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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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90話:最強と最強の決着

 約百メートルの距離を置き、リゥは名無(ナム)に向けて無数の氷柱を展開。奥にいる名無(ナム)を視認出来るかどうかという程の数の氷釘(アイスニードル)を無詠唱で発動し、その全てを一斉に放つ。


 ――九十メートル。


 一斉に放たれた氷柱を走りながら避け、不可能と判断した物を指先から放つ微弱な波動で相殺。最低限の威力で受けても問題ない程度まで細かく砕けた氷を全身に浴びながら、避けきれるものは確実に避ける。


 ――八十メートル。


 無数の氷柱の次は、目に見えない風の斬撃――透明風刃(ステルスブレイド)。目視では確認出来ない風の斬撃に、名無(ナム)は割り切って目を閉じ視覚を完全にシャットアウト。目からの情報を遮断し、その分空きの出る脳の処理能力で音の情報を処理して回避する。


 ――七十メートル。


 氷と風の次は地。隆起、沈降、地割れ、液状化、その他害悪な地形状況の中で、土で作られ念力で操られる土人形(ゴーレム)を相手にする。

 隆起、沈降はともかく、泥、砂は分かりにくく足を取られ、地割れに至っては足場がなくなる。そんな中で名無(ナム)は波動で砕いた僅かな石片を足場にして素早く移動。更にはゴーレムの腕や頭に乗り、攻撃される前にその場から退避。ゴーレムを完全に無視し、戦闘を避けた上でその場を乗り切る。


 ――六十メートル。


 名無(ナム)の身軽さを潰すべく、重力をかけて機動力を奪った上で想術を放つリゥ。

 しかし、名無(ナム)は数十倍にされた重力下でも何ら変わらぬ速度で動き続け、見兼ねたリゥは名無(ナム)が想術を避けるべく跳ぶ直前にその場を無重力化。さらにその場で足場に出来るような土や氷の想術を止め、完全に無形の波動を放つ。

 が、しかし。使い始めたばかりの波動ではそれを創り出した名無(ナム)に効くわけがない。瞬時にその波動を察知し、名無(ナム)は向かってくる波動よりも若干弱めの波動で威力を緩和。そしてその微弱な波動に当たった名無(ナム)の体は天井まで押され、漸く捉えた足場を使い再度リゥに近付く。




 多数攻撃の回避、不可視攻撃への対応、最悪な地形の踏破、数十倍から無重力まで重力適応――約半分の距離を詰めた今までの名無(ナム)の行動は、どれもほぼ最適解に近い対処だろう。

 しかし、今までの半分はリゥも様子見レベルだ。重力のところでは攻撃用に幾つか別属性の想術も放ったが、それ以前はほぼ一属性の単体攻撃。複数属性の重複こそが、リゥの強みだ。


 ――五十メートル。


 上空から距離を詰める名無(ナム)に向けて、リゥは再び風の斬撃と炎弾(バレット)を放つ。

 しかし、今回の想術はただの二種同時攻撃ではない。炎弾(バレット)と共に放たれた風の斬撃は、不可視な上に音の想術で無音化された攻撃。炎弾(バレット)は敢えて把握しやすいものを混ぜることにより本命を確実に隠すための囮だ。

 そんな不可視無音の斬撃に、炎弾(バレット)だけを警戒し躱していた名無(ナム)は容赦なく体を切り裂かれる。


「――!」


 しかし、そんな攻撃が効くのも最初の数回のみ。一度当たればその存在に気付き、二度、三度続けば大凡はカラクリが理解出来る。そして名無(ナム)ほどの実力者であれば、カラクリさえわかれば対処は容易だろう。

 案の定、名無(ナム)は三発目からその風の斬撃を避ける。


 名無(ナム)が今回の攻撃を見切れた理由は、シンプルだが人間離れしたもの。

 不可視無音の攻撃。視覚でも聴覚でも把握出来ない攻撃に、名無(ナム)は触覚を研ぎ澄ませた。攻撃が到達する前の僅かな空気の振動を逸早く察知し、その後の一瞬で迫る攻撃から逃げる。

