意味。
――少なくとも、このことは巫代さんに知られてはならない。
「あ、おじさんおかえり!」
「歩ちゃん、お邪魔します。お土産」
「わー! ありがとう!」
買ってきたスイーツを嬉しそうに持っていく。
あとをついていくと、死角から巫代さんが現れた。
「……どうでしたか?」
露骨に機嫌が悪い。ジトりとした目で見てくる。
「どうもしない」
「本当ですか?」
なおも追求する視線。まるで心の内を読まれているようだ。
他人の感情を読み解くのは得意だ。
逆に、読み取ってもらうのは苦手だ。
……の、はずなのだが。巫代さん相手だとそうはいかない。
思考を読まれるというのは、思ったよりも恐ろしい。
女性特有のセンサーみたいなものが働くみたいだ。
今は何を言っても許してくれなさそうだ。
逃げるように歩ちゃんの隣に座った。
「おじさん、これあかない」
渡されたプリンの蓋を開けると、歩ちゃんが足の間にすっぽり収まる。
巫代さんの方を向くと、腑に落ちない様子で側に来た。
「咲里花さんたちと会ったんですよね?」
「ああ。何度も言うが、もう一人は男だ」
「男でも危険なんです」
どういう意味だろうか。
俺にそんな趣味はないが、もしかしたら御園さんの影響かもしれない。
咲里花とも仲良くしてほしいというのは、どちらに対しても酷な頼みだろう。
喧嘩するほど仲がいいとも言う。俺が口出すべきじゃない。
歩ちゃんがいる手前か、シビアな話はしてこない。
その歩ちゃんが席を外せば、そうはいかない。
巫代さんの言葉数が少ない。これは、何かに感づいている。
詰めて来ないのは確証がないからだろう。
不意に巫代さんが座ったままのそのそと動く。
そのまま、体育座りで空いた俺の隙間に挟まった。
当然、歩ちゃんと比べてぎちぎちだ。
そのまま、何も言わずに後頭部を擦りつけてくる。
「辛くないですか?」
呟くように訊いてくる。
「私といるのは楽しいですか?」
無論だった。楽しくない訳がない。
ただ、不安にさせてしまったのだろう。
相変わらず俺は感情表現が乏しく、悲観的でしかない。
「……大丈夫だから。楽しいから」
頭を撫でてみる。
嫌がることなく、むしろ頭を押し付けてきた。
ここの所、スキンシップが多い。
スキンシップ魔なのはそうだが、きっと不安の現われなのだろう。
俺の『この場にいることによる罪悪感』それを消そうと、必死に触ってくる。
子供が大人の興味を惹こうとする、そんな甘えなのだ。
撫でる髪はサラサラで、優しく光っている。
「あ、ずるい!」
歩ちゃんが指差しながら声を上げる。
「歩もお姉ちゃんなでる!」
「え、そっちですか?」
「可愛い妹の頼みだ」
俺と歩ちゃん二人で撫でる。ダブルなでなでである。
断れないのか、存外悪くないのか。膨れっ面で受け入れていた。
ただ、流石にやりすぎたのか、怒って振り払っていた。
「今日は泊まっていかないんですか?」
「そんなしょっちゅう泊まる訳にはいかない」
いくら片桐さんたちの許可があると言えど、節度はある。
二人が不服そうにしても、今日は駄目だ。
この攻撃に三回はやられている。
「ただいま」
無人の家に虚しく反響する。
音の無いこの空間は酷く精神を削ぐ。
最近は賑やかなことが多いのもあって、それに拍車がかかる。
テレビかパソコンどちらかを点けて、適当に賑やかす。
こうやって一人になると毎回思う。
俺は何をやっているのだろうと。
未来も、明日でさえ碌に見えない。
流されるままに惰性で生活して、気が付けば日が過ぎる。
自分は何のために生きているのか、同じ思考を繰り返す。
その度に巫代さんが過るのだ。
俺は巫代さんを死なない理由にしている。死ねない理由にしている。
そのことが彼女にとって、どれだけの負担になっているのか。
考えるだけで恐ろしい。解決しなければいけない。
だが、何をすればいい? どんな顔をして巫代さんに会えばいい?
そんな無限に湧く疑問の渦の中で、明日を迎えるのだ。




