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第三十五話 彼が辿り着く、地下深き底

 アルフレッドと夕闇の女帝に連れられて、メラニーは、また地下の大工房へとやって来る。

 メラニーはまだ冷静だが、女帝と同行する家臣たちは、外で暴れている赤い怪物を恐れて、てんてこ舞いだ。


 アルフレッドは、女帝たちをなだめるのに苦労しながら、最も安全と思われる大工房の中心、火の大巨人の足元まで皆を先導する。


 そこには、白兜の大剣士が、愛用する大剣を杖代わりのようにして、腰を下ろしていた。


「ここまで来れば……もう安心ね!?」

「そうです! ここならもう安全です!」


 娘の前で、泣きそうな女帝を、アルフレッドが励ます。


「ここで待っていれば、いずれ我等が白衣の騎士団と夕焼の堕天使たちが……」


 メラニーは、火の大巨人の方を見上げた。


 本当に火のように赤い人間の巨体が、頭部と両手両足を丸めて座り込み、山のようにそびえ立っている。

 周りにいる火の巨人たちもだ。


 一体、彼の父親は、どんな想いで奴隷にされてしまったのだろう――。

 彼の兄弟たちも――。


 今までの戦いで家族を解放してきたミハエルは、もうすぐここに来る。


 メラニーの左手の薬指には、彼に贈られた指輪がはめられている。

 腰元にあったその左手を、彼女は右手で大切に握りしめた。


 そう、ここで待っていれば、いずれ彼が――、


「おい、アルフレッド」


 と思っていたら、火の大巨人の足元に腰を下ろしている大剣士が、アルフレッドを呼んだ。

 アルフレッドは、まだ落ち着けない女帝を必死に励ましていた。


「なんだ、ルドルフ!?」

「やられたな」

「こんな時に、なんの話だ!?」

「そうだろ、お姫様!」


 いきなり呼ばれて、メラニーは驚く。

 思わず胸元に両手を上げて、アルフレッドたちの前で指輪を光らせてしまう。


「その指輪だ。魔法で、ここの居場所を上で暴れてるアイツらに知らせてる」

「なっ!?」

「ここで待っていれば、あの赤いバケモノがやって来るぞ。あのサムライもな。ルーチェも負けちまった」

「がっ!?」

「伝えたかったんだろ、お姫様。ここはアイツにとって、一番ブッ壊したいところだからな!」


 真相を暴かれ、頭に血が上る女帝に対し、メラニーは堂々と向かい合う。


「メラニー、私を裏切る気!?」

「裏切る? いいえ、お母様。うんざりなだけです」

「うんざり?」

「そうです。こんな政治も、戦争も、政略結婚も、もううんざり。国王であるお父様のせいで王国は滅亡の危機に瀕し、女帝であるお母様は陥落寸前の帝都で逃げ惑うだけなんて……。この世界のほぼすべての人間たちが、同じ気持ちでしょ」


 母親に正直な気持ちを明かしながら、彼女は覚悟を決める。


「ですから、国王陛下と女帝陛下は、夫婦揃ってどうかご退位を。皇太子アルフレッド、あなたもね。帝都陥落の暁には、第一王女にして第一皇女であるこの私が、黄昏の王国の王位と夕闇の帝国の帝位を引き継がさせていただきます!」


 ずっと考えていた。

 自分のせいで始まったこの戦争を、みんなのために終わらせて、それから償うにはどうすればいいのかを……。

 そのためにはこれしかないと、メラニーは母親と婚約者に言い放った。


「なっ……ふざけないで!」

「そうだ。調子に乗るなよ、メラニー!」

「いいえ。調子に乗ってなどいませんよ、アルフレッド。私は本気でやらせていただきます。婚約は破棄、皇太子の位は廃嫡、大工房は閉鎖、堕天使にされた火の巨人たちは……、丁重に弔いましょう。そして、あなたの身は……、彼に委ねます」


 この世界に混乱をもたらした最大の原因に向かって、メラニーは、この世界の君主として、ここに宣言する。


「知りなさい、異世界からの招かれざる転生者、夕闇の黒太子アルフレッド・ヴォルフガング・エーデルアーベント。私は、黄昏の王国次期女王にして、夕闇の大帝国次期女帝、黄昏の紅姫メラニー・ローザリンデ・エーデルワイス。あなたにはもう二度と……、王国も帝国も、この世界も、他の世界も好きにはさせないと」


 ――彼女も、立派に成長したものだ。


 娘に肝をつぶされ、女帝は顔面蒼白。

 アルフレッドはわなわなと震え、歯をたっぷりと食いしばった後で、彼女に下目を使って微笑んだ。


「本当にできると思っているのか、メラニー。君みたいな小娘に?」

「できます。アルフレッド。これでも黄昏の王国では、救国の姫君でしたから」


 相手に見下されようとも、メラニーは臆さず言い返す。


「それに、知っているでしょ、アルフレッド。私の元には、もうすぐ真の騎士が来ることを」

「ククク……」


 そう譲らずにいると、


「たいしたもんだな、お姫様」

 奥にいる白兜の大剣士が、今度は笑ってきて、メラニーは振り返る。

「……だがな。残念だが、そいつは無理だ」


 大剣士がなぜこんなことを言ってくるのか、メラニーにはわからない。


「惚れたアイツも、かわいそうにな」

「あなた、いったい……」


 大剣士の言葉に、メラニーが立ち尽くしていると、


「姫様……、アルフレッド様……」


 今度は、入口の方から、女のつらそうな声が聞こえた。

 血まみれで傷だらけの女騎士が、フラフラになりながら火の巨人の大きな足に寄りかかっている。

 白衣の騎士団長ルーチェだった。


「ご安心を。騎士たちに民を避難させるよう命じました……。赤騎士も、人を巻き込まないよう戦っています……。被害はたいしたものにはならないでしょう……。ですが、私の方は…………申し訳ありま…………」


