95話:復興準備
優輝を背負いアキラたちを連れ、龍翔――基、リゥはレイたちがいるであろう一室に戻った。
「――戻ったか。皆がそうしてリゥにくっついてるって事は、どうやら話も終わったようだね」
「ああ。時間とって悪かったな。――大全師とクロ、カエさんたちは……」
「――――」
部屋の扉を開けたリゥに振り向き、僅かに微笑んだレイ。そんなレイに頷きながらリゥはその部屋を見渡し、今代の四天王や十二人衆、シロがいるその部屋に大全師とクロ、更には先代の四天王がいないことに直ぐ様気付いた。
そしてそんなリゥの言葉にレイたちが目を伏せる中、シロがリゥの前に立つ。
「クロは、リゥ様を初めとした皆様のために力を行使したのです。それに後悔はありませんし、私もクロの決断を誇りに思っています。ですので、皆様が気負うことでは決してありません。もしもクロのことを少しでも思ってくださるのなら、どうか彼女の決断を讃えてあげてください」
「――そっか、そうだな。ん、その通りだ。俺たちのためにやってくれた事なんだから、俺たちがすべきは感謝とその功績を讃えることだよな」
「正直、大全師の方はどう思えばいいのかよくわっかンねぇけどな」
「まぁ、そっちもそっちで特に考えることじゃねーだろ。何か考えるくらいなら、大全師の仇であるタイラントを討つぞ」
シロの訴えは、その場にいる全員が頷ける。自分たちのためにやってくれたクロの行為を哀れむのは、明らかにお門違いな話だ。その行動に助けられたのならば、それは感謝するのが道理。
変わらぬ過去を悔やむのではなく、今の現状を如何に理解しその先に活かすか。それは大全師にも言えることで、リゥたちには今後の聖陽郷の為にも尽力する義務がある。
これ以上不毛な会話は続けずに、これからの為の作戦を立てる。それが今残された者に出来る、最大限の恩返しなのだ。
「先ずやらないといけないのは、聖陽郷の復興と戦力の増強。更に裏世界に向かうメンバーの選抜と、裏世界に行く方法だな」
「聖陽郷の被害は、主にセントしか出ていない。ノーマントは元々人があまり住んでいないし、あの場所は人が住むどころかほぼ放置されていた場所だ。後回しにしても大丈夫だろう」
「セントに至っても、こちらに残っていた先代のお二人が出来る限りは手伝って下さっていたはずです」
「――後は聖陽郷以外に被害が出ていないかの確認と、協力も求めてみるか? もし裏世界の連中がこっちに来るなら、狙いは聖陽郷だけに留まらないだろ」
シロの言葉に士気を取り戻し、リゥたちは早速作戦を練り始める。
今回の戦闘は迷い森から宮廷周辺のセント、そしてノーマントの山岳地帯。迷い森とノーマントは元々人の住める場所ではなく、実際人は住んでいない。
しかし、セントだけは正反対だ。人口も多く物流も多い。本人の怪我や家などの損壊など、被害の数は決して少なくない。
リゥを初めとした聖陽郷の主勢力は、その被害を食い止め最小限に抑えるだけでなく、その後の復興にも尽力する義務がある。
「そうだね。聖陽郷以外が被害に遭っていることは考え難いけど、無いとも言い切れないのが現状だ。セントの復興がある程度進んだら、次はその外にも行った方がいいかもね」
「まぁどの道最優先はセントの復興だな。宮廷はもうもぬけの殻だから後回しにして、宮廷周辺の被害が大きいところから優先的に進めていくか」
一度士気を取り戻したリゥたちの行動は慣れていないと置いていかれるほどに早い。やるべき事があればそれについての議論などなく、やるべき事全て熟す。
その行動力の根源こそが、四天王や十二人衆たちの実力だ。どんな状況にも対応できる彼らの地力が、直ぐに動き出せる理由となっている。
「そしたら宮廷周りの復旧には俺と十二人衆で行く。ゴウたちは宮廷から離れたところとセント以外の偵察にも一応行ってくれ」
「了ォ解。したら俺がセント以外の偵察に行って何かあったら合図打ち上げるから、見落とすなよ」
「そしたら僕とゲンで宮廷から離れたところの復興だね」
リゥの指示に素早く反応し、直ぐに自分たちの役割を決める四天王。十二人衆に至ってはリゥの指示に従うのが当たり前とばかりに頷くだけ頷き、もう既に準備を整えている。
「シロとアイたちにはここで待っててもらって、全体の把握と優輝たちのこと頼む。――アキラは俺と一緒な」
「あ、うん。分かった」
四天王と十二人衆に続き、シロたちの役割も一瞬で決めるリゥ。そんなリゥにアキラも個別に指名され、若干戸惑いながらも二つ返事で快諾。
しかしアキラだけの特別扱いに、翼は全く納得がいっていない。
「え、待ってよ龍翔くん! 俺は!?」
「翼たちにはまだ話してないことが多いから、皆とここで待っててね。知らないまま行くと危ないこともあるから」
「でも……!」
