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第十九話 彼が向かうのは、秘密の館

 城に帰ったメラニーは、国王によって謹慎を命じられる。

 部屋の中に閉じこもっていろというわけだ。


青武士あおぶし、姫様は頼んだぞ!」


 ミハエルは虎丸に後を託し、愛馬のリョーマに乗って城を出て行った。



 アリッサと侍女たちが心配する中、メラニーは部屋の中でじっと待ち続ける。


「……赤騎士あかきしは、まだ?」


 城から姿を消した彼の帰りを。


 同じ頃、ミハエルもじっと待ち続けた。


「……魔法使い殿は、まだ帰らないのか?」


 自身が所属する冒険者ギルド、秘密の館のロビーで魔法使いである私の帰りを。


 魔法使いである私を連れ帰って、外の世界に出たいという彼女の願いを叶えてもらうために。



 ――翌日、二人は同じように待ち続けた。


「赤騎士は……」

 城の部屋の中で、メラニーがぼやき、

「魔法使い殿は……」

 秘密の館のロビーで、ミハエルがぼやく。


 待っている人の帰りを。



 ――それから、さらに二日経った。


「……赤騎士は、まだなの!?」

 城の部屋の中で、メラニーが叫んで、

「……魔法使い殿は、まだなのか!?」

 館のロビーで、ミハエルが叫んだ。


 二人とも、我慢の限界に達していた。



 なぜ、こんなことになっているかだって?