 ルーチェは力尽き、アルフレッドの前に倒れた。


「ルーチェ!」


 メラニーは思わず、倒れたルーチェに駆け寄る。


「この傷……だれに?」

「拙者です」


 メラニーが見上げると、血だらけで、武士の甲冑を着た虎丸がいた。


「姫様。ご無事で何より」

青武士あおぶし!」


 互いに再会できて、友人同士のメラニーと虎丸は微笑む。


「……役立たずが」


 アルフレッドが悔しそうな顔で、ルーチェを見下ろしながら吐き捨てると、二人をキッと振り向かせる。


 その時、大工房の天窓から地響きが響いてきた。

 ここにいる全員が見上げると、大工房の天井が突き破られる。


 破片が落ちてきて、崩れた天井の穴から巨大な赤眼がこちらを覗き込んできた。


 火の巨人の赤騎士だ。

 ミハエルが、すぐ上までやって来ていた。


「ひっ、ひいいいいいいーー!!」


 夕闇の女帝が怯え、家臣たちを連れて、娘を置いて逃げ出す。


 メラニーは微笑み、アルフレッドが立ち尽くす中、火の巨人の赤騎士は天井をさらに崩落させて、その巨体ごと大工房の中へと降りてくる。


 そこに立って、ミハエルは大工房の中を見渡した。


 ここが、自分の兄弟たちが奴隷にされてきた屠殺場。

 ずっとあるとわかっていた場所に、ようやく辿り着くことができた。


 ここに置かれているのは、心を奪われ、眠らされている兄弟たち。


 そして、その中心にいるのは――火の大巨人。


 メラニーの方へ、火の巨人の赤騎士が、地響きを立てながら近づいてくる。


 皆が見つめる中、火の巨人の騎士は、一歩一歩進むごとに小さくなっていって、彼女のすぐそばまで来た時には、人間の騎士の姿に戻っていた。


 メラニーの元に駆けつけた、赤髪の赤騎士ミハエル・フォン・シュバルツは、疲れた人間の身体で、彼女の前に礼儀正しく跪く。


「メラニー様……、お待たせしまい、誠に申し訳ありません」

「いいえ、ミハエル……。よく来てくれました」


 ミハエルとメラニーは、心から笑い合う。

 そんな二人が、虎丸は微笑ましい。


 それからミハエルは立ち上がって、奥の方に向き直り、


「アルフレッド!」


 覚悟を決めた赤眼で、宿敵と相対する。


「決着の時だ!」


 慌てたアルフレッドは彼に背を向けて、息を乱しながら大剣士の元へ走る。


 白兜の大剣士は立ち上がり、近くまで来たアルフレッドと向かい合った。


「残念だったな、アルフレッド。結局、一人じゃ勝てなかった」

「ああ。認めるよ、ルドルフ……」


 笑う大剣士の前で、アルフレッドが背を向けたまま息を整える。


「……殺せ」

 アルフレッドは、ミハエルを指差した。

「ああ。殺してやる」

 白兜の大剣士は、ミハエルの方を向きながら答えた。


「……今さらできないとか、私を裏切るとか言わないよな?」

「まさか。人としてやりたい放題やるには、やはりお前がいてくれた方が都合がいい。オレたちは、これからも運命共同体だ」

「そうか。それを聞いて、安心した」

「まあ、せっかくの水入らずなんだ。話ぐらいさせろ。今さら、仲直りする気はないがな」


 楽しく会話するこの二人は、まるで一緒に悪巧みをしてきた仲間のようだった。


「……勝てると思ったか?」


 アルフレッドは強気になって、ミハエルたちの方を振り返る。


「私を追い詰めて、勝てると思ったか!? メラニー! 赤騎士!」


 調子に乗って、挑発した。


「いいや。お前たちは勝てないんだよ、赤騎士! お前がどんなにがんばろうとも、愛の力で、ドラゴン狂戦士バーサーカーになろうとも……お前が、火の巨人である限りな!!」


 ミハエルは、何も言わない。

 なぜ何も言わないのか、メラニーにはわからない。

 虎丸は、嫌な予感がしてくる。


 彼の意識は、アルフレッドではなく、大剣士の方に向けられていた。


「うすうす感づいていたみたいだな」

「……ずっとおかしいとは思っていた」

 

 大剣士に親しく話しかけられて、ミハエルは語り出す。


「全くの異世界にいた我々火の巨人を、アルフレッドは何を使って召喚したのか。『破滅』の力を忘れたとはいえ強力無比の兄弟たちが必死に抵抗しながら、なぜ捕らえられてしまったのか……。答えは、ここにいた火の大巨人が教えてくれた!」


「オレは驚いたぞ。まさか、オレ以外に、人間になりたがる奴がいたなんて……」


 大剣士が白兜を脱いで、炎のような赤眉と、鷲のように鋭い赤眼をした、ゴツい男の素顔を晒し、頭の後ろから長い、長い、彼と同じ燃えるような赤髪を垂らして見せた。


「……やはり、親子だな」


 その発言に、メラニーと虎丸は驚愕し、アルフレッドは口の端を吊り上げる。


 ミハエルは、ただ怒った。


「やはり、あなたか…………父上!!」


 彼の叫びを聞いて、白兜の大剣士――人間になっていた火の大巨人は、息子に向かって楽しそうにほくそ笑んだ。


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