対立。
「――では片桐さんは、進学を目指されるんですね?」
「はい、そうですが……?」
担任の歯に物が挟まった物言いに首を傾げる。
言うか言うまいか、複雑そうに私を見てくる。
進学先も、今の私なら十分視野にあるはずですが。
「何か問題が?」
「いえ! 片桐さんの成長は目覚ましい物があり、先生として大変喜ばしいんですよ?」
ただ、と付け加える。
「……こちらも成績だけでなく、生活態度も報告しますので」
「あ、はい。気を付けます」
「いえいえ! 仲がいいのは良いんです! ただ、学生らしさを心掛けてくださいね」
あれですね。遠回しに「節度を守れ」と言われてますね。
とはいえ、学校では一緒にいるだけ(というか彼芽さんが嫌がる)。
特別問題は起こしてないですが、案外見られているものですね。
「おっかえりー! 巫代ちゃんどうだった?」
「私は特に。星摩さんは?」
「あたしは夏休みも講習確定だよぉ……」
がっくしと顔を伏せる。
一応、一緒の進学先を目指すようですが、芳しくないようだ。
「巫代ちゃんが羨ましい……」
「まぁ、そのために勉強を教えてもらいましたから」
「そういえば、そういう関係だったね」
今でも関係は続いている。
むしろ、一緒にいる時間が増えた分、効率も上がった。
……上がったはずです。決してそっちのけにしてはいません。
間近に迫った夏休みでも、受験生はそうは言ってられない。
先生にも注意を受けたので、本腰を入れないといけない。
「じっー……」
避暑ついでに『一期一会。』で勉強。
するフリをして、ウェイター姿の彼芽さんをじっと見る。
真面目に仕事する姿には、普段得られない成分が摂取できる。
「彼芽君、片桐さんと何かあったのかい?」
「いや……何も無いはずなんですが……最近、やたらと見てくるんです」
「気を付けなよ? 些細なすれ違いから破局することもあるから」
バイト。彼芽さんは自分でお金を稼いでいる。
親からの仕送りもあるみたいですが、あまり手をつけていないらしい。
生活費は勿論、私とのデート代も払ってくれている。
毎回申し訳ないとは思っていますが、今回はそうはいかない。
誕生日。彼芽さんの誕生日が来月に迫っている。
しかし、バイトをしたことがないので、どうにも及び腰になってしまう。
「――という訳で、何かいいバイト知りませんか?」
『どういう訳よ』
電話越しでも、嫌そうな顔が浮かぶ。
自室でベッドに腰掛けながら、率直に訊く。
『どうしたのよ急に。お金に困ってるの?』
「いえ。ただ、誕生日くらいは自分のお金でプレゼントしたいと思っただけです」
『律儀というか、何と言うか。そういうの結構重いわよ?』
「これくらい普通じゃないですか?」
『自覚がないのね』
思わず「む」っと口から出てしまった。
まるで手の施しようがないみたいに。
『まさかと思うけど、プレゼント選びに付き合わせる気?』
「いえ、渡すプレゼントは決まっています」
『プレゼントは私! とかやるのかしら?』
「……何言ってるんですか? やりませんよ、そんな浮かれたこと」
『……悪かったわね。あんたのライン引きよくわかんないのよ』
そんなことしなくても、私はもう彼芽さんのなので。
『大体ねぇ、私の学校はバイト禁止なのよ』
「そう言うのは大概、隠れてやるものでは?」
『私はやってないわよ。周りにやってる子はいるけれど』
橘さんはこう言う所がある。
捻くれているようで、根っこがかなりの真人間。
だからこそ、質問には真面目に答えてくれる。
『私じゃなくて、御園に頼れば?』
「可愛い制服のバイトを紹介されました」
『オーケー、わかったわ。下心丸出しね』
「すぐに察してもらえて助かります」
『ともすれば、私もお手上げね』
一応『知り合い経由で紹介はできる』とは、言われた。
が、橘さんとしてはあまりお勧めしないらしい。
バイト未経験ということと、橘さんがバイトの詳細を知らないから、とのこと。
『――で? 本当は何が言いたいの?』
橘さんの声色が変わる。
『私たち、こんな雑談するほど仲良しだったかしら?』
無駄に長い前置きを、鼻で嗤うように蹴り飛ばす。
相談がしたかったのは本当です。口実にしたのも本当です。
直接は言いませんが、私は橘さんが嫌いではないです。
ただ、彼芽さんのことになると一歩先にいる。
そういうスタンスは割と鼻に付きます。
「彼芽さんに余計なこと吹き込まないでください」
『悪いわね。私、あいつとは常に必要最低限しか話さないわ』
「それが余計だと言ってるんです」
『あらあら。独占欲の強い女は怖いわね? 話すことも許さないなんて』
ニヒルな笑い声でのらりくらりと躱してくる。
『そんなに大事なら、片桐。あんたがちゃんと幸せにしなさいよ』
「そんなこと、言われなくても」
『そう? 少なくとも私には、あいつが苦しんでるように見えるけど』
反論をしたかった。否定をしようとした。
『ま、どうでもいいわ。あんな奴、用がないと話さないし』
ぷつり。冷たい電子音が耳を通っていく。
わかっていたことだった。
私と橘さんとでは考え方に大きな違いがある。
とても、同じ人を想っているとは思えない乖離の仕方です。
橘さんが何と言おうと、彼芽さんの幸せは私が見つけます。
彼が見つけられないなら、私がなるんです。




