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新たな仲間

第12話 新たな仲間


 南門の広場には、出発を待つ荷馬車が5台並んでいた。


 積み荷は食料、布、金属製品。商人たちが荷札を確認し、護衛の冒険者たちが馬具や車輪を点検している。


「お前らがギルドから来た追加の護衛か?」


 声をかけてきたのは、傷の多い革鎧を着た中年男性だった。


「はい!」


 エリシアが答える。


「俺は護衛隊長のダリオだ。お前らには最後尾を任せる。危険があれば知らせろ。勝手に隊列を離れるなよ」


「分かりました」


「それと、補助とはいえ戦闘になる可能性はある。武器は持ってるな?」


 その問いに、ジョシュアだけが黙った。


 ダリオの視線が彼の腰へ向かう。


「……お前は?」


「まだ持っていません」


「何?」


 ダリオは眉をひそめた。


「武器なしで護衛を受けたのか?」


「すみません。後方支援に徹するつもりでした」


「それでも丸腰は駄目だ。何かあったときに自分を守れん」


 ダリオはため息をつき、近くの馬車を指さした。


「予備の短槍がある。今回はそれを貸してやる。使い方が分からなければ、荷車から離れるな」


「ありがとうございます!」


「礼は無事に帰ってから言え」


 ジョシュアは短槍を受け取った。


 木製の柄に、小さな鉄の穂先がついている。初めて手にする武器のはずなのに、握り方に迷いはなかった。


 その様子を、荷台の上から眺めている少女がいた。


 暗い茶色の髪。


 琥珀色の瞳。


 頭には猫のような耳があり、腰の後ろで細い尻尾が揺れている。


「……変なの」


 少女が呟いた。


 ジョシュアが振り向く。


「僕?」


「他に誰がいるのよ。槍の持ち方は慣れてるくせに、武器を持ってないなんて」


「色々あって」


「ふうん」


 少女は荷台から軽やかに飛び降りた。


「ミア・クロフォード。Fランクのシーフよ。今回の護衛に参加してる」


「ジョシュア。よろしく」


「よろしく。で、そっちの2人は?」


「エリシアよ!」


「レオン・アルフェリス。よろしく、ミア」


 ミアは3人を順番に見た。


「……新人ばっかりね」


「ミアもFランクなんでしょ?」


 エリシアが言う。


「経験は私の方が長いわよ」


「そうなの?」


「商隊護衛は何度もやってる。だから、変なことしないでね」


 そう言って、ミアは荷台へ戻った。


 エリシアが小声で呟く。


「……ちょっと生意気ね」


「聞こえてるわよ」


「耳いいわね!?」


 レオンが笑った。


「獣人だからね。索敵では頼りになりそうだ」


 ミアは得意げに尻尾を揺らした。


◇


 商隊は昼前に出発した。


 街道は整備されていたが、途中には林や小さな丘があり、見通しの悪い場所も多かった。


 ジョシュアたちは最後尾の馬車を守りながら進んだ。


 ミアは時折立ち止まり、周囲の音に耳を澄ませている。


「……右の林」


 彼女が突然言った。


「何かいる」


 エリシアが剣に手をかける。


 レオンも杖を構えた。


 ジョシュアは短槍を握り直す。


 直後、茂みから3体のゴブリンが飛び出した。


「敵襲!」


 ミアの声が響く。


 ダリオが即座に振り向いた。


「隊列を崩すな! 最後尾はその場で守れ!」


 ゴブリンの1体が馬車へ向かって走った。


 エリシアが前へ出る。


「させない!」


 剣と棍棒がぶつかり合った。


 もう1体が横から回り込む。


「ジョシュア、右!」


 ミアが叫ぶ。


 ジョシュアは短槍を構えた。


 突進してくるゴブリンに対し、穂先を前へ向ける。


 相手は慌てて足を止めた。


 その隙に、レオンの風魔法が炸裂する。


「吹き飛べ!」


 ゴブリンが地面を転がった。


 ミアが素早く接近し、短剣で武器を持つ腕を切りつける。


「今よ!」


 ジョシュアが槍を突き出した。


 ゴブリンは避けようとしたが間に合わず、胸を貫かれて倒れた。


 残る2体も、エリシアと護衛たちによって討伐された。


 戦闘は数分で終わった。


「……ふう」


 エリシアが剣を収める。


「誰も怪我してない?」


「大丈夫だよ」


 ジョシュアが答える。


 レオンも頷いた。


「こちらは問題ない」


 ミアはジョシュアをじっと見ていた。


「……あんた、本当に新人?」


「うん」


「槍の突き方、妙に慣れてたけど」


「自分でもよく分からないんだ」


「何それ」


 ミアは呆れたように息を吐いた。


「まあ、役に立つならいいけど」


 そこへダリオがやってきた。


「よく守ったな。荷物も無事だ」


「ありがとうございます!」


 エリシアが答える。


 ダリオはジョシュアの槍を見た。


