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二度目の四天王ライフ  作者: 羅弾浮我
第一作:〜異世界への突入、『聖陽郷』での波乱〜
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88話:新たな戦術

「今更、開始の合図は?」


「いらねェ――なッ!!」


 言い切りると同時に無数の炎を乱発し、名無(ナム)に向けて集中砲火するリゥ。そんなリゥの攻撃に名無(ナム)は地面蹴って後ろに飛び退き、それに合わせて放たれた炎を後ろの壁を蹴ってさらに避ける。

 二段階に分けて炎弾を避けた名無(ナム)は天井を足で蹴り、器用に炎を避けながらリゥに近付いた。


「――そう簡単には近付かせないけどな!」


 炎を避けて迫り来る名無(ナム)と自分の間に、リゥは炎幕を展開。接近するための軌道と共に視界を遮り、リゥはその隙にその場から移動しようとする。


 しかし――、


「今更この程度、熱くなどない」


「うーわ……それは感覚麻痺ってんだろ」


 展開した炎幕を、ガードなしに掻い潜って迫る名無(ナム)。リゥの炎に平気で突っ込む名無(ナム)は、顔色一つ変えていない。


「でも、このフィールドなら俺の方が速いぜ」


「――!?」


 炎幕をすり抜けてきた名無(ナム)は、そのままリゥに攻撃を仕掛ける。が、しかし。そんな名無(ナム)の攻撃が到達する前にリゥはその場から退避。

 走るでもなく飛び退けるでもないリゥの移動法に、名無(ナム)は目を丸くした。


「――氷刃(アイスブレード)。今の知識と体があれば向こうの世界でスケート世界一になれた気もするんだけどなぁ……」


 名無(ナム)の攻撃の軌道からスーッと滑るように外れたリゥ。そんなリゥの足には、スケート靴のブレードのようなものが付いている。


「氷で先端の鋭い刃を形成し、そるにより氷の上を滑走する。確かに氷上ならそっちの方が速そうだな。――だが、結局は氷上ならの話だ」


 名無(ナム)の攻撃を躱し、得意気に氷上をクルクルと回るリゥ。

 しかし、そんなリゥの余裕と同じほどの余裕を名無(ナム)も持っている。氷上を軽やかに舞っているリゥに笑みを浮かべ、名無(ナム)はその場で強く氷を蹴った。


「おぅわっ!?」


「わわっ!?」


 名無(ナム)が地面を蹴った直後、待機室を含めた実験室が大きく振動。その揺れにリゥやアキラたちの体勢が崩れ、さらには実験室の床を覆っていた氷が全面砕け散った。


「でも、これだけで終わりじゃない」


「あッ……ざっふっと、れ、ばッ!? おぅるそぉれば、わったっつぁぁァ……炎爆(バースト)!」


 名無(ナム)の蹴りによる振動で体勢を崩し、砕け散ってしまった氷に呆気に取られるリゥ。一瞬だけ気遅れした直後、更に畳み掛けるように砕け散った氷の破片がリゥに牙を剥く。

 全方向から一斉に撃ち込まれた氷の破片を変な言葉を発しながらギリギリで躱し、リゥは隙を見て想術を発動。自分を中心とした三百六十度全方向に炎を放ち、爆発で氷を相殺する。


「あっ、ぶねぇ……! 全身ボッコボコになるとこだったぜ……」


「――手、抜いてないか? 先の戦いの時はもっとギラギラとした闘争心があった。しかし、今はそれが全く見られない。何故だ?」


 全ての氷を焼き払い、一つの傷もなく完全にやり過ごしたリゥ。

 額の汗を手の甲で拭い満足そうに笑うリゥに、名無(ナム)は声のトーンを下げて目を細める。


「んー……癖、か? ほら、戦いも身内でやると楽しくなるー的な」


「茶化すな。身内との戦いで遊んでいるような者が、あれほどの実力を手に入れられる訳が無い」


「いや、俺が強くなったのは龍神族と鬼神族の血で……」


「血だけであれほど強くなれるわけが無い。いくら素質があったところで、人並み以上に努力をしなければその素質も輝かない」


 名無(ナム)の問いに、リゥは頬を掻きながら笑って返す。

 しかし、そんな程度の返答で名無(ナム)は納得しない。初代四天王の中でも一番実力があり、その実力は今のゲンを相手にして余裕のあるほど。

 それほどまでの実力を持つ名無(ナム)が、覚醒したリゥを相手にした瞬間手も足も出なくなった。しかも、アキラを庇いながら戦っているリゥにだ。


「少年を庇いながら戦えるお前が、今の状態で戦えないわけが無い」


「――それは、多分違うぞ」


 名無(ナム)言葉に、チャラけて誤魔化していたリゥの表情が変わる。


「何?」


「確かに、あの戦いはアキラを庇いながら戦った。でも、あれが本気じゃないというのは違う。俺にも理由は分からねぇが、アキラを庇っていたあの状態が俺の中で一番強い状態だったと思う」


