2話:頼もしい協力者
レイたちと共に復興作業をしているはずの十二人衆と、別件と言って途中から離れていたシム。そんな彼らが、唐突にリゥの前に現れた。
「皆……どうしてここに? 復興作業に加わってるはずじゃ……」
「そーだったんだけど、昨日の復興作業で大体終わったから後はレイさんたちが任せろって。だからこの前の戦いでかなり久々にクラフトとか酷使したから、一回皆で検査しておこうってなって」
「あー、そーゆーね。シム博士の別件はそういう事か」
事実、リゥが一昨日見回った限りでも目立った被害は少なかった。そのため昨日だけでほぼ事態の収拾が終わり、残りをレイたちが今終わらせているということだ。
肩をぐるぐると回しているレツを初め、勢揃いしている十二人衆は誰一人として特に何かあったという様子はない。
大方、検査終わりにシムから話を聞き、廊下でタイミングを見計らっていたという形だろう。
「それで、皆の適性は出たんだろ? 兄貴だけじゃ難しいこともあるだろうし、俺様たちも協力するぜ!」
「ほぉ……そりゃシンプルに助かる。俺が自ら教えた分、信頼ってことに関しちゃ他の四天王より厚いしな。てか、いくら火特化でもゴウなんかに任せておけねぇわ……」
「お、てことは俺様と同じ火特化いるのか!?」
正直、どれだけ火の扱いに優れていてもリゥは大事な後輩をゴウに任せることなど出来ない。
レイは一から細かく教えられるだろうが、ゴウは圧倒的に感覚タイプだ。この中であれば、翼が唯一近いだろうか。レツにもそれが無いとは言わないが、それでも十二人衆にはリゥが基礎から教え込んでいる。ゴウと比べれば、比較的分かりやすく教えられるはずだ。
兄として憧れるリゥに同属性として憧れるゴウ以上の信頼を受けている。そして何より自分と同じ火特化がいると知り、レツの喜びは絶頂にある。
目をキラキラと輝かせ、レツは優輝たち六人をジーッと見渡す。
「おう! ほぼ完全に火特化の蒼空だ! 流石にレツほどじゃないけど、火の数値はそこそこ高いぞ」
蒼空の肩に腕を回し、リゥは目を輝かせているレツに万遍の笑みで紹介する。
レツを含め十二人衆はほぼ自分の最適性に特化していて、自属性の基本は全てマスター。そして今では独自に生み出した我流の想術まで極めようとしている、四天王を除けば間違いなく聖陽郷でトップの存在だ。
「おー! 良かったじゃねーか! 火属性ならそれに特化してるに越したことはないぜー!」
「え、あ、はい……えっと……?」
「俺様はレツ! 兄貴の一番弟子だ! 勿論最適性は火だし、君と同じ火特化!」
「あ、えっと……蒼空、です……」
かなりグイグイと来るレツに押され、明らかに戸惑っている蒼空。しかし、すぐ横にいるリゥはそんな蒼空に向かって微笑むだけ。リゥが何も言わないということは、当然だがレツに害意というものがないことの表れだ。
「んでんで、やっぱり火特化なら戦いメインでしょ? 俺様が早速教えよーか!?」
「あー、その事なんだけどさ。まだ皆どうするかは決まってないんだ」
「お、そーなのか……まぁ火属性でも戦わないって人は結構いるしなぁ……」
「うん。だから、もしもこの中の誰かが戦うってことを視野に入れてるなら、その適性を持つ十二人衆が俺と戦って様子を見てほしい。それで戦える、戦いたいって思うなら、その方針で行こう」
詰まるところ、蒼空に戦いたいという気持ちが少しでもあるのなら、同じ火属性のレツがリゥと戦い火を扱って戦うというイメージを掴んでもらう。その上で本当に戦うのかどうかを決める。
これは、全く戦闘などとは関わりのない世界から来たばかりのアキラや優輝たちに対する配慮だ。
「戦う……ってことに向いてるのは、やっぱり攻撃用主属性に適性を持ってる優輝、蒼空、蓮の三人かな。アキラの光も戦えるけど、十二人衆に副属性が扱えるのはいないからな……」
