また、明日。
――鏡の前で髪を結う。
首を振ると、馬の尻尾みたいに左右に揺れた。
ちょっと前に買った伊達眼鏡をかけてみる。
「――巫代? お帰り。いつの間に帰って来てたの?」
「ただいま。さっきです」
「ううん……わぁー……お姉ちゃんだぁー……」
「あ、ごめんなさい。まだ、朝ごはんできてないわ!」
お母さんが寝室から出て来て慌てる。
「大丈夫です。途中で買って食べるので」
歩も起きてしまったのか、一緒に出てきた。
「髪なんて結って、珍しいわね」
「お姉ちゃん……おめがねさんだぁ……かわいい……」
「おはよう歩。今日も私の妹は天使ですね」
「わはは……! くすぐったいよぉ……!」
ほっぺを擦り合わせて感触を確かめる。
「それじゃあ、学校行ってきます」
「――巫代」
玄関で呼び止められる。
「何かいいことがあったのね?」
「とてもいいことがありました」
そう即答すると、嬉しそうに笑ってくれた。
「ならいいの。お母さん失恋したのかと思っちゃった」
「失恋なら髪を切りますよ」
「うちの子、天邪鬼だから」
「否定はしません」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「はい。行ってきます」
「いってらっしゃーい」
いつもの道だけど、心が浮足立つ。
川から昇る気嵐が少しだけ視界を遮る。
その向こう、道の真ん中に誰かが立っているのが見えた。
「………………さっき、メールの返事があったわ」
「そうですか」
簡素な返事で横を通り過ぎる。
「――見事に呪われたわね!」
一見すると、ただの恨み言。若しくは負け惜しみ。
「蛇みたいに巻きつかれてるわよ」
「知らないんですか? 女は蛇なんですよ」
立ち止まって首だけ振り返る。
「男を締め上げて逃がさない」
そうして他の女をけん制する。
「――あの人は、私のです。んべ」
小さく舌を出して、歩き出す。
幸せは誰かの不幸の上で成立している。
だからこそ、小さな幸せでも噛み締めなければいけない。
人の気配を感じない校舎を迷いなく突き進む。
いつもと違って、教室の窓際にいる。
ただ、それだけのことに胸が高鳴る。安心する。
「おはようございます」
返事はない。どこかそっぽを向いてるような感じだ。
――そもそも幸せとは何なのか。
それはきっと、明日を生きる理由なんだと思う。
人間は宿木のようにそれに寄りかかる。
幸せと言うのはなるものではなく、探す物。
明日を生きる理由を、幸せを自分で見つけるのだ。
私はそこを履き違えていた。
結局の所、私の幸せは大好きな人といることだ。
誰一人として欠けてはいけないもの。誰か一人といるだけで幸せになれる。
そんな些細なもの。人から見て大したものじゃないかもしれない。
……その程度でいい。私の幸せなんてそれでいい。
先の見えない未来を見るから不安になる。
明日はゲームの発売日だとか、好きなアニメがやるとか、その程度でいい。
そうやって近くの幸せを集めて行けば、自ずと明日はやって来る。
もう。無視するのは……わかった、照れてるんだ。
あんなことを言っておいて、今もまだ生きているから。
少しずつクラスメイトが集まってくる。そうすると余計にそっぽを向く。
だからカーテンで二人っきりにして、顔を近づけて――無視できないようにした。
相変わらず表情は動かない。けど、驚いているのはわかる。
「――今日もデートしましょう。明日も、明後日も、明々後日も。その次の日も」
それでも別にいい。少し重いかもしれないが、私だけが独占したい。
「毎日です。学校があっても、バイトがあっても」
目の前に暗闇が広がっているのなら、一歩先に明かりを灯そう。
それを頼りにちょっとずつ歩けばいいから。
「……その髪型、似合ってる」
「髪型だけですか?」
「……眼鏡も似合ってる」
「眼鏡だけですか?」
「……疲れる。全部、可愛い」
「最初からそう言えば良いんです」
――だから私は明日の約束をする。
これにて、本編は終了です。読んでくれた人はありがとうございます。
誤字脱字祭り、体裁乱れまくりで訂正しまくりと……見直しが甘すぎました……それでも、今は何とか形にはなったかと。途中の公開停止と更新停止に関しては弁解の余地もありません、申し訳ないです。
もし、こんなでも読んでくれる人がいるなら、アフターストーリー的な、続編的な物も書いてみたいですね(その前に、mfの結果発表がありますが……あまり期待しないでおきましょう!)
改めて、読んでくれてありがとうございました! 一瞬とはいえランキング入りできて嬉しかったです!




