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第二十話 彼を怒らせるのは、いたずら好きの魔法使い

「はあ……、楽しかった」


 秘密の館に帰ってきたメラニーが、ロビーの食堂でくつろぐ。

 隣で、ミハエルが、グッタリしているのは言うまでもない。


「は~い。聖女様特製異世界ソーセージ、お待ちどうさま~」


 席に座る二人に、給仕のフィーが料理を持ってくる。


「ゆっくりしていってね、紅姫べにひめ様~♪」

「ええ。また注文したくなった時にはお願いね、フィー」


 フィーは速やかに去って、二人っきりにさせてあげる。


「それにしても、異世界ですか……。あなたが、ああした物語をどこから持ってくるのか、やっとわかりましたよ」

「はははは……」


 秘密がバレて、ミハエルは苦笑いするしかなかった。


「……あなたも違う世界からやって来たのですね」

「……はい。そうなります」

「あなたがいた世界はどんなところなの?」

「赤い世界になります」

「赤い世界?」

「ええ。吾輩の赤髪のように……」

「……いつか連れてってくださる?」

「いいですとも。次の機会があればぜひ……」


 彼は、気になってたずねる。


「……姫様。吾輩は、まだあなたの側にお仕えしてもよろしいのでしょうか?」

「ええ、もちろんよ」


 彼女は、彼の気持ちを理解して答えた。


「たとえ違う世界の人だとしても、あなたが私の自慢の騎士であることに変わりないわ。赤騎士あかきし、これからも私のそばで仕えてくださいね」

「光栄です」


 彼は、頭を下げる。


「ところで……、その指輪はどうやって手に入れたのでしょう?」

「あっ、これ……。アリッサが、あなたからの贈り物だって」

「ほう、アリッサ殿が……」

青武士あおぶしが、そう言ったそうよ。アリッサも、青武士がくれた指輪をしていたわ」

「なるほど、虎丸の奴が……。それはおかしいですな。この指輪は、魔法使い殿しか作れないはずなのですが……」

「へえ、そうなのですか……」


 二人とも、笑顔が怖くなった。


「あとでアリッサたちには、ちゃんと言っておきましょう」

「ええ、魔法使い殿にも。今頃三人でのぞいておりますぞ」


 そのとおり、虎丸とアリッサ嬢にも魔法で公開中だ。


 というわけで、


「何を言う。私ならばここにいるぞ」


 謝罪も兼ねて、私は、二人の前へ挨拶に伺った。


「魔法使い殿!」

「まあ……」


 ミハエルは怒り出し、メラニーは笑顔で、二人揃って立ち上がる。


「どうも、メラニー姫。ようこそ、私の秘密の館へ」


 私は、彼女に挨拶してから、頭を下げる。


「それから三日間の遅れ、またとんだいたずらをして驚かせてしまい、誠に申し訳ありません」

「いいえ、あんなに楽しい旅を……。異世界旅行だなんて……。魔法使いさん、本当にありがとうございました」

「とんでもありません。あなたに楽しんでいただけて何よりです」


 私が彼女と仲良く話すと、彼をヤキモチさせた。


「魔法使い殿ー! まったく、あなたという人はー!」

「何を言う。お前の願い事は、ちゃんと叶えてやっただろうが」


 私がニヤニヤすると、ミハエルを怒らせたまま赤面させ、メラニーをおかしく笑わせる。


「メラニー姫、この館に来てくれた記念に、その指輪は差し上げます」

「まあ、本当に?」


「はい。その指輪をはめていれば、またいつでもこの館に来れますよ。たとえ城の中に閉じ込められていようともね。お帰りとて、いつでも自由です」

「そこまでしてくださるなんて……。けど、父の監視の目が……。そうです。今頃、城ではまた騒ぎに……」


「ご安心を。お出かけ中の今は、部屋の中に幻術がかかっていますので。外出は、バレていません。もちろん、次に来る時もね」

「嘘でしょ……」

「今度来てくださる時には、ご友人のアリッサ殿も、ぜひご一緒に」

「……ええ、そうさせていただきます」

「それから、どうぞこちらへ……」


 私は、彼女が城からここにやって来た時に最初に迷い込んだ部屋の前まで案内し、扉を開ける。


 部屋の中には、彼女が国王によって焼かれた本、紙、筆、小道具がそのままの形で揃っていた。


「このとおり、あなたの宝物は全て無事です」


 メラニーとミハエルは、あまりの驚きに目を見開く。


「城の部屋へお帰りになられた時に、いつの間にか運ばれていることでしょう。また捨てられたりしたしても、指輪にお願いすれば、すぐに元通りになりますので」

「魔法使いさん……、なんて言ったらいいのか」

「メラニー姫。お礼ならば、どうか赤騎士に。その指輪は、彼からの贈り物です」

「……はい」


 彼女は、うれしくてたまらない。

 ミハエルは、何とも複雑な表情をしている。


「それでは、私はこれで。赤騎士、彼女と仲良くな」


 おじゃま虫な私は別れを告げて、二人の前から姿を消した。

 さすがにこれ以上は、虎丸とアリッサへの公開もストップだ。


 さて、私も…………赤騎士を三日も待たせた件で、叱られに行くとするか。


 メラニーは笑顔で、ミハエルの方を振り返る。


「親切な御人じゃない?」

「いいえ、だまされてはいけませんよ、姫様! 確かにあの人は、いい人かもしれませんが、とてもイタズラ好きで、悪趣味で、タチが悪いお人なんですからー!」


 まだ怒っているミハエルに、メラニーは笑った。


「赤騎士……。あなたは、どうして私にそこまでしてくれるの?」


 そして、突然、彼女が真面目になって、彼は戸惑う。


「それは、その……」

「ねえ、どうして?」

「吾輩は……」

「あなたは?」

「あなたを……」

「私を……?」


 次の一言を、彼女が待っている。

 けれど、彼は、顔を真っ赤にするばかりで、どうしても口から出せない。


「……言えない?」

「……申し訳ありません」

「だったら……私から言っていい?」

「えっ!?」


 彼はびっくりして、真っ赤になった顔を彼女に向けた。


「な、なにを……?」

「わかってるでしょ……」


 うっとりとした瞳に見つめられて、彼は目を離せない。

 彼女の美しい顔が、彼の真っ赤な顔にゆっくりと近づいてくる。


「……やっぱり、ダーメ」


 それが、間近になったところで、彼女は真顔になった。


「こういうことは、やっぱり殿方から言ってくれないと」

「……遊んでます?」


 ガックリな赤騎士に、紅姫は可愛く笑うと、彼の赤いほっぺたにキスをした。


「いつか、ちゃんと言ってくださいね。ミハエル」



 彼女が楽しい日々を取り戻してから、数日経ってのことだった。


「……魔法使い殿。もう黙っていられません」


 真の騎士たるものは、常に正直で、誠実であれ。


 それを信条とする彼には、もう耐えられない。


「吾輩は……姫様に告白します」


 だから、決意した。


「吾輩は…………人間ではないと!」



 ――そして、タイミングが全くもって悪いことに、


「陛下、今なんと?」

「耳が遠くなったのか、大臣」


 黄昏の国王が、大臣に告げる。


「いいか、私はこう言ったのだ。夕闇ゆうやみ大帝国だいていこくより外交使節としてやって来る夕闇の黒太子こくたいし、アルフレッド・ヴォルフガング・エーデルアーベントを丁重にお迎えしろとな!」


次回から、一日一回、朝7時30分頃の更新となります。

よろしくお願いします。

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