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第三十七話 彼が送るは、一族の魂 後編

 人間の騎士に戻ったミハエルは、血まみれで傷だらけな状態で、大宮殿の謁見室の床に仰向けになって倒れている。


 彼の虚ろな赤眼には、崩落した天井の大穴から見える夜空が、きれいに写り込んでいた。


『――赤騎士』

『……魔法使い殿』


 すると大穴から、白兜の大剣士に戻った人間体のルドルフが飛び降りてきた。


「よく、持つな」


 あれだけ叩きのめしてやったというのに、息子がまだ生きていて、ルドルフは嘲笑う。


『使うか?』

『……いいえ。使いません』


 ミハエルは倒れながら、私が贈った長剣を握りしめる。


『これは、父上と吾輩の闘争たたかい……』


 彼は力を振り絞って、上半身を起こすと、


『たとえ、命を落とすことになろうとも……勝敗を、決するまでは!』


 父親に向かって、よろよろと立ち上がった。


「おう、がんばるねえ。そんなにあのお姫様が大事ってわけだ。目の前で、オレが指一本でも喰ってやったら、お前はどんな顔をするんだろうなあ?」

「……父上」


 最悪の父親に、ミハエルは問う。


「おかしいとは思わないのですか? なぜ、オレが立てるのか?」

「あっ?」


 意味不明な質問をする息子に、ルドルフはわざとバカにした顔を浮かべる。


「なんのことだよ?」

「……いいえ、もういいです」


 ミハエルは、私が贈った長剣を両手で握りしめて、しっかりと構え直す。


「続けましょう」

「おう、いいぜ。泣いて謝るまで、つき合ってやるよ!」


 ルドルフが大剣を振り上げてきて、ミハエルは長剣を振り払った――。



 その頃、地下の大工房の中心、火の大巨人の足元で、メラニーは、アルフレッドに問うていた。


「あなたたちは……、人間を食べてきたというの!?」

「ああ。ルドルフは、とんだ食い意地でね。赤騎士あかきしの奴も、裏で喰ってたんじゃないのか? たとえば、君の友達とか」


 地上での激しい戦いによって、ここまで揺れ、天井からほこりが落ちてくる。


「これで、よしと」


 すると、後ろから、虎丸の声が聞こえた。

 ルーチェの手当てが終わったようだ。


 メラニーは振り返ると、気絶したまま手当てを受けたルーチェの前で、虎丸が片ひざをついていた。


青武士あおぶし、ルーチェは無事?」

「はい、もう大丈夫です。命に別状はありません」

「そう……」

「しかし、拙者は謝らなければなりませぬな。姫様が、ルーチェ殿のことをここまで気にかけておいでであったとは……」

「……帝国にいた頃に、優しくしてくれたの」

「なるほど。それで……」


 虎丸は、ルーチェを見下ろしながら立ち上がる。


「それでは、青武士。彼を助けに行きなさい。私のことはいいから……」

 メラニーが命じると、

「そうだとも。さっさと加勢しに行ってやったらどうだ」

 アルフレッドが口を出してきて、メラニーを不快にさせる。


「赤騎士も待っているはずだ。まあ、お前が行ったところで……」

「いえ。それには及びません。ご安心を、姫様。赤騎士は、必ず勝ちます」


 虎丸はメラニーを励ますように微笑み、アルフレッドを無視して答えた。


「それに、これは赤騎士が、自らの手でやらねばならぬ戦い。たとえ相手が……、いえ、自分の父親だからこそ」

「わかるわ。けど……」

「此度の拙者の役目は、ほとんど済みました。あとは上の戦いが終わるまで、そこの悪人どもから姫様をお守りすることのみ。赤騎士が、父親との戦いに専念できるのもそのためです」