「お前も悪くなかった。ただ、敵に近づきすぎるな。槍の利点は間合いだ」


「はい!」


 ジョシュアは素直に頷いた。


 戦闘が終わると、商隊は再び進み始めた。


◇


 夕方、商隊は交易宿場へ到着した。


 荷物の確認を終えると、ダリオが報酬を配り始めた。


「ご苦労だった。1人800ユグドだ」


 ジョシュアたちは、それぞれ報酬を受け取った。


 ジョシュアは革袋を開いた。


 これで、ようやく自分の武器を買える。


「よかったわね!」


 エリシアが笑う。


「うん。帰ったら買いに行くよ」


 ミアが腕を組んだ。


「絶対に買いなさいよ。次に丸腰で来たら、私が追い返すから」


「分かった」


「本当に分かってる?」


「うん」


「……怪しい」


 レオンが小さく笑った。


 帰りの商隊は翌朝出発するため、4人は宿場で一晩過ごすことになった。


 夕食の席で、エリシアがミアに尋ねた。


「ねえ、ミア。今、決まったパーティーってある?」


「ないけど」


「じゃあ、私たちと組まない?」


 ミアは食事の手を止めた。


「……いきなり?」


「今日、一緒に戦って思ったの。ミアがいたらすごく助かるなって」


 レオンも頷く。


「索敵能力も高いし、立ち回りもいい。僕としても賛成だね」


 ジョシュアも笑った。


「僕も一緒に冒険したい」


 ミアは3人を順番に見た。


「……報酬は?」


「均等に分けるわ」


 エリシアが答えた。


「危険な依頼は?」


「全員で相談して決めよう」


 レオンが言う。


「……私、弟がいるの。まだ10歳で、家に置いて長く出かけるわけにはいかない」


 ジョシュアが尋ねた。


「弟さんと2人暮らし?」


「そうよ。だから、稼げる仕事が必要なの」


 エリシアは少し考えた。


「じゃあ、無理のない範囲で一緒にやりましょう。毎回参加しなくてもいいし」


 ミアはしばらく黙っていた。


 やがて、小さく息を吐く。


「……分かった。試しに組んであげる」


「本当!?」


「ただし、私が嫌だと思ったら抜けるからね」


「もちろん!」


 エリシアは嬉しそうに笑った。


 こうして、4人目の仲間が加わった。


◇


 翌日、ジョシュアたちは帰りの商隊に同行し、無事に街へ戻った。


 ダリオへ借りていた短槍を返すと、ジョシュアはその足で武器屋へ向かった。


「おう、また来たな」


 以前対応してくれた店主が顔を上げた。


「今日は買えるのか?」


「はい。片手剣をください」


 店主は笑い、以前見せてくれた剣を取り出した。


「1000ユグドだ」


 ジョシュアは硬貨を数え、支払った。


 剣を腰に提げると、今までとは違う重みを感じた。


「……どう?」


 エリシアが尋ねる。


「ちょっと落ち着かないかな」


「すぐ慣れるわよ」


 ミアは腕を組んだ。


「これでやっと冒険者らしくなったわね」


「今までは?」


「観光客」


「……ひどい」


 レオンが笑った。


「装備が整ったのはいいことだ。これからは訓練も必要だね」


「うん。頑張るよ」


 ジョシュアは剣の柄に手を置いた。


 自分で稼いだお金で買った、初めての武器。


 それは、彼にとって特別なものだった。


 その日の夕方、4人はギルドの訓練場へ向かった。


 そこで、思いがけない人物と出会うことになる。


◇


「……お前がジョシュアか」


 低く、重い声が響いた。


 ジョシュアが振り向くと、そこには大柄なドワーフが立っていた。


 短く刈り込まれた髪。


 太い腕。


 長年使い込まれた重厚な鎧。


 男はジョシュアをじっと見つめていた。


「はい。そうですけど……」


「俺はガルド・ブランディス」


 男は短く名乗った。


「元冒険者だ。今は新人の訓練を手伝っている」


 エリシアが驚いた顔をした。


「ガルドさん!?」


「知ってるの?」


 ジョシュアが尋ねる。


「この街じゃ有名な人よ! 昔は重騎士として活躍してたんだって!」


 ガルドはエリシアを一瞥した。


「余計なことを言うな」


「す、すみません!」


 ジョシュアは少し困惑した。


 ガルドは彼の腰にある剣を見た。


「新しい剣か」


「はい。今日買いました」


「なら、振ってみろ」


「え?」


「訓練場だ。剣を持っているなら、使えるか確かめる」


 ガルドは木製の大盾を持ち上げた。


「俺に打ち込んでこい」


 ジョシュアはエリシアを見た。


 彼女は小さく頷いた。


「大丈夫。ガルドさんは厳しいけど、ちゃんと教えてくれる人だから」


「……分かった」


 ジョシュアは訓練用の木剣を借り、構えた。


 ガルドは盾を構える。


「来い」


 ジョシュアが踏み込んだ。


 木剣が振るわれる。


 ガンッ!