 私が、二人が待っていると知りながら、わざと帰らなかったからさ。


 できるだけ待たせた方が、後で、二人はもっと仲良くなれるからね。



 その頃、王国の城の廊下では、アリッサが虎丸に聞いていた。


「赤騎士は、まだ帰らないのですか?」

「はい。すぐ帰ってくると言っていたのですが、何をしているのやら……」


「メラニーがイラだってますよ。私もですが」

「おや、アリッサ殿までなぜ?」


「当然でしょ。二人の間に立たされている私の身にもなってください」

「なるほど。でしたら気分転換にどうです。拙者と一緒にお茶でも?」


「嫌ですよ。あなた、浮気者なんですもの」

「それは、残念……」


「これは手厳しい。ですが、まんざらでもなさそうですな、アリッサ殿?」


 そんな二人の前に、私は現れた。


「おお、魔法使い殿」

「あなた、赤騎士と青武士の……」


 虎丸は、アリッサと共に、私と向かい合う。


「魔法使い殿、なぜここへ。館で、赤騎士が待っているのですよ?」

「知っている。だからこっちにやって来たのだ」

「それは一体……ははあ、さては、またよからぬことを企んでますな?」


 虎丸がにやっと笑うと、私もニヤリと笑った。


「そうだ。赤騎士とメラニー姫をもっと仲良くさせてあげるためにな」

「なっ!?」


 それを聞いて、友達想いのアリッサは怒り出す。


「あなた、どういうおつもり! メラニーに何を!?」

「まあ、落ち着いて。実はですね……」


 私がよからぬ企みについて、アリッサと虎丸に詳しく聞かせると、


「「……なるほど」」


 二人とも、協力してくれることになった。



「……この指輪を青武士が?」

「ええ。まだ帰れない赤騎士からの贈り物ですって」


 アリッサが渡した『秘密の指輪』を、メラニーは指でつまんで見てみる。

 何の飾りもない小さな指輪が、金色に輝いている。


「あの二人がしているものと、同じものじゃない?」

「そうなの。『お揃いのを姫様にも』だそうよ。私もほら、これ。青武士から」


 アリッサが自分の指にはめた指輪を、メラニーに見せた。


「あなたたち、いつの間に仲良くなったの……」


 私のお手製の指輪だ。

 怪しいアイテムだと思ってくれていい。

 そのとおりだから。


「メラニーもしてみて。赤騎士が『びっくりすることでしょう』だって」

「なにそれ。願いを叶えてくれる魔法の指輪だとでもいうの…………。ねえ、アリッサ?」

「なに?」

「なにか企んでな~い?」


 おや、勘のいい。


「別に」


 アリッサが動じなかったのは、ナイスだった。


「まあ、いいわ……後でね」


 メラニーは、指輪を机の上に置いた。


 それからしばらくして、部屋で一人っきりになったメラニーは、机の上に置かれた指輪を見つめる。


「……まさかね」


 右手を伸ばして、指輪をつまみ上げ、左手の人指し指にはめてみる。

 左手を広げ、指の下で金色に光る指輪を、彼のことを想いながらじっと見つめ続けた。


「さあ、私を外の世界に……彼の元に連れてって」


 すると、彼女が気づかない内に、城の中にある部屋の風景が変わっていく。


「あら?」


 気づいた時には、城の中にある部屋の中は、宿屋の一室の中のような木造建築の部屋に変わっていった。


「……なにこれ、なにこれ、なにこれ!?」


 突然の異変に、メラニーはパニックになる。


「アリッサ……、誰か……、赤騎士!」


 彼女は慌てて部屋の扉を開け、廊下に飛び出した。

 木造の廊下の向こうに、広々としたロビーが見える。


「…………遅い」


 誰かの声がした。


 彼だ。


 メラニーは、廊下の壁をつたって行く。


「遅い! 魔法使い殿はまだなのかー!」


 ミハエルが、テーブルを両手で叩く。

 ロビーに設けられた、酒場の椅子に腰掛けていた。


「だから落ち着きなって、赤騎士」

 そこへ、酒場の給仕をしている小柄な少女が、料理を持ってくる。

「はい、これ。追加のソーセージ。お待ち~」

 赤騎士の大事な仲間で、私の生意気な弟子のフィーだ。


「お師匠のことなんだから、どうせろくでもねえこと企んでるに決まってんじゃん。今頃、アタシらのこと覗いて、ニヤニヤ笑ってんだぜ~。ねえ、お師匠?」


 おいおい、なんてひどい言い草だ。と、私はニヤニヤ笑いながら見ていた。


「それはわかっているのですが、フィー殿……。魔法使い殿が何を企んでいるのか、気になってしょうがないのです!」


 ミハエルはテーブルの上に置かれたソーセージにかじりつき、バクバクと貪る。


「ああ、姫様に何事もなければよいのですが……」

「そういう、おめえの愛しのお姫様はどんな人なんだよ。いい加減、教えろよ~」


 フィーは、性格の悪い自分には春が来ないのではないのかと、コンプレックスを抱いていた。


「いや、だからそういうわけでは……」


 そう言われて、ミハエルは照れながら戸惑うと、


「赤騎士!」


 いきなり声をかけられ、驚きながらロビーの方を振り向く。

 すぐそこに、愛しのお姫様が立っていた。


「……姫様!?」

 ミハエルはもうびっくりして、椅子から立ち上がる。

「赤騎士。ああ、よかった」

 メラニーは駆け寄って、安心したいかのように彼の手を掴んだ。


「ひ、ひ、姫様! なぜここに!?」

 ミハエルは慌てながら、彼女の小さな手を優しく握り返す。

「聞きたいのは、こっちですよ。あなたこそ、なぜここに?」

 顔を上げたメラニーは、涙に濡れた瞳と嬉しそうな微笑みを見せた。

「……そうです。ここは、一体どこなのですか?」

 そして、きょとんとした顔を浮かべる。


「は、はい……」


 ミハエルは、ドキドキする想いを必死に抑えながら言った。


「ここは、秘密の館。吾輩わがはいと青武士の古巣でして、その……」

「確かあなたが所属する冒険者ギルドの……つまり、外の世界なのですか?」 

「……はい」


 彼は、彼女の問いに籠められた想いを、理解しながら答える。


「姫様があれだけ行きたがっていた外の世界になります。……異世界ですが」

「……やったあああああーーー!!」

 

 ミハエルとフィーが見ている前で、メラニーは大感激、大喜び、大はしゃぎ。


「館の中はどうなってるの!? 外には一体何があるの!?」


 ロビーの中を子供のように駆け回り、ミハエルを唖然とさせた。


「ふうーん……。赤騎士の彼女って、あんなにかわいいお姫様だったんだ」

 そんな彼に、フィーはジト目を向ける。

「いやあ、だから彼女では……」

「照れんなって。やるじゃん、このヤロ~♪」

 と言って笑顔になり、ミハエルの背中を思いっ切り叩いて祝福した。


 恥ずかしがる彼に、またメラニーが駆け寄ってくる。


「赤騎士、命令です。私を外の世界に案内しなさい! 早く!」

「は、はい! 心得ましたぞ、姫様~!」


 秘密の館は魔法の力で、数多くの異世界とつながっている。

 そのことを説明して、ミハエルは、メラニーを様々な世界へ連れて行った。


 たとえば、執事のいる屋敷へ。


「よくいらっしゃいました、メラニー様。ミハエルが育ったお屋敷へ」


 浪平なみへいが治める都にも。


「ここが、お寺というところになります。仏様にお参りするにはこうやって……」


 ナガコの港町へ。


 おっと。

 言っていなかったが、兄妹のトマスとベティとは、また仲良くなれた。


「おう、ミハ……!?」

「ミハエル、その女の人は?」


 トマスは、町の若者たちの顔利きである剣の達人に。

 ベティは、恵まれない子供たちの世話をする美しい娘に育ったぞ。


「それじゃあ、メラニー。私が町の中を案内してあげるね」

「おい、ミハエル……うらやましいな、おい!」


 他にも、落ち葉がきれいな森の中。

 滝が流れる山。

 真っ白な雪原にも。


 初めての自由なお出かけでメラニーは、世界一周をも飛び越えて、異世界旅行を堪能たんのうしたというわけだ。

 しかも、ミハエルと一緒に、二人っきりの異世界デートをね。


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