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親友× 腐れ縁からあんたへ。

――放課後、初めて入る喫茶店で見渡す。

「片桐、こっち」

 綺麗な深みのある茶色が、優雅に揺れる。

年明け初のご対面である。

「やっと来たわね。遅いわよ」

「……急に呼び出して何ですか、橘さん?」

 学校終わりに、突如として連絡が入った。

 彼芽さんには悟られないようにしましたが……バレてるかもしれませんね。

「まぁ座んなさい。何飲む?」

「いえ。あまり長居するつもりもありませんから」

「男のできた女は付き合い悪いわね」

「彼芽さんに意地悪するからです。べ」

 席にも座らず踵を返す。

「崖彼芽の中学時代とか――」

「話を聞きます」

「……あんたキャラ変わってないかしら?」

 聞きたい。彼芽さんの事なら何でも。

 特に、彼芽さんは自分のことを話すタイプではないから。

「食いついたなら何でもいいわ。ちょっと耳に入れて欲しいこともあるもの」

 アイスコーヒーを頼み終えて、話を続ける。

「まずは彼芽さんの好みのタイプを教えてください」

「年上」

「……コールドスリープって、どうやったらできますか?」

「それだと一年はあいつと会えないわよ」

「あ――――それは嫌です」

「片桐、あんた馬鹿になってるわよね?」

 乾いた笑みを浮かべ、諦めたように喉を潤す。

「正確には、しっかりした女性が好きよ」

「大人びた女性…………あ」

 思わず、目の前の顔をじっと見てしまう。

「……そうよ。なのにあいつ、ホントは大人なポンコツ系が好きだったのよ……!」

 心の奥で、灰の下で燻ぶっていた火が再燃したらしい。

 この人もわかりやすいというか、露骨というか。

……ポンコツ系ですか。今度、ドジっ子で行ってみましょうか。

「……私のことはいいの。今はあいつの話」

 震わせていた拳を、あほらしそうに収めた。

 咳払いを一つして、場を整え始める。

 私も、それとなく居住まいを正す。

「あいつの表情についての話よ」

 表情という言葉に、彼芽さんの無表情がぱっと浮かぶ。

 相変わらず、あの顔が綻ぶことも、歪むこともない。

 それは仕方のないことで、誰かがどうこうできる問題ではない。

 そんな話題を今更、切り出してきた。

「あれでも割と、喜怒哀楽がハッキリしてるわよね?」

 こくりと頷く。

 顔では判別つかないが、細かな仕草から読み取れる。

 怖い時は目が泳いだり、照れてる時は誤魔化そうとしたり。

 楽しい時は体が揺れる。不機嫌な時は輪を掛けて無表情になる。

 どれも僅かの変化でしかないが、よく見ると起伏が見える。

「前々から疑問に思ってたの。あいつの気持ちはどこに行ってるのか」

 言っている意味がわからずに、首を傾げる。

「表情に出なくなった分の重みよ」

「顔に……表に出ない部分ってことですか」

「そう。さっき言った通り、あいつは感情が無くなった訳じゃない」

 ここからが本題と言わんばかりに、アイスコーヒーを飲み干した。

「私が思うに蓄積されてるんじゃないかしら」

「蓄積?」

「ストレスと同じよ。本人も自覚してない物が溜まってる可能性がある」

 彼芽さんの中で、感情というエネルギーが溜まっている。

 行き場をなくしたそれらは、今も発散先を求めている。

「もし、それが爆発したら……!」

 ただでさえ薄氷の上に成り立っている状態だ。

 これ以上の過負荷が重なれば彼芽さんは、耐えられない。

「マイナスの場合ね。けれど、逆もあり得る」

 興奮気味の私を、制すように続ける。

「もし、プラスの方向に爆発させれば?」

「……彼芽さんに笑顔が戻る⁉」

 静かに、しかし期待させないように頷く。

 頭では納得していた。ですが、やはり笑顔は見たかった。

 この人はどんな風に笑うか。優しい系? それとも意外に豪快?

 ニヒルに笑うかもしれない……そんな想像をしていた。

「あくまで仮説よ」

「それでも、朗報なことに違いはありません」

手の施しようがないと思っていた。そこに、まさかの話が入ってきた。

「ですが、具体的にどうすればいいんですか?」

「頭の中お花畑にしてやればいいのよ。あんた彼女でしょ?」

「彼女」

「何よ? 歯に挟まったような反応ね」

「……実は、私にもよくわかりません」

 きっと、言葉にするならそれが妥当なのだろう。

 ですが、何となくしっくりこない。

 私の中で腑に落ちないのだ。

「よくわからないけれど、勝手にしたら?」

「意地悪な言い方ですね」

「だって関係ないもの」

 しかし「けれど」と、と付け加える。

「――あいつ傷付けたら、殺すわよ?」

「何ですか? 私のこと舐めてますか?」

「……そ」

 睨み返すと、不貞腐れてしまった。

 はぁ……それが関係ない人間の目ですか。

 彼芽さんといい、不器用な人間というか。

「ところで、彼芽さんの中学時代の話は?」

「……覚えてたのね」

 有耶無耶にしようとしても、そうはいかない。

 その後、根掘り葉掘り聞き出そうとしたが。

 途中で「金、取るわよ?」と、本気のトーンで言われたので止めた。

「あの」

 別れ際に、喉まで出かかる言葉を飲み込んだ。

 私は、私の中のドス黒いものを押し殺す。

「いい顔するようになったじゃない?」

「うるさいです」

「怖い怖い」

 心を見透かしたように煽って、去っていく。

……これは彼芽さんと、この人の問題だ。

 私が、私だけは間に入ってはいけないんです。

 心の奥でジェラシー……いえ、そんな生易しいものではない。

 とにかく、心を落ち着けた。

 帰り道にふと、見間違えるはずのない二人を見つける。

 何やら面白そうな話をしていたので、音を消して背後に迫る。

 すると、星摩さんは青ざめた顔で逃げ出した。

 彼芽さんも、どこか居心地が悪そうだ。

「巫代さん――」

 何かを言おうとして、止めた。

 ちょっとだけ前のめりだったので、変な汗をかいた。

「咲里花は元気だったか?」

明らかに取り繕った言葉に私は、当たり障りのない返答をしたつもりだった。

 ですが、露骨な不機嫌さが読み取れてしまったらしい。

 困ったように、私の機嫌を直そうとする。

 私はどうも、彼芽さんを困らせるのが好きらしい。

 こうやって、悩んでくれるのが嬉しいんです。

 片桐巫代は、どうしようもなく嫌な女なんです。


ブクマ付けてくれた方がいらっしゃるみたいですね! ありがとうございます! 期待に応えられるかわかりませんが、モチベが上がっているので精一杯頑張らせていただきます! 

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