「随分と余裕だな。赤騎士の次は、お前だというのに……」


 夕闇の黒太子アルフレッドが、しつこく割り込んでくる。


「だったら青武士。赤騎士より先に、お前が潰れた死体になるか?」


 そう言ったアルフレッドに、虎丸は、今度こそ応じた。


「ほほう。言うたな、黒太子。貴様がどうやって……」

『それは――オレがここにいるからさ』


 ずっと高いところから話しかけられて、メラニーは青ざめた。

 アルフレッドが、楽しそうにほくそ笑む。


 虎丸と一緒に見上げると――、そこにそびえ立っていた火の大巨人の顔が動いて、こちらを見下ろしていた。


『動かないと思ってたろ。オレはいつでもお前らを潰せたんだぜ』


 間違いない。白兜の大剣士ルドルフだ。


「なるほどの。大剣士と大巨人、二つの体に同じ魂を共有しているわけか」


 虎丸は、何百倍も大きい、火の大巨人を見上げながら余裕綽々で言い返す。

 それに、メラニーは励まされた。


『そういうわけさ。だからお前らは、おとなしく……』

「黙れ、外道。自分の息子たちを悪党に売り渡した父親が」

「そ、そうよ! あなたは……私の両親以下だわ!!」


 彼のためにも、メラニーは足が震えながら言ってやる。

 すると、火の大巨人は、座ったまま愉快に笑った。


『ハハハハハハハ! ほんとたいしたお姫様だ。あんなババアやジジイと一緒にされちまうとは!』

「事実でしょ! 彼が、どんな想いで兄弟たちを……今、どんな想いであなたと戦っていることか! そうでしょ、青武士!?」

「そうです。姫様のおっしゃるとおり!」


 メラニーが怒りを示し、虎丸が賛同し、火の大巨人は、アルフレッドと一緒に鼻で笑う。


『図に乗るなよ、サムライ。オレがいくつお前らのいる世界を滅ぼしてきたと思ってる?』

「それは嬉しい。貴様が死した暁には彼らへの手向けとなろう」


 何を言われようと、虎丸の表情は変わらない。


「ああ、まったく。父が子を、子が父と兄弟を殺すことになろうとは……。貴様ら二人、ミハエルがいなくとも、拙者が許しておくものか! ……まあ、拙者が手を下すことはあるまい。貴様らごとき、あの赤髪の赤騎士に勝てるものかよ!」