「――ッ!? え、光!? アキラくんって適性光だったんですか!?」
「光、って……あ、兄貴……?」
「――。大丈夫だよ、そんな心配してくれなくても。アキラには、責任持って俺が教える」
「そ、そっか。ならいいんだけど……」
アキラの適性――その光という言葉に、過剰な反応を見せた十二人衆。そして後ろで立っているシムも、僅かに顔色を変えて息を呑んでいた。
「まぁそんなことは今はいいよ。誰か、戦うってこと視野に入れてる?」
「俺は勿論考えてるよ。龍翔くんの話だと、土って攻撃向きなんでしょ? 確かにそんなイメージはあるし、俺は戦うことも視野に入れたい」
「お、俺も……戦うのは正直怖いけど、今は火を戦う以外に使うことってあんまりよく分からないし。消去法ってわけじゃないけど、一応」
「――俺はパスかな。雷って如何にも攻撃用っぽいけど、雷ってことは電気でしょ? だったら、科学的な方に使えるかもしれないし。俺にはそっちの方が向いてる」
「俺も、戦うのはいいかな。最初は龍翔くんのためにって思ってたけど、今はちょっと試したいことあるから! 毒と自然で、なんか出来そうな気がする!」
「俺もやっぱり戦わないかな。ずっとリゥくんのそばで見てたけど、俺はリゥくんみたいに動けないし。それに、能力的にも俺はサポートだから! 今は想術よりもそっちかな」
戦闘を視野に入れた優輝と蒼空に対し、蓮と翼、そしてアキラは各々の考えがあるのか戦闘を候補から外した。
「つまり、優輝と蒼空――土と火だから、俺と戦うのはイルとレツだな。二人とは戦う約束とかあったし、丁度いいじゃん。勿論協力してくれるっしょ?」
「当然! 兄貴のためなら何でもやるぜー!」
「まぁ、元々アニキとは戦ってもらう約束だったからな。」
こうして、レツとイルは約二十年ぶりとなるリゥとの戦いに激しい闘志を燃やす。
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場所をラボからファクトリーの闘技場へと移し、借り切った闘技場の観客席にはアキラたち五人とイル、レツを除いた十二人衆が三つ巴の形で間を取っているリゥたちに目を向けている。
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開始の合図も前触れも無いまま、同時に動き出した三人。誰が一番でもなく、三人は待った同時に動き出したのだ。
「――ッ」
しかし、三人同時というのはレツとイルにとって大きな失敗だ。対戦相手と同時に始動したのでは、単純に素早い方が初手を決められる。しかし、相手が動こうとする前に動けばそれはそれで対処される。厳密には、対戦相手であるリゥが動くことを頭で命令し体がそれに従う時間――コンマ数秒早く動かなければならない。
全く同時に動き出したことに気付きそれを悔やんだ瞬間、二人が警戒したリゥの攻撃はもう既に目と鼻の先にあった。
「ッく!」
「チッ!」
目先に迫ったリゥからの攻撃――無詠唱で放たれていた氷柱に対し、レツとイルは咄嗟に炎と土の防御壁を展開。しかし、同時に展開した防御壁が見せる在り方は同じではない。
攻撃の威力を殺せる最小限の壁で相殺したイルに対し、レツは炎の火力を上げ目の前の氷柱を打ち消したながらその炎をリゥに向けて放った。
「――!」
最小限の防御で的確に相殺する土壁。それは長期戦に於いてはクラフトを温存することが出来、長期戦でなくとも次の動きをより素早く開始できる。
攻撃を無効化した後、攻撃に転換する炎幕。それは防御と攻撃を同時に行うことでクラフトと時間の消耗を抑え、タイムラグを生じさせずに攻撃へと転換できる。
初手から優勢を取ったと思う間もなく、真正面から突き進む炎にリゥは次の行動を開始。炎に巻き込まないようにたった一度のバックステップで距離を取りながら、無詠唱で放った雷を炎幕の奥へと落とす。