 目を細め、声のトーンを落とす。名無(ナム)と全く同じ変化で雰囲気を変えたリゥに、名無(ナム)は首を傾げた。

 しかし、リゥのその変化は決して狙ってやったわけではない。名無(ナム)の言葉がリゥの中の何かに触れ、漸くリゥが真面目に言葉を返す気になったのだ。


「人を庇う戦いが、一番強い状態? ――分からないな。弱い者を守りながら戦えばその者に意識を割いてしまいそれだけ戦況は不利になる。何も気にせず戦うのが一番のはずだ」


「いや、そうでもないだろ。現にレイはあいつ自身の能力もあって精霊を使役して戦った方が強い。戦闘力で言えば最弱同然のミニィを連れて強くなる戦い方だ」


「それは話が違うだろう。その者は精霊から微弱であっても力を借りている。しかし、先の戦いであの少年がお前に力を貸していたとは思えない」


 戦いの最中、お互いに一歩たりとも引かないリゥと名無(ナム)の意見がぶつかり合う。

 しかし、第三者目線で見れば名無(ナム)の言葉の方が正しいのは明らかだ。戦闘に於いてそれに参加出来ない者を庇って戦うのは困難を極める。


「――それについては俺もよく分からねぇ。でも、俺はあの戦いでアキラが邪魔だとは一度も思わなかった。寧ろ、アキラがいたからあの結果が出たと思ってる。あそこでアキラが俺のところまで来てくれなかったら、俺はあのまま殺されてただろうしな」


「確かにそれはあるかもしれない――が、その後の戦いは別だ」


「どうだかな。このままじゃ話は平行線になりそうだ。俺がこれから本気を出す。それじゃダメか?」


「いいだろう。元はと言えばそういう話だ」


 平行線、もしくはいたちごっこ。そんな言葉が確かに今の現状にはあっている。

 多くの人の意見として、名無(ナム)の言葉は間違ってはいない。しかし、リゥ自身はアキラのいたあの戦いが万全なものだったと思っている。なれば、話は他にズラすか戻すしかない。そして今回は、戻す話――戻すべき話がある。


 そしてリゥは愈々、先刻目覚めたばかりの本来の力――その片鱗を見せる。


「――――」


 一瞬。瞬きする間もない、まさに一瞬。コンマ一秒にも満たないその僅かな時間に、リゥは名無(ナム)の前から姿を消す。

 しかし、これはさっきの様な小細工ではない。一瞬で名無(ナム)の後ろに回り込み、それに気付く暇も与えずにリゥは次の攻撃に入った。


「ぅぐっ!? いつの間に……!」


「さっき指摘された通り、直線的な高速移動だ。目で追えなくても軌道の予想はつく。なら、予想した後行動に移すまでの時間――もっと言えば頭で予想する時間さえ与えずに攻撃を仕掛ければいい」


 名無(ナム)の背後に回ったリゥは、そのまま名無(ナム)の右腕を後ろに捻り上げる。

 普通では曲がらない方向に捻り上げられた腕は元の状態に戻ろうとし、名無(ナム)ほど体を鍛えていれば元に戻ろうとする腕のバネもより強固なものとなっている。そのバネを逆に利用し、捻りに捻り上げたリゥは一瞬で力を抜き名無(ナム)の腕を解放。それと同時に軽く名無(ナム)の体を押し出すことで、名無(ナム)の体は勢い良く回転しながら壁に向かって一直線。


「――ッ、くっ。んァァッ!」


 しかし、勢いよく投げられただけで壁に叩き付けられるほど名無(ナム)の戦闘センスは低くない。体の回転を瞬時に把握、計算し、壁に到着するまでの時間と体勢を算出。そこから体の回転速度を僅かに調整し、完全に受身を取った。

 そしてさらに壁に到着した瞬間の力を利用し、投げられた軌道を引き返す。


「そう言えば、作用反作用の法則……とか学校でやったな。ま、いちいちんなこと覚えてねぇけどッ!」


 頭を使った名無(ナム)の戦いに、リゥは努力で磨いた素質をぶつける。


 右手で氷、左手で土を構成。体の前で両手首を合わせ、手のひらを名無(ナム)に向けたリゥ。そして次の瞬間、氷と土が螺旋状に捻れ柱が名無(ナム)に向けて放たれる。


「その程度……」


「避けることなら造作もない? 果たしてそうだろうか……」


 迫る柱に体を回転させて勢いを殺し、その柱を上手く躱そうとする名無(ナム)。しかし、その程度のことはリゥも既に学習済みだ。

 案の定回避の動作に入った名無(ナム)に、リゥは微妙な笑みを浮かべる。


「開……」


「――!?」


「からの閉」


「開」の詠唱で、お互いに巻き付き合っていた氷と土が二手に別れる。そして平たく伸びてその面積を広げ、上下から名無(ナム)に覆い被さるように展開。「閉」の詠唱で二つは球状に名無(ナム)を覆い、氷と土の縁が接着すると再び二つは混ざり合うようにして包み込む。


「――正直自分で使ってて胸糞悪いけど、思った以上に使えそうな技だ」


 そう呟くと、リゥは右手の中指をポキッとならし奥歯で強く歯軋りをした。

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