 彼の勝利を信じている。


「青武士、説明して」


 なぜなのか、メラニーはたずねた。


「はい、姫様」

「彼は、なぜ勝てるというの。こんなに大きな、火の大巨人に?」


 彼女の眼は、彼を信じたいという想いに溢れている。


「それは、もしかして、愛の力?」

「ええ。それこそ最上のものですが、理由は他にもあります」


「それは、なに?」

「拙者は、子供の時から赤騎士と何度も剣を打ち合って、共に剣の技を磨いてきました。ご存知ですね」


「ええ。以前、あなたたちが話してくれたわ」

「それですが、拙者が打ち合った相手は、人間の姿をした赤騎士だけではありません。時には、火の巨人に戻ったあやつとも、存分に打ち合ってきました」


 それを聞いて、メラニーだけでなく、大巨人とアルフレッドすら驚かされる。


「まあ、本当に?」

「はい。そうやって、拙者は磨いていきました。火の巨人を相手に、人間が怪物に勝つための方法を。特に――火の巨人に勝つための方法をです」


 そうやって、虎丸は言い続けた。

 メラニーだけでなく、アルフレッドと火の大巨人にも教えてやるように。


「そして、その技と知恵は――、赤騎士の奴にも、教えてありますゆえ――」


 次の瞬間、火の大巨人の左手首に傷がついて、血を流す。


 地上の大宮殿の謁見室で、人間体のルドルフが左手を斬り落とされたからだ。

 ミハエルが頭から真っ赤な血を流しながらも、振り払った長剣によって。


 いきなり息子にそうされて、ルドルフが右手に大剣を持って、左手の方を見ながら驚愕する。


『おっ、始まったか?』

 彼の指輪を通じて、彼の耳に虎丸の声が届いた。

『ミハエル。姫様は無事ぞ』

「…………」

『さあ、もうひと踏ん張りだ』

『ミハエル』


 彼女の声も届く。


『……待ってます』


 ミハエルは、頭をゆっくりと上げる。

 その頭に、ルドルフが両手で大剣を振り下ろした。


 左手は、一瞬で再生済。

 ルドルフは、本気の本気。

 大剣に込めた全身の膂力は、全力全開だ。


 ミハエルは左に動いて、あっさりとかわす。


 続けて、長剣を振り上げて、ルドルフの右腰から左肩までななめに両断した。


「『ぐ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーー!!?』」


 謁見室のルドルフと、大工房の大巨人が、斬られた体を再生しながら絶叫する。


 アルフレッドが驚愕し、メラニーはびっくりして、虎丸は微笑した。


 白兜の大剣士ルドルフの再生は、一瞬で終わる。

 ミハエルは騎士として、息子として、戦いの礼儀に則って待っていた。


 ルドルフが、今度は大剣を斬り上げる。

 ミハエルはそれもかわし、次は腹部を斬り裂いた。


 ルドルフが必死になり、渾身を込め、怪力を駆使して大剣を振り回す。

 その度に息子は、回避して、反撃し、人になった父の身体を斬り刻んだ。


「なぜだ!? なぜ急に!?」

「……父上。そんなの決まっているでしょう」


 ミハエルは、明かす。


「オレがあなたの動きをよく見て、とうとう見切ったからです」

「……なんだと?」


「父上。あなたの剣は、自分の怪力に頼りすぎていて、技と動きが単純すぎたのです。力と速さに慣れれば、見切るのはそう難しいことではありませんでした」


 ルドルフの頭に、かつて、白衣の女騎士ルーチェに同じようなことを言われた記憶がよみがえる。


「バカな! お前が剣の技を多少かじったところで、オレの怪力に……」


「何を言うのです、父上。人の剣術とは、強き者から弱き者を守るために生み出されたもの! 吾輩は騎士として、自分より強い者に勝つための剣を、常に人から教わってきた!」