「――ッ!」
今までの戦いでは見せなかった防御且つ攻撃の炎幕を容易く破られ、息を飲んだレツは慌てて目の前の雷を持ち前の火力で相殺。
レツの新たな試みは、ものの数秒で見事に看破された。
が、しかし。リゥが後退して放った雷はレツにしか届いていない。必要最低限の防御で相殺し次の行動へ移っていたイルは既にその場から離れ、レツとその炎幕に気を取られていたリゥの死角へと回っていた。
「――!」
たった一歩で大きく後退したということは、それだけ地面から多くの時間離れていたということ。時間にして一秒にも満たないであろう時間だが、それだけあればイルもかなりのイメージを練ることが出来る。
視界から消えていたイルに気を割いた瞬間――同時に、コンマ数秒ぶりにリゥが着地しようと瞬間。リゥの着地よりもほんの一瞬だけ早く、リゥの着地点が隆起。が、しかし。予想よりも早く来た地面の感触に、リゥはその事実を一瞬で察知。
地面が隆起し足が地面に早くついた程度で体勢を崩すリゥではない――
「――んなっ!?」
――と言うのは、それを仕掛けたイルにとってももはや当然の如く知っていた事実。だからこそ、イルが引き起こした隆起は土の形成によるものではない。
イルが地面を隆起させる方法は、大きくわけて二つ。
一つ目は、クラフトを使用して土を形成し、平らな地面に突起を生じさせる方法。これは無からクラフトで何かを作るもので、大半の想術はこれを多く用いる。
二つ目は、元あるものを操作して扱う想術。例えば水属性であれば、川や海の元々ある水を念力とは別に扱うことが出来る。
今回イルがリゥに仕掛けたのは、前者ではなく後者。リゥの足場となるはずだった地面を切り取り、それを上に持ち上げた。つまり、その隆起した地面を足場にしようと力を入れれば、支えのないその土は力のかかる方へと移動する。
「龍岩柱!」
幾千もの戦いによって培った経験は、戦いに於いて様々な影響を及ぼす。しかし、ここで注意しなければいけないことが一つ。それは、経験によって及ぼされる影響がいつも良い方に転がるかというものではない。
経験は確かに大事なもので、あるのとないのではそれだけで大きなハンディキャップが生じるだろう。実戦経験が豊富なベテランはそれだけで単純な力量や年齢差を埋めることが可能だ。
だが、経験則というものは時に大きな誤算を産む。「こうあるはずだ」という思いが強ければ強いほど、予想外の事態に対する対応が遅れる。
今回の戦いに於いては、まさに前期の通り。隆起した地面でも関係なく足場にするという判断が早かったまでは良かったが、その時点で足場にできないという考えはなかった。
その結果、リゥは自分のかけた力で沈んだ足場に体勢を崩し、真上から放たれた岩柱を避けられぬままその影に飲み込まれたのだ。
「――龍翔くん!?」
「え、え!? 今の何!?」
「り、龍翔くん……?」
「負けちゃったの?」
たった数秒に繰り広げられた今の攻防で、優輝たちが判断出来たのはリゥが岩柱に押し潰されたということ。いつの間にか上空に上がっていたイルが放った岩柱は、リゥを巻き込んだまま地面にめり込んだ。
その目に見えた事実だけを必死に把握しようとした優輝たちの頭に走ったのは、リゥの負けという悪夢。蒼白にした顔に冷や汗を流し、優輝たちは勢いよく椅子から立ち上がる。
「――ううん、負けてない」
「――え?」
「まだまだだよ」
慌てた様子で取り乱している優輝たちのすぐ傍らで、全く動じる様子のないアキラ。そしてそれは後ろにいる十二人衆も同じで、今の状況に動揺しているのは優輝たち四人だけ。
優輝たち以外はその場からピクリとも動いておらず、表情さえも変えていない。
何故なら――、
「リゥくんたちの戦いは、まだ始まったばっかりだから」




