は頷いた。


「だが、呼んだ後の動きが甘かった。敵は一人ではない。お前たちが二人で一人を狙えば、別の敵が動く」


「……はい」


「覚えておけ。集団戦は、一人の強さだけで決まるものじゃない」


 教官は、向こう側で談笑している第7班を指さした。


「あいつらは最初から、お前たちの魔法使いを狙っていた」


 レオンが眉を上げる。


「やっぱり」


「盾役を動かし、中央を空けさせる。そこへ槍使いが入る。単純だが、よくできた作戦だった」


 ダグラスが悔しそうに拳を握った。


「……完全に誘い出されたわけか」


「そういうことだ」


 教官は笑った。


「だからこそ、訓練する意味がある」


 そして、ジョシュアを見た。


「お前も、少しは分かったか?」


「……はい」


「何が分かった?」


 ジョシュアは考えた。


 相手の剣は見えた。


 攻撃を避けることもできた。


 けれど、仲間が倒れていくのを止められなかった。


 自分一人が攻撃をかわしていても、戦いには勝てない。


「……敵を見るだけじゃ、駄目なんですね」


 教官は小さく頷いた。


「そうだ」


 それだけ言うと、次の班の方へ歩いていった。


◇


 訓練が終わった頃には、すっかり夕方になっていた。


 第3訓練場を出ると、王都の空は赤く染まっていた。


「……お腹空いた」


 エリシアが呟く。


「さっきまで悔しがってたのに?」


 ミアが呆れたように言う。


「悔しいのと、お腹が空くのは別!」


「まあ、それはそうだね」


 レオンが笑った。


 ダグラスは少し考えてから口を開いた。


「なあ。今日の反省も兼ねて、飯でも食いに行かないか?」


「いいね!」


 エリシアが即答した。


「どこ?」


「ギルドの近くに、安くて量の多い食堂がある。冒険者もよく使う店だ」


「安い?」


 ミアの耳がぴんと立った。


「ああ。味も悪くない」


「それなら賛成」


 レオンが苦笑した。


「判断が早いね」


「大事なことだから」


 ジョシュアも笑った。


「僕も行きたい」


「決まりだな」


 ダグラスが歩き出す。


 エリシアとミアがその後に続いた。


 レオンも杖を肩に担ぎ、ゆっくり歩き始める。


 ジョシュアは最後に訓練場を振り返った。


 さっきまで戦っていた場所。


 自分が倒れた場所。


 負けたことは、悔しかった。


 けれど、それ以上に気になることがあった。


 攻撃が迫ったとき、身体は勝手に動く。


 それなのに、自分の意思で剣を振ろうとすると、上手くいかない。


 まるで、自分の身体のどこかに、知らない誰かの戦い方が残っているようだった。


「ジョシュア!」


 エリシアの声が聞こえる。


「置いていくよ!」


「あ、うん!」


 ジョシュアは慌てて駆け出した。


 今は、分からないことばかりだ。


 それでも、今日一つだけ分かったことがある。


 一人で戦うのと、仲間と戦うのは違う。


 強いだけでは、守れないものがある。


 ジョシュアは前を歩く4人の背中を見つめた。


 次は、もう少し上手く戦いたい。


 せめて、誰かが助けを求めたとき、迷わず動けるように。


「……次は勝ちたいな」


 小さく呟く。


 その声を、隣を歩いていたダグラスが聞いていた。


「勝とうぜ」


「……うん」


「次は、俺も簡単には倒れん」


 ダグラスは笑った。


「だから、お前も頼むぞ」


 ジョシュアは頷いた。


「分かった」


 5人は並んで、夕暮れの王都を歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。