「大丈夫。ちゃんと戻って来るから。今やることが一段落したら色々話すから、その後な?」
この世界に残ることが決定しても、やはり少しでも離れるのは怖いのだろうか。しかし、未だリゥのことを龍翔と呼ぶ翼たちはまだこの世界やリゥに慣れていない。
大きな戦闘こそないだろうが、それでも人民救助や建物の再建、治安維持などには想術なども使う。その都度都度で戸惑われては時間もかかるし、何より慣れないことが続けば翼たちの方が疲れてしまう。
「ん……分かってる……けど……」
そんなリゥの判断は傍から見てもやはり正しく、それは翼も分かってはいる。そしてそれを受け入れ飲み込もうとも頑張ってはいるが、やはり急にいなくなられ二ヶ月を過ごした翼たちの不安は尽きない。いつまたいなくなってしまうか分からないと、気が気でないのだ。
「――分かった。そしたらアイとシロ、協力してくれるか?」
「協力……ですか?」
「ええ。勿論、私たちにできることなら何でも協力致しますよ」
どうしても不安が尽きない翼は、リゥの言葉に頷きながらもその袖を掴んで離さない。そんな翼の気持ちをリゥも蔑ろにすることなど出来ず、少し頭を捻りながらシロとアイの方に首を傾ける。
「アイの眼で俺のことを追って、それを翼たちと共有することって出来るか?」
「共有ってことは、みんなで見れればいいんですか? だとしたら僕に捕まっててくれれば見えますよ!」
リゥの問い掛けに、アイはにこやかに微笑んで答える。
アイの魔眼は『視る』という能力を全て包含していて、リゥの動向を追うことなど造作もない。更にはその視覚の共有も出来るというサポートに関してはこれ以上ないほどに優秀な能力だった。
「お、そうか! そしたらみんなと一緒に俺の事見ててくれ。それでもしも俺がそこから無駄に離れたり危なくなったりしたら、シロが翼たちを連れてきてくれ」
「危なくなったら連れて行っては駄目なのでは?」
「危なくならない。――それは信じらんねぇかな?」
「そういう事ですか。それなら問題ありませんね。実質、今の段階でリゥ様が危険に晒されるなら誰が行っても無意味でしょうし」
リゥの提案に一度首を傾げたシロだが、その後のリゥの言葉に一瞬で納得。
シロの最後の言葉は少しそれはそれで問題のあることだが、今のリゥが窮地に立たされることなどそうあったことではない。今の現状で万が一にもリゥがピンチになるのであれば、それはもうどうしようもない事だ。
「翼たちも、それでいいか?」
「――本当に戻って来るんだよね? いつ? 今日は戻って来る?」
「あー……うーん……」
やはり、突然行方不明になった龍翔らを二ヶ月も捜し続けていたことは、翼たちにとって相当な不安を与えていたのだろうか。万全にさえ思えるリゥの提案にも、翼はなかなか承諾出来ない。そしてそれは言葉に出さないだけで、優輝たちにも言えることだった。
今の翼の質問に即答できなかったリゥを見る優輝たちの目は、全員が翼と同じ心配を隠しきれないものだ。
「――こうなったらやっぱり動きを変えようか。リゥは今から日が落ちるまでの一時間だけ、十二人衆のみんなと全体の様子を見て来てくれ。そこで被害の規模を三段階に分けて、どうしても危険そうな時にだけそこに十二人衆を数人ずつ加えていく。それでもまだ危ない箇所があればそこにリゥも加わって、後は現地の特戦隊や特援隊に任せよう」
「いや、そうして貰えるのなら有難いけど、それでいいのか? 出来るだけ早く復興を進めた方が……」
「復興も勿論大切だけど、彼らの不安はリゥでないと払拭出来ない。彼らの心配は最もだし、そこは僕たちがカバーするさ。特にリゥは今回の戦闘で頑張ったんだから、今度は僕たちも頑張らないとね」
悩み続けるリゥの肩にポンと手を置き、優しく微笑むレイ。レイたちも初代四天王や幹部たちの相手をして戦闘に貢献しているはずだが、そこはやはり四天王随一の優男と言われる者の配慮だろう。リゥにも翼たちにも負い目を感じさせない圧倒的なフォローで、その場をあっという間に収束する。
「ん、分かった。それでいいよな、翼?」
「本当に、ちゃんと戻って来るよね?」
「戻って来るよ。当たり前だろ? だから、一時間だけ待っててくれ。それが終わったら今日はゆっくりして、復興も完璧に終わったら一緒にイチャラブしよーな」
「――ん! 約束だからね!」
最後の最後まで心配そうにしている翼の頭を撫で、久々の冗談で翼の顔に笑みを浮かべさせるリゥ。そんなリゥの言葉に、翼の不安も少しは払拭することが出来た。
「よし、そしたら行ってくるな! ――シロ、アイ、頼んだ!」
「ええ。お任せ下さい」
「本当にちゃんと戻ってきてね!!」
廊下を出たリゥにシロは頭を下げ、翼は大きく手を振りながら見送る。
そしてリゥとアキラに十二人衆やゴウたちも続き、愈々本格的な復興作業が開始した。




