取り合い。
……空気が重い。
御園さんと咲里花が荷を下ろし終えた後だ。
未だにさっきの喧嘩が尾を引いている。
目を合わせただけで一触即発。
そんな雰囲気がリビングに漂っている。
あの御園さんですら、手の施しようがないらしい。
「さ、さりかお姉さま。お、お水」
「……ありがと。良い子ね」
びくびくとしたまま撫でられている。
この中で最年少の歩ちゃんが一番気を遣っている。
さっきまでの不安は消え、新たな不安に襲われている。
「御園さん、すいません。ここお願いできますか?」
「え⁉ あたしにぶん投げるの⁉」
小声で猛抗議にあった。
当然だ。俺だって早く離れたい。
「しかし、買い出しには行かないとですね?」
「それならあたしが行くよ! この状況はかなめんにしか打開できないし!」
「御園さんは客人なので、そんなことさせる訳には……」
「――なら、これで決めればいいんじゃないかしら?」
いきなり背中から刺され、お互いに肩を震わせる。
恐る恐る振り返る。
そこには、ゲーム機を用意する歩ちゃんの姿が。
「これで三位と四位の奴が買い出しよ」
まさかの提案に戸惑っていると――
「いいですね」
これまた、まさかの人が賛同する。
「これなら白黒ハッキリつけれます」
バチバチである。
「あたしは……二人がいいならいいけど……」
「これ四人用ゲームだぞ?」
「ええ。だからあんた観戦。代わりはこの子よ」
歩ちゃんの肩をポンポン叩く。
当の本人はよくわかってない様子だ。
「あんただとレベル差があるから丁度いいわ」
「なるほどな。歩ちゃん俺たちは二心同体だ」
「にしんどうたい?」
「おじさんの命は、歩ちゃんにかかっている」
「え⁉ あ、歩がんばる!」
緊張した面持ちに、微笑ましくなる。
「むー……」
「巫代ちゃん、妹に嫉妬は見苦しいよ?」
「嫉妬じゃないです。羨ましいだけです」
「それを嫉妬と言うのよ」
ジメジメとした圧を送られている。
歩ちゃんをすっぽり足の間に納め、いざゲームスタート。
ルールは簡単。ボードの上を、サイコロの出目に応じて進むだけ。
すごろくと違ってゴールはなく、様々なギミックのマップを周回する。
決められたターンを終えて、最終的に獲得した星の数が多いプレイヤーの勝ち。
歩ちゃんでもできるシンプルなゲームだ。
まず最初は順番決め。
サイコロ振って、出た目が大きい順なのだが……
「お、あたしいちばーん!」
「歩、二ばん」
「やりました。私の方が上です」
巫代さんが控えめに勝ち誇る。
「あんたも三番で大して変わらないじゃない……!」
「ですが、上は上です」
「あんた……覚悟しときなさいよ?」
このゲーム、早い方が有利とは一概には言えない。
開始直後からこの様子だと、先が思いやられる。
序盤に大した動きはなかった。
アイテムを優先する咲里花。初回からマイナスイベントを踏む巫代さん。
咲里花から怒涛の煽りを見せていた……ゲームは仲良くやりましょう。
対して、順調に星を増やす二人。
このゲーム、コインをかけて対戦するミニゲームもある。
当然、そこら辺は歩ちゃんが不利だ。
だが、隠しアイテムを見つけたり、運ゲーに大勝利を決めたり。
不利をものともしない豪運を見せつけていた。
「歩ちゃん。そのアイテム使ってみて?」
「かなめん! しー! しー!」
「どうなるの?」
「御園さんからアイテムを奪える」
「ほんと? やったー!」
「ぐぬぅ……これ使えば星取れたのに! ずるいよかなめん!」
「ずるいも何も、俺は歩ちゃんの味方ですから」
俺の助言もあり、かなりの健闘をしている。
……それも大きいが、一番の要因は別にある。
「また私からコイン取るんですか!」
「ええ? だって、一番持ってるじゃない?」
「一番は星摩さんですが?」
「あら、そうだったかしら? ごめんなさい?」
この人たちが互いに蹴落とし合ってるのが原因だ。
この中でこのゲームに理解があるのは、間違いなく咲里花だ。
アイテムの活かし方も、ギミックの利用の仕方も一番上手い。
それ故に、意地の悪いやり方も一番上手いのだ。
咲里花はそのまま、新たにアイテムを使う。
「咲里花。お前なんて惨いことを」
「あれ、これそんなにやばかったっけ?」
このゲームは基本的に一方通行だ。来た道を戻ることはできない。
しかし、このアイテムを使えば一ターンだけ逆走ができる。
普通はあまり使い道のないアイテムだ。本来なら。
咲里花の戻り先には、先ほどコインを奪ったお助けキャラがいる。
「標的は当然片桐、あんたよ?」
「なっ⁉ まさか⁉」
お助けキャラはその強力さ故に、マップに一体しか存在しない。
本来なら一周しないと使えないが、この方法ならもう一度使える。
いや、一度では済まない。この次のターンにも再び使える。
「そこまでしますか……?」
最早、ドン引くほどの理不尽。
あまりに凶悪なので、家の島では禁止ルール指定だった。
ここまで来ると普通に大人げないな。
「さぁ、地獄に落ちるといいわ――あ」
咲里花のキャラがお助けキャラの手前で止まる。
理由は単純。出目が小さくて届かなかった。
全員の真顔が咲里花に集中する。
「何よ! 見んじゃないわよ!」
「お姉さま、どんまい?」
小さい子からの慰めが一番効いたらしい。
顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。
対戦はしばらく続き、佳境に入った。
現在の順位は上から、御園さん、咲里花、歩ちゃん、巫代さん。
因みに、巫代さんは執拗な妨害に遭いビリが確定している。
反面、咲里花は執着するあまり二位に甘んじている。
「一位なのに勝ってる気がしないのはなじぇ?」
御園さんの気持ちも最もである。殆ど蚊帳の外で、気が付けば一位が確定している。
あとは実質、歩ちゃんと咲里花の戦いだ。
ただ、どう足搔いても先に咲里花が星を取る。そうなれば負けだ。
後、一手。一手が足りない。
「さて、姉妹仲良く下位を取ってなさい?」
もう振る舞いが悪役のそれだな。板についてる。
「――いえ、貴方が三位です」
巫代さんが、仕返しのように例のアイテムを、咲里花に使う。
「あんたねぇ!」
「ふふ。一緒に地獄に落ちてもらえますか?」
「このシスコンが!」
こっちもこっちで悪い顔がよく似合っていらっしゃいます。
だが、これで次のターン歩ちゃんが先に星を取れる。
そうなれば歩ちゃんのしょうり……待て、まずくないか?
三位と四位が買い出し。つまり、巫代さんと咲里花が二人っきり。
「えいっ!」
「「「「あ」」」」
賽はなげられた。
出た目はというと――