「人間から教わった剣で、火の大巨人であるオレに勝つだと!?」

「そうです、父上。この剣を駆使すれば、吾輩はあなたにだって!!」


 ミハエルの剣技が、ルドルフを圧倒する。


「父上。あなたは人から、何も学んではこなかったのですか?」

「黙れ、クソガキ! 火の巨人族の誇りを忘れた恥知らずが!」


 ルドルフが激昂し、夕焼の堕天使へと巨人化する。


『潰してやる!!』


 同時に、天使化、魔獣化して、足元にいる息子に、炎の大剣を叩きつけた。


『いいえ、父上。火の巨人族を裏切ったのは、あなたの方だ!』


 ミハエルは、火の竜の巨人の狂戦士ムスペル・オルム・ベルセルクと化し、火の巨人の大剣で、人の御技を行使する。

 夕焼の堕天使ルドルフの大剣をきれいに受け流し、その巨体を斬り裂いた。


 この時の衝撃で、謁見室の床が崩落する。


『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーー!!』』


 火の巨人の親子は、再び大宮殿の夜空へ飛び立った。

 空中で真っ赤に燃えながら、翼を羽ばたかせ、大剣を打ち合う。


 繰り広げられる光景は同じでも、結果は変わった。

 逆転した。


 怪力が上回る父の斬撃を、息子が紙一重でかわし、受け流して、斬り裂く。


 二人の間にあるは、圧倒的な力の差と、それを補って余りある圧倒的な技量差。


 ミハエルの大剣が、ルドルフの巨体を一方的に斬り刻んでいく。


 そして遂に、火の巨人ルドルフが大剣を振り下ろした瞬間、右腕ごと斬り落とされた。


 すかさず、火の巨人ミハエルは、炎の大剣を連続して叩き込む。

 夕闇の黒太子アルフレッドが創造した最高傑作、白兜の大剣士ルドルフの肉体を跡形もなく焼き尽くした。



『クッソオオーーオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーー!!!』


 人間体を失ったルドルフの本体、地下の大工房にいる火の大巨人が動き出す。


「落ち着け、ルドルフ!」


 アルフレッドが止めようとするも、聞きやしない。

 火の大巨人が絶叫しながら、立ち上がった。


「彼が……勝った?」

「ええ。次は、こやつです」


 メラニーと虎丸にもわかった。


 そんな二人を、火の大巨人が見下ろして、


『まずは――貴様らを!』


 いきなり――巨大な片足で踏みつけてくる。


「えっ?」


 メラニーが逃げる暇などない。側にはルーチェが寝ている。

 アルフレッドは、転移魔術で退避した。


 大巨人の足が叩きつけられ、大工房の床が踏み砕かれる。


 そこから離れた宙の上を、気づけばメラニーは飛んでいた。


「ご無礼いたします、姫様」

「青武士!」


 メラニーは、虎丸の片腕に抱えられて無事だった。

 もう一方の腕には、ルーチェが抱きかかえられている。


「ひどい抱え方で、申し訳ありません」

「いいえ、ありがとう。……この翼は?」


 虎丸の背中からは、カラスの翼が生えていた。


 そのままメラニーは、虎丸に抱えられながら地上へ飛んで行く。


 帝都の大宮殿がある地上に、地下の大工房から火の大巨人ルドルフが出てくる。

 その様子を、ミハエルは空から見下ろしていた。


 大宮殿の敷地と隣接する広場からは、夕闇の黒太子アルフレッドが、瓦礫だらけとなった場所で、怒りながら火の大巨人の方を見ている。


「ルドルフ……きさまー!」

「そう、怒るな」


 激怒するアルフレッドに、ここまでやって来た私は話しかけた。


「……貴様」

「さあ、見届けよう」


 私は、アルフレッドと肩を並べる。

 その後ろに、メラニーとルーチェを抱えた虎丸が降り立った。


『潰してやる、潰してやる、潰してやる……』


 怒るルドルフは、どんどん巨大化。


『滅ぼしてやる、滅ぼしてやる、滅ぼしてくれる!!』


 全身を火山の如く燃焼させ、その手に灼熱の巨大剣を具現する。

 闘争本能と破壊衝動を奮い立たせ、再び『破滅』の力を呼び覚ます。


 体長は、火の巨人の二十倍以上。

 それほどまでに巨大となった存在が、夜の帝都に君臨する。


 数々の世界を滅ぼしてきた破滅の大軍勢の将が一角、火の大巨人の完全復活だ。


 この世界を滅亡させる災厄となった火の大巨人ルドルフが夜空を見上げ、そこで待っていた火の巨人ミハエルと対峙する。


『滅ぼしてやるぞ。黄昏の王国も、夕闇の大帝国も、この世界の何もかも――貴様とお姫様もな、クソガキ!!』

『いいえ。させませんぞ、父上!』


 火の大巨人が、口から巨大な炎を吐く。

 ミハエルは横に飛んで火炎を避け、地上にいる大巨人めがけて急降下。


 そこへ、大巨人が灼熱の巨大剣を打ち上げてきた。

 火の巨人とて触れただけで燃え滓となって四散する大斬撃が、ミハエルに迫る。


 火の大巨人の動きは、白兜の大剣士の時とほぼ同じ。


 火の巨人と大巨人の体格差は、人間と火の巨人を比べたときとそう変わらない。


 ミハエルは、友から教わり、他の人たちからも学んで、人の騎士として磨いてきた『人間が怪物と戦う方法』を思い出す。

 巨人の身体が、骨の髄まで覚えていた。


 巨大剣の動きを読んで、左に避ける。

 刃から発する高熱が凄まじいが、翼を止めるほどではない。

 巨大剣の側面を沿うように突っ切って、大巨人の右手に接近し、口からの熱線と右手の炎の大剣を叩きつけた。

 さらに相手の右腕から右肩まで突き進み、熱線で焼き払い、大剣で斬り刻んだ。


『ヌオオオオオオオオオオオオオオオーー!!』


 大巨人が激昂し、顔面に近づいた息子に灼熱の炎をばらまく。

 大巨人の顔面周囲一体に巨大な炎が吹き荒れるが、ミハエルは咄嗟に飛び退いて炎から逃れる。


 火の大巨人が逃さないと、巨大な両肩と背中から、新たな夕焼の堕天使たちを顕現させる。


『破滅の軍勢よ! 我等の敵を滅ぼせー!』


 火の大巨人の身体中から、奴隷にされた息子たちが何十体、何十体と出てくる。

 夕焼の大天使たちが翼をはためかせ、夕焼の大魔獣たちが爪牙をきらめかせ、夕焼の堕天使たちが大剣を振りかざして、飛びかかり、彼に襲いかかる。


 ミハエルは竜翼を羽ばたかせ、破滅の軍勢の包囲から逃れた。


 破滅の軍勢をけしかけて、動きが鈍ったところを潰す。潰してやる。


 そう考えた火の大巨人は、堕天使たちを大量に生み出して、彼に放ちながら暴れ回った。

 空飛ぶ息子を何としても潰すため、灼熱の巨大剣を旋回させ、紅蓮の大火炎を乱発し、帝都の中心に破滅の大災害を具現する。

 たくさんの堕天使たちが捨て駒にされて、焼き払われた。


 一撃、一撃与えれば潰せる。

 クソッタレな息子ガキをブッ潰せる。


 その一撃が、当たらない。


 ミハエルは竜翼を羽ばたかせ、大災害の中を飛翔した。全力の火炎・《怒りの光《レイーレ・レイ》》を吐いて、破滅の軍勢を一掃、火の大巨人にも浴びせて、炎の大剣のさらなる一撃を与える。