 勿論、名無(ナム)のような底知れない実力があって初めて可能となる芸当だ。


 ――四十メートル。


 風の斬撃と炎の弾丸を躱し切った名無(ナム)に、リゥは炎と水の幕を何層にも重ねて展開。高温と低音が名無(ナム)の移動速度に比例して交互に迫り、その幕の中には視界を塞ぐと同時に嫌がらせ程度の攻撃が出来る鋭い枝や茎、葉、さらには氷や岩の礫を散布しておく。


 ――三十メートル。


 炎と水の嫌がらせゾーンを両腕のガードのみで脱出した名無(ナム)に向け、リゥは発動準備していた想術を集中砲火。しかも、今回の想術は前回のように予め置いていたわけではない。想術を構成し放つ準備をしていただけで、最初の第一陣以降はリゥが状況を判断して種類、威力、軌道を細かく調整する。


 先ず第一陣は、前回のように発動場所を設置して放つのみだっただけの想術。炎砲(ショット)水矢(アロー)風刃(ブレイド)氷釘(ニードル)岩弾(バレット)雷刀(サーベル)といった攻撃主属性の基本的な想術を一斉に放つ。

 次に第二陣。躱せる範囲で想術を躱しほぼ波動には頼らない名無(ナム)の行動に、リゥは数での攻めを断念。念力や重力で動きを制限しつつ、土や氷、自然の想術で行動範囲も狭める。

 たった数メートル四方にリゥは数々の想術を詰め込み、着々と名無(ナム)の体力を奪うリゥ。そんなリゥの想術に名無(ナム)はその数メートル四方の範囲から脱出することが出来ず、愈々動きが乱れる。

 今まで波動での相殺も含め全ての想術を躱し続けていた名無(ナム)の体が、入り組む無数の蔦の一本に掠める。


「――!」


 名無(ナム)が僅かに見せた一瞬の綻び。これまでの攻撃を完全に躱して来た名無(ナム)の一瞬の隙に、リゥは目を光らせる。


炎雷炸裂砲(ライトニングフレア)ッ!」


「がッ、あァァァァァァァァァ――ッ!!」


 リゥの詠唱に、名無(ナム)の苦鳴。死の百メートル走が始まってから、二人はこの瞬間に初めて言葉を出した。


 リゥが詠唱までして放ったのは、炎と雷が螺旋状に絡まり合った砲撃。それも正面からの一本ではなく、四方八方から名無(ナム)を包囲し何十本という砲撃が一斉に放たれたのだ。

 そんなリゥの攻撃をまともに食らい、名無(ナム)は初めて叫ぶ。


「ぅ、くっ……」


 リゥの炎雷炸裂砲(ライトニングフレア)を食らい、片膝を突く名無(ナム)。回避と防御の技術が高く断崖絶壁とも言えた名無(ナム)が、今回の戦いで初めて崩れた。


 が、しかし。一度崩れれば脆い、などと言えるほど名無(ナム)という男は甘くない。初めて真面に攻撃を受け声を上げたものの、攻撃が続く中で再び名無(ナム)は立ち上がる。

 そんな名無(ナム)にリゥは攻撃を止め、次の攻撃の準備に入る。


「ここからが本番だ。想術と体術と、もう一つの俺の武器。準備はいいな?」


「聞くまでもないだろう――!」


 ――二十メートル。


 どんどんと近付く名無(ナム)に、リゥは未だ攻撃を仕掛けない。両目で名無(ナム)をしっかりと見据え、近付く名無(ナム)の軌道をじっと見つめ続ける。


 ――十メートル。


 名無(ナム)がすぐ目の前まで迫った瞬間、リゥは膝を曲げて深く腰を落とし地面に握った拳を突く。


「――想技、追尾(チェイサー)


