表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/40

第二十三話 彼が起きてからの、朝の出来事

 翌朝、ミハエルは黄昏の王国の城の中へ向かった。

 国王と大臣に、いとまを告げるために。


 その後は、ただの一介の騎士として、夕闇の黒太子アルフレッドと決着をつけるつもりだ。


 朝早く、彼は大広間の扉から足を踏み入れる。


 昨夜の祝宴の後、テーブルの上には皿や残飯が散乱し、酔い潰れた者たちが寝っ転がって、愉快にいびきをかいていた。


「……ここともお別れか」

 ミハエルは、寂しく思った。

赤騎士あかきし!」

 そこへ突然、外から大声で呼ばれて、恐る恐る振り返る。


 扉の外からスゴい剣幕で、彼を見ていたのは、伯爵令嬢アリッサだった。


「こ、これはアリッサ殿、おはようご……」

「姫様からの言伝ことづてです!!!」


 挨拶するミハエルに、アリッサはいきなり叫んだ。


「『今すぐ会うことはできませんが、しばらく時間をください』『だから私に何も言わず、勝手に出ていかないでくださいね』だそうです!!!」


 アリッサが伝えた言葉の意味が、ミハエルにはよくわからない。


「アリッサ殿、それはどういう……?」

「ちゃんと伝えましたからね!!!」


 アリッサは、フンと背を向ける。


「あっ、待ってください、アリッ……」

「それから、これは私からの警告です!!!」


 アリッサはまた急に振り返り、更なる剣幕を見せ、ミハエルを怯ませた。


「何があったかは知りませんが……あれ以上、メラニーを泣かせたら許しませんからね!!!」

「……は、はいっ!」


 震える彼の答えを聞いて、アリッサはプンプン怒りながら去って行った。

 残されたミハエルは、茫然と立ち尽くす。


「……どういうことだ?」

「そんなの決まっておろう。お主の恋はまだ続いているということだ」


 また声をかけられて、今度は大広間の方を振り向くと、そこに立っていたのは虎丸だった。


「と、虎丸。続いているとは?」

「ミハエル。姫様との恋、まだあきらめるな」

「だ、だが、吾輩わがはいは……」

「よいではないか。人間と怪物との間であろうとも」

「そんなの許されるはず……」

「ならば、初めから彼女の前に現れなければよかったではないか」


 その言葉に、ミハエルは今になって惑わされる。


「お主も、いい加減、腹を括れ、こんな結末、拙者は許さんぞ」

青武士あおぶし……」

「姫様のために、まだまだ戦え、赤騎士。お主は、真の騎士なのだから」


 青武士の励ましに、赤騎士は心打たれた。


「……わかった。姫様のことは、アリッサ殿の言伝通りしばらく待つことにする」

「よし。それでこそ、赤髪あかがみ赤騎士あかきしよ!」

「とりあえず、今は……、姫様をお守りするためにも、奴だ」

「うむ。夕闇の黒太子だな」


 今日に、黄昏の王国と夕闇の大帝国との和平交渉は行われる。

 ミハエルと虎丸は、黒太子がそこの席で何か仕掛けてくると警戒していた。


「奴は、今どこに?」

「まだ部屋で眠っておる。ずっと監視しているが、動く気配はない」

「和平交渉は、今日の午前十時からだったな。何かあるとすればその時か……」

「それで、大臣殿が拙者たちに話したいことがあるらしい」

「なんと。大臣殿には、何かお考えが?」

「そうらしい。行くとしよう」


 二人が執務室に行くと、大臣が待っていた。


「来たか」


 そこは今、夕闇の黒太子を監視する騎士たちの司令所になっている。


「西の城塞都市から報告が入った。ヴィルヘルムの部隊が帝国との国境付近を警備中、森の中で白兜の大剣士と夕闇の堕天使を目撃したそうだ」


 それを聞いて、ミハエルは目を見張る。


 西の城塞都市は今、大臣の息子たちである騎士ヤーコプと騎士ヴィルヘルムの兄弟が残って、夕闇の大帝国の動きを監視していた。


「本当ですか、大臣!?」

「そのようだ。そこでだ、赤騎士。お前が城塞都市に行って、事の真相を確かめろ。これがもし事実であるとするならば、帝国との和平交渉が決裂するだけではない。黒太子をどうこうするための口実にも使える」