 攻撃は大盾に受け止められた。


「……っ!」


 衝撃で手が痺れる。


 ガルドは動かない。


「もう一度」


 ジョシュアは再び踏み込んだ。


 今度は横から斬り込む。


 しかし、盾がわずかに動いただけで、攻撃は完全に防がれた。


「遅い」


 ガルドの声が響く。


 次の瞬間、盾が前へ押し出された。


 ジョシュアは反射的に後退したが、足がもつれ、尻もちをついた。


「……痛っ」


 ガルドは盾を下ろした。


「動きは悪くない。だが、戦い方を知らん」


 ジョシュアは立ち上がった。


「……はい」


「力任せに振るな。相手を見ろ。自分の足元を見ろ。剣を振る前に何をするべきか考えろ」


 ガルドは淡々と言った。


「今のお前は、身体が勝手に動いているだけだ」


 レオンが小さく頷いた。


「僕も同じことを感じていました」


 ガルドはジョシュアを見た。


「お前、誰に剣を教わった?」


「……覚えていません」


「記憶がないのか」


「はい」


 ガルドはしばらく黙っていた。


 そして、木製の大盾を地面に置いた。


「……なら、基礎からやり直せ」


「基礎?」


「そうだ。身体が覚えている技術に頼るな。頭で理解しろ」


 ジョシュアは頷いた。


「分かりました」


 ガルドはエリシアたちを見た。


「お前らもだ。こいつを前に出すなら、連携を覚えさせろ」


「はい!」


 エリシアが答える。


 ミアは少し不満そうに腕を組んだ。


「……なんか、私まで訓練することになってない?」


「嫌なら帰れ」


「やります!」


 即答だった。


 レオンは笑いを堪えていた。


 ガルドは再び盾を持ち上げた。


「明日から、朝の訓練に来い。俺が見てやる」


 ジョシュアは驚いた。


「いいんですか?」


「中途半端な冒険者が死ぬのを見るのは、もう御免だ」


 その声には、わずかな苦みがあった。


 ジョシュアは深く頭を下げた。


「よろしくお願いします!」


◇


 それから数日。


 ジョシュアたちは朝にガルドの訓練を受け、昼から依頼をこなす生活を続けた。


 エリシアは剣の踏み込みを修正し、ミアは仲間との距離を意識して動くようになった。


 レオンは魔法の使用を必要最小限に抑え、前衛との連携を練習した。


 ジョシュアも少しずつ、自分の動きを理解できるようになっていった。


 もちろん、まだ失敗は多い。


 それでも、4人で動くことには慣れてきた。


 そんなある日。


 ギルドの掲示板に、新しい告知が貼り出された。


『王都方面・冒険者募集』


 王都へ向かう商隊の護衛。


 王都のギルドで行われる合同訓練。


 そして、王都周辺で増加している依頼への対応。


 複数の募集が、まとめて掲示されていた。


 エリシアは告知を見つめた。


「……王都か」


「行ってみたい?」


 ジョシュアが尋ねる。


「もちろん!」


 エリシアは即答した。


「王都には、強い冒険者がたくさんいるんだって。ギルドも大きいし、依頼の種類も多いらしいの」


 レオンも告知を読んだ。


「合同訓練か。悪くないね。今の僕たちには、学べることが多そうだ」


 ミアは報酬欄を確認していた。


「……王都の依頼って、結構稼げるのね」


「行きたいの?」


 ジョシュアが尋ねる。


「条件次第。弟を置いて長期間出かけるわけにはいかないし」


「それなら、一緒に連れていくのは?」


 エリシアが提案した。


 ミアは目を丸くした。


「……簡単に言うわね」


「もちろん、住む場所とか、お金とか、ちゃんと考えないといけないけど」


 ミアはしばらく考え込んだ。


「……弟とも相談してみる」


 ジョシュアは告知を見た。


 王都。


 今いる街よりも、ずっと大きな場所。


 そこには、自分の知らないものが数え切れないほどあるのだろう。


「僕も行ってみたいな」


 ジョシュアが言うと、エリシアは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、決まりね!」


「まだ決まってないわよ!」


 ミアが慌てて突っ込む。


 レオンは肩をすくめた。


「まずは準備だね。旅費も必要だし、王都での生活費も考えないと」


「そうね」


 エリシアは頷いた。


「でも、目標ができたわ」


 ジョシュアも頷いた。


 冒険者になってから、まだそれほど時間は経っていない。


 それでも、彼の周りには仲間ができた。


 共に戦い、共に働き、時には叱ってくれる人たち。


 何も分からないまま目を覚ましたあの日から、少しずつ世界が広がっていた。


 そして今、新しい目的地が見えている。


 王都。


 そこへ向かう日が、いつか来る。


 ジョシュアは仲間たちを見た。


「……楽しみだね」


 エリシアが笑う。


「ええ!」


 ミアはため息をつきながらも、どこか楽しそうだった。


 レオンも静かに頷いた。


 こうして、ジョシュアたちの最初の冒険は一区切りを迎えた。


 そして、彼らの物語は次の舞台へ進もうとしていた。


 第一章 完

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