 破滅の軍勢は、邪魔にもならない。


 火の巨人が空を飛び、巧みにかわして、火の大巨人を一方的に攻め続ける。

 そればかりが、繰り返された。


 ミハエルが父の動きを見切ったのには、友から教わった火の巨人との戦い方が役立った。


 それだけではない。

 彼は、人間として、騎士として、火の巨人として、ずっと学んできた。

 弱き人々が、どうやって強大な獣や怪物、大自然と戦ってきたのかを。


 その知恵、勇気、技術、道具、文明を。


 逆に、ルドルフは快楽を貪るばかり。

 人から何も学んではこなかった。


 長い年月を経た今、こうなるのは必然だ。


 正義の騎士が、邪悪な怪物にするように。

 火の巨人が、人の御業で、火の大巨人を追い詰める。


 彼は、他にも学び、楽しんできた。

 風呂に、料理。

 歌に、踊り。

 劇に、物語。


 そして、恋。


 彼女と出会えたことをきっかけに、今まで多くの人たちと出会い、別れ、共に生き、心を交わしてきた。


 愛に、友情。

 優しさや、許し。

 怒りと、憎しみがあろうとも。


 それが、人生。


 怪物だった彼は、もう知っている。


 彼は、人間たちが理想とする、真の騎士になれたのだから――。



 全身を斬り刻まれ、焼き焦がされた火の大巨人が、帝都の大地にひざを屈し、両手をつく。

 力尽きたのだ。


 動けなくなった父親を、帝都の夜空に浮かぶ火の巨人のミハエルが炎の大剣を向けて、静かに見下ろしていた。

 彼もまた身体中が裂傷と火傷だらけだが、まだ動ける。


 勝敗は、決した。


 誰の目にも明らかだ。


 アルフレッドは、信じられない。

 虎丸は、目を離さない。

 ルーチェは、静かに見つめている。


 やり遂げた、彼の勇姿を。


 メラニーは、涙が止まらない。


 私は、優しく微笑んだ。


 ミハエルは、父に告げる。


『父上、ここまでです……』

『バカな……。火の大巨人であるこのオレが、このオレが……ガキに、自分のガキに……自分のクソガキに……!?』


『……何か言い残すことはありますか?』

『だまれ、だまれ、だまれー! 火の巨人族の恥晒しがー!』


『……わかりました』


 火の巨人の騎士として。


『あなたには……裁きを下す』


 彼は、決断する。


『最後まで迷いましたが……、一族の裏切り者であるあなたには、やはり……この剣で送るのがふさわしい!』


 この剣をもって、断罪を下すと。


『魔法使い殿、使います』

「ああ、使え。それはもう――お前のものだ」


 彼は、解放する(とく)

 怒りの剣(レ・イーレ)――王の剣の封印ふういんを。


 彼の右手にある大剣が変化して、赤から白へ――、太陽のように光り輝く。


 暗闇の帝都すべてが、天の光に包まれたかのように明るく照らされる。


「それは……」

『その剣は……』


 アルフレッドとルドルフは、


「それは……!?」

『その剣は……!?』


 この輝きを、知っている。


「私の世界を滅ぼした!?」

『我等が……王の……!?』


 そうとも。

 破滅の王剣(レーヴァ・テイン)の再臨だ。


 火の巨人の騎士は、振り下ろす。


『《火の剣が斬りダス・ヴァーレスエンデ・開く絶対運命デス・フォイアシュヴェールト》』


 火の大巨人が、頭の頂きから断ち斬られ、破滅の炎に飲み込まれてゆく――。



『父上、安らかにお眠りください――』



 火の大巨人は消滅し、一つの世界が終わりを告げた。


 辺りが静かになった今、アルフレッドが私に話しかける。


「お前……あの力を赤騎士に?」

「そうだ。かの王の剣を……この私すら滅ぼせる剣をだ」

「……なぜ、そんなバカなことを?」

「『破滅はめつ』の力を『救世きゅうせい』のために。彼に託すのがふさわしかったのと、対等な関係を築きたかった。絶対に使いたくないと思う、優しい彼だからこそな」


 アルフレッドが、忌々しく舌打ちする。

 その前に、人間の騎士の姿に戻ったミハエルが、空から降りてきた。


 長剣を右手に握りしめたまま、赤髪はボロボロで、肩で息を切らし、鎧も、体も、血まみれで傷だらけな姿でだ。


 火の大巨人と戦って……、実の父親を手にかけた後だ。


 身も、心も、疲れ切っている。


 満足に動けず、剣とてまともに振るえないだろう。


「ミハエル……」


 メラニーは駆け寄りたいが、彼がまだ放つ闘気がそれをさせない。


「……メラニー様、あと少しだけお待ちください」


 ミハエルがここに来たのは、まだやり残している使命を果たすために。


「アルフレッド……決着の時だ!」


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