 大臣が、捕囚もしくは暗殺をほのめかす。


「大臣殿、お待ちを」


 ミハエルは反対した。虎丸も同感だと態度で示す。


「ここにいるのは黒太子だけではありません。国王陛下とメラニー様もおります。御二方をお守りするためにも、吾輩と青武士、どちらかがこの城を離れるのは危険ではありませんか?」

「拙者も同意見です。二人とも残った方が得策かと」

「いいや。ここは攻める」


 大臣は、黒太子を相手に待つ気はなかった。


「今、この城に夕闇の黒太子アルフレッド・ヴォルフガング・エーデルアーベントがいることこそが、絶好の機会。奴が西に白兜の大剣士という駒を置いたならば、私は赤騎士、お前を西に送る。奴と決着を着けるためにも。だからお前は、ヤーコプとヴィルヘルムがいる西へ行ってくれないか」


 また、息子たちのことが心配でもあったのだ。


「……わかりました」

「頼んだぞ、赤騎士」


 ミハエルは、後のことを虎丸と大臣に託して、西の城塞都市に向かう。

 王城と城塞都市の間は、馬を走らせれば半日の距離しか離れていない。


「――来たか、赤騎士」


 城塞都市の門の前で、騎士ヤーコプは騎兵隊を準備して待っていた。


 父上も余計なことをしてくれたものだ、とヤーコプは不満を隠さない。

 彼は、ミハエルと虎丸のことが好きではなかった。


「聞いたぞ。お前、化物なんだってな」

「それは……、帝国が流したデマです」

「だろうな……。これからすぐに大剣士と堕天使が目撃された場所に向かうぞ。疲れてるなどと言わないよな」

「はい。吾輩と愛馬は、まだまだ行けます!」

「よし。お前たち、行くぞ!」

「「オオオオオオオオオオオー!!」」


 騎兵隊の騎士たちが、馬上にて雄叫びを上げた。


 ヤーコプとミハエルたちは、大剣士と堕天使が目撃された国境付近の森へと馬を走らせる。


 そこには目撃したという張本人、ヤーコプの弟、騎士ヴィルヘルムが先に行って、待っているという。


「――――お待ちしておりました、兄上」


 森の奥にあった、開けた平原の中で、騎士ヴィルヘルムは立っていた。


 部下を連れず、馬にも乗らず、たった一人で。


 そこには、軍勢がいた跡も、堕天使のような巨大な足跡も何一つ見当たらない。


 この事実に、ヤーコプはすぐに気がついた。


「おい、何もないぞ。ヴィルヘルム。本当にここなんだろうな?」

「……ええ。ここで合ってますよ」


 ミハエルが気づいたのは、それだけではなかった。


「…………ヤーコプ殿、お下がりください」


 ヴィルヘルムの身体からは、熱く燃え滾るような気配が放たれていた。


 ――まるで、夕闇の堕天使に変身する帝国の騎士のように。


 ミハエルは、ヤーコプをかばうように馬を進ませ、ヴィルヘルムと向かい合う。


「おや、君までどうしたんですか、赤騎士?」

「ヴィルヘルム殿、それは一体……」


 しかも、その気配は、今まで遭遇してきた帝国の騎士たちとは、比較にならないほどの強大さを感じさせるものだった。


「……帝国に、何をされたんですかああー!?」

「いいえ。これは――私自ら望んだことです!」


 答えたヴィルヘルムの肉体は――、炎に包まれて、巨大化していく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