第十五話 彼が調べるは、真夜中の怪事件
「アリッサ殿、次の本はこれになります」
「はい。確かに……。変わった内容ね。どんな物語なの?」
「推理小説。夜を駆ける怪人を相手に、探偵が事件を解決する謎解きものですぞ」
怪人が美女を狙い、探偵が名推理で迎え撃つ。
探偵VS怪人。
果たして、宿命の対決の行方は――。
その日の夜、推理小説の中の冒険とミステリーが、メラニーとアリッサを夢中にさせる。
黄昏の王国の王都。
そこは今、戦争中だということが嘘であるかのように平和を謳歌していた。
夕闇の大帝国軍との戦争は続いていたが、赤髪の赤騎士ミハエル・フォン・シュバルツの活躍によってことごとく退けているからだ。
そんな時である。
王都の真夜中に、不気味な事件が起こり始めたのは。
皆が、寝静まった夜。
美しい娘が夜道を歩いていると、突然いなくなる。
娘たちはしばらく時間が経った後で、王都の中で無惨な姿となって発見された。
この事件は、王都の人々の間でたちまち話題となる。
真夜中の怪事件として。
特に、ゴシップ好きにはたまらないネタとなった。
それは、この王国のお城に住んでいるお姫様も同じだったらしい。
ミハエルと虎丸は、王女メラニーの部屋に呼ばれた。
「二人とも。今、城下を騒がしている事件はご存知?」
「聞いておりますぞ。真夜中の怪事件ですな」
「そうよ。既に六人の女性が犠牲になってるわ」
二人に、メラニーは悔しい表情を見せる。
「王都の民のためにも放っておくわけにはいかないわ。この事件を、二人に調べて欲しいの」
「心得ましたぞ、姫様。吾輩が必ず騎士として……」
「そして真相がわかったら、絶対に私のところに来なさい!」
「……なんですと?」
「そして、隅から隅まで報告しなさい。この事件の真相を!」
民のためにもというのも本心だが、メラニーは知りたかったのだ。
この事件の真相を。
子供の頃から事件やオカルトの類は大好きだが、この前の推理小説でさらにハマってしまったらしい。
ちなみに、物語やこういうものが大好きになったのは、子供の頃に赤い怪物に出会えたからだ。
「わかりました。それでは、姫様、行ってまいります!」
「あっ、そうそう。アリッサが先に行ってると思うから」
「…………なんでですか?」
王都に下りたミハエルと虎丸は、まずは最初の事件現場だという東の大通りに向かう。
そこには、アリッサがいた。
「すいません。先日の怪事件についてお聞きしたいのですが……」
アリッサは事件について、聞きまわっていた。
学者に変装し、伊達眼鏡を可愛くかけて。
クールを気取っている姿が、何だか怪しく見える。
「アリッサ殿、アリッサ殿」
「うわあ!?」
彼が背後からそっと呼びかけると、探偵アリッサはびっくりして振り返る。
「赤騎士に、青武士!? なぜここに?」
「姫様のご命令にて、事件を調べに来ました。アリッサ殿はなぜここに?」
「わ、私は……自発的に事件を調べに来たのです。愛する民のために!」
「……民のため?」
「ええ……!」
アリッサは目を背けながらも、堂々と胸を張った。
そんなアリッサに、虎丸は微笑む。
「そんなこと言って、この前の小説みたいな探偵になりたくて来たのであろう?」
「……そんなわけないでしょ」
アリッサは表情を変えなかったが、ミハエルが怖くなるぐらい怒っていた。
とりあえず、三人は一緒に事件を調べ始める。
大通りにある酒場を見つけて、そこの主人に話を聞く。
「あの事件かい?」
「ええ。何かご存知?」
「そりゃ知ってるさ。最近、飲みに来る客がいつも話してるからな」
主人が語った最初の事件のあらましはこうだ。
その日の夜、街灯に照らされた暗い大通りを男女が仲良く歩いていた。
男が楽しそうに話していたら、突然気づく。
すぐ隣にいたはずの恋人が、いつの間にかいなくなっていたことに。
男は、女の名を叫びながら辺りを探し回ったが、見つからない。
翌日、男は知る。
その日の朝に、王都の反対側の西側にある細い道の真ん中で、女の死体が見つかったのだ。
路面に叩きつけられたかのように無残な姿となって横たわっていた女は、紛れもなく男の恋人だった。
「女性が王都の東側で消え……、西側で殺されていたですって?」
「消えた場所から、遺体が見つかった場所まで……、大の男が全速力で走っても数時間はかかりますな」
「普通の人間には不可能……。この事件、魔術師の仕業か、あるいは……」
同じような事件の犠牲者は、娘が六人。
他の犠牲者についても聞いて回ったが、どれも似たようなものばかり。
真夜中に女が消え、わずか数分から数時間後に、遠く離れた場所で死んでいた。
犯人の姿を見た者は、誰もいない。
犠牲者たちの遺族から聞いていくうちに、アリッサは義憤に駆られていく。
メラニーをはじめ、彼女たちが事件の真相を求めるのは、決して事件や探偵に惹かれただけではない。
しかし手がかりは何も見つからず、あざ笑うかのように外が暗くなっていく。
事件が起こる夜が、近づいてきていた。
「アリッサ殿は戻られよ。後は拙者らが……」
「いいえ。私も。犯人が出るとなれば、夜に決まってます!」
「だからこそ危険なのです。犯人の正体がわからない以上……吾輩たちがあなたを守れるとは限りません!」
アリッサは渋々従って、住んでいる伯爵家の屋敷に戻った。
「はあ……」
深夜、白い部屋着に着替えたアリッサは、屋敷のバルコニーに出て、王都の夜景の方をぼんやりと眺める。
向いている方角は、左上の屋根に置かれたガーゴイルの石像と同じであった。
――あの二人は、まだ事件を調べているだろうな。
「ああ、もう! あの二人ったら!」
そう思うと、思わず不満が口から出て、バルコニーの柵を両手で叩いた後に、そこへ寄りかかってしまう。
「……私やメラニーだって、あなたたちみたいに冒険したいわよ」
二人の若い男から数々の冒険を聞かされて、彼女たちの心にはそうした想いが募っていたのだ。
その時、左上のガーゴイルから、音がした。
「だれ!?」
アリッサは、咄嗟に振り向くと――、目の前が真っ暗になった。