 静かにそう呟くと、リゥの尾骶骨周辺から四本の尻尾のようなものが出現。突然生え始めたその尻尾は波打つように畝り、リゥの身長を優に凌駕した。


 そして未だどんどんと伸び続ける尾は四方向に分かれて名無(ナム)を襲う。


 先ずは一本目。生え際から直ぐに百八十度曲がり、正面から名無(ナム)を襲う一本。そして残り三本は左右と上に別れ、名無(ナム)の上を通り越した尾は背後を取った。


 左右と前後から挟まれた名無(ナム)は上へ跳ぶが、只管に伸び続ける尾は継続して名無(ナム)を追い続ける。

 そんな尾の一本を掴み、名無(ナム)は大きく体を回旋。迫り来る尾から尾へ段違い平行棒のように移り渡り、四本の尾を上手く躱す。


双甲(ブレーサー)


 名無(ナム)が四本の尾を抜け距離を詰めると、リゥは自分の両腕を武装。伸ばしていた尾を素早く引き戻し、扱いやすい長さまで戻す。

 そして武装した両腕と腰から生える四本の尾で、リゥは名無(ナム)を迎え撃ち。一定の場所に留まっていたリゥが、愈々その場から動き出す。


「ここからは――」


「接近戦だッ!」


 名無(ナム)の拳と、リゥの拳。二つの拳が空中でぶつかり合い、大気を揺らす。ほぼ互角のパワーがぶつかり合った直後、逸早く次の攻撃に移ったのはリゥだ。拳一つでは押し切れないと見切ったリゥは、四本の尾を一本に束ねて名無(ナム)の脳天目掛けて振り下ろす。

 しかし、名無(ナム)はそれを素早く察知しその場から退避。するとリゥはそんな名無(ナム)に間髪入れずに突っ込み、右手の装甲を鋭く尖らせ斬りかかる。

 空を斬って振り翳されたその(やいば)に、体を仰け反らせて回避を試みた名無(ナム)。しかし、名無(ナム)を襲う刃の到達の方が僅かに早い。分厚い名無(ナム)の胸筋に切っ先が僅かに触れ、掠っただけとは思えないほどに鋭く胸を割く。


「く……っ! かふァっ!?」


 空を斬るほどのリゥの斬撃――その本来の脅威は、切っ先より伸びる無の刃。不可視などではなく、完全に存在しないもの。よって目に見えるだけでは掠っただけの攻撃でも、実際はそれよりも深く鋭く斬られている。


 リゥの斬撃を受け、名無(ナム)は胸から激しい血飛沫を上げて吐血。そのまま空中で体勢を崩し、ゆっくりと地面へ落下する。


「これで終わりだ」


 地面へと落下する名無(ナム)を追い、リゥは降下しながら静かにそう呟く。

 そして真下にいる名無(ナム)へと右手を伸ばすと、目を凝らして漸く見えるかというほどに細い糸が出現。リゥの右手から伸びたその糸は名無(ナム)の心臓部分を通過し、そのまま地面へと伸びる。


「――見事」


 己が心臓を通過した糸に何かを察知したのか、一言だけ短く発した名無(ナム)。そんな名無(ナム)にリゥは降下の速度を上げ、名無(ナム)を追い越して地面に着地。そして後から落ちてくる名無(ナム)の体に手を伸ばし、静かにその体を抱える。


「俺に奥義の一つでもあれば、そっちの方が良かったんだろうけどな」


 そう呟いたリゥの腕の中には、もう既に瞼を閉じて静かになっている名無(ナム)の姿がある。

 最後にリゥが放った糸に何があったのかは不明だが、叫ぶことも表情の曇りもなかったことから痛みや苦しみはなかったのだろう。ただただ寿命を迎えただけかのように、名無(ナム)は静かに息を引き取ったのだ。




 そうして、リゥと名無(ナム)――今代と初代の四天王。その最強同士の対決は終止符を打った。

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