親友から、君へ。
「――かなめん」
冬休みも終え、三学期が始まって少し。
「今日呼ばれた理由は、わかるよね?」
何故か俺は、神妙な面持ちの御園さんに睨まれている。
学校終わりの、いつものファミレス。
見覚えのある店員は、最早ノーリアクションである。
理由は十中八九、巫代さんのことだろうが。
「はて。何のことだかさっぱりです」
というか、かなめんってなんだ。語呂だけだ。
「もう! とぼけちゃやーよ! 巫代ちゃんのことだよ!」
「ですよねー」
やはり、というべきか。バレていたようだ。
巫代さんも俺も、直接は話していなかったが。
「最近の巫代ちゃんおかしいんだよ!」
居酒屋で愚痴るみたいに、グラスをわざとらしく叩きつける。
「なんかね? いつもだったら『は? 何ですか?』って圧かけてくるのに」
あるな。逆ギレ気味に言ってくる。
「最近は、何て言うの? 大人の余裕? みたいな笑みでさらっと受け流すし!」
「それは良いことなのでは?」
「良くないよ! 私の巫代ちゃんは性格悪いし、面倒臭いし、変に意固地なの!」
巫代さんも巫代さんだが、この人も割とボロクソ言う。
それだけ、気の知れた仲だということだ。
「うわーん! あたしのクソガキな巫代ちゃん返してよぉ!」
今度は大袈裟に突っ伏す。
今の御園さんは、完全に絡み酒のそれだ。
でも、そうか。俺は巫代さんを奪ってしまったのか。
そう考えると、何となく罪悪感が生まれてしまう。
「うぅ……私に彼氏ができた時、巫代ちゃんが不機嫌だった理由がわかったよ……」
それはたぶん、御園さんが惚気話を話したのが原因なのでは。
他にも要因は思い浮かぶが、話しても煽り立てるだけだろう。
ただ、一つ疑問に思うことがある。
「――どうなんですかね」
「どう、って?」
むくりと、不思議そうに顔だけ上げる。
「俺も巫代さんも、明確に言葉にした訳ではないんです」
お互いに、気持ちを告白してはいない。
ただ、自然とそうなっていた。
いや、これだと語弊がある。決して、流された訳じゃない。
「俺と巫代さんは、いったい何なんでしょうか」
巫代さんが憐みとか、同情で一緒になるはずがない。
それはわかっている……わかってはいるんだ。
「むー……よくわかんないけど、それは駄目だよ」
さっきまでの冗談交じりとは違う、真剣な眼差し。
打って変わって、空気が変わった。
「恋愛の先輩として言うけど――女の子はね、形にして欲しいものだよ」
「形、ですか?」
「うん。あ、これは何かプレゼントしろ! とかそういう話じゃないよ?」
俺への配慮でもあり、同時に釘を刺すような意図が見て取れた。
この場合、物質的な話ではないのは、流石に俺でもわかる。
「言葉でも、何でもいいの。とにかく『この人は私のだ』っていう、保証」
それはきっと、恋愛において真っ当に出る独占欲なのだろう。
明らかに、他に対するものとは違う感情。
「要は安心だね。それこそ行動でもいいんだよ。例えば……キスとか!」
ドキッと、心臓が締まる。
明らかに強調して、こちらの反応を窺っていた。
「ははーん? やっぱりキスはもうしてるんだ」
……この場合、御園さんの恋愛観が健全で助かったのかもしれない。
表情には出ないが、勘ぐられるとボロが出そうだ。
「問題は舌を入れてるかどうかだよね……」
「ごぽっ」
お冷の水面が泡だった。
「なーんて……え、待って何その反応」
誤魔化しきれないことを悟って、悪足掻きで目を逸らす。
「え? え? つまり、二人はもう……⁉」
小刻みに震えながら、何かを指折り数えている。
「あたしの予想だと文化祭の夜だから……一番遅くて四週間……四週間⁉」
飛び出そうな目で、自分の四本指と俺を高速で往復する。
どうしよう。これで、一番早い日と言ったら、卒倒するのではないだろうか。
そのまま、ワナワナと震えたかと思えば。
「なま言ってすんませんでした⁉」
勢い良く、テーブルに額を叩きつけた。
「ちょっ、落ち着いてください」
「だって⁉ あたしだってまだヴァージンだよ⁉ 処女だよ⁉」
さっきから、他のお客さんの視線が痛い。
それだけじゃない。店員さんが今にも寄ってきそうだった。
それとなく悟らせつつ、とりあえず顔を上げさせる。
しばらくは「巫代ちゃんが……巫代ちゃんが大人に……」と、頭を抱えていた。
「――コホン。ま、まぁ二人の関係に口は挟まないよ。二人のペースを尊重する!」
「あ、ありがとうございます……?」
「あ、でも――巫代ちゃん泣かしたらあたし、何するかわかんないから」
ゾワリ。背筋が凍る。
それは俺のための忠告ではない。御園さんの、自身への忠告。
言葉通り、本人でさえ何をするかわからないのだ。
「ねね! それで、二人の間で面白い話とかある?」
「……えっと、そうですね」
笑顔から笑顔に。ただ、さっきと違って楽しそうな笑顔。
巫代さんが御園さんを想うように、その逆も然りなのだ。
「――アハハ! 巫代ちゃんそんなことするんだ!」
話してよさそうな話題を提供して、一緒にお店を出た。
「そうですね。綺麗に銀髪キャラとそれ以外に整頓されてました」
あれはどういう意図があるんだろうか。
「やっぱり巫代ちゃんってめんどくさ――なんで、後ろに指差すの?」
顔は笑ったまま、一転して表情が青ざめていく。
何かを悟ったらしい。ただ、振り返らない。
「ごめん! あたし用事思い出した! また明日!」
ピューと、音でも出そうな勢いで俺の横を走り抜けていく。
挨拶は間に合わなかったので、取り敢えず手だけ振っておいた。
「――で? 何を楽しそうに話してたんですか?」
銀髪の少女はにこやかな笑みで、首を傾げる。
後ろに般若の面影さえなければ、可愛いのに。
「巫代さんとの関係を聞かれただけだ」
「……まぁ、バレますよね」
特に反応もなく、小さく息を吐いた。
怒ってるわけではなさそうだ。ただ、何か言いたげだ。
「その、黙って二人で会って悪かった」
「え? 別にいいですよ、相手は星摩さんですし」
明らかに含みがある。
「これが橘さんと星摩さん以外だったらかんき――いえ、説教でしたが」
物騒なことを聞いてしまった気がする。
御園さんの言う通り、これは巫代さんを不安にさせているからなのか。
「巫代さん――」
声が詰まる。言うべき言葉は幾つも出てくるのに、全部が喉に引っ掛かる。
変な途切れ方をさせたせいで、不思議そうに覗き込まれる。
「いや……咲里花は元気なのか?」
「はい、元気でしたが? 何ですか?」
「そんなに睨まないでくれ、悪かった」
咲里花とはあれ以来、会っていない。
どの面下げて会えばいいのか、未だにわからずにいる。
……駄目だな、考えるのは今じゃない。今は巫代さんのことを考えよう。
「家まで送ってくよ」
何故、言葉にできなかったのか。
今の俺には、見当が付かなかった。
カクヨムの方でも出しました。凡そは同じですが、若干の違いがあるのでご興味があれば……! 少しでもPVや評価などが着くと作者のモチベが上がります。
あとは、GW中は毎日投稿やりたいなぁ……と、無理だったらすみません……




