6 森の動物たち ~暗闇を走るのは危険です~
むかし、むかし、あるところに、森の中を風よりも早く駆け抜ける五匹のオオカミとその中の一番大きなオオカミの背にしっかりとしがみついて乗っている赤いずきんを目深に被った少女がいました。
(怖かった~~~。)
シャルマントはザバンの背に跨り、深く被った赤いずきんの中で固く目を閉じ、恐怖で体を強張らせてザバンの毛をしっかりと握っていました。その恐怖は森を飲み込んだ鉄砲水ではなく、髭もじゃの騎士団長が怒った顔です。
(あんなに怒らなくても・・・)
シャルマントはせっかく危険を教えてあげたのに、むちゃくちゃ怒られたことに理不尽さを感じています。そして、
(あれっ? 良い事したのに、ピコってしないな~。)
(ああそうか、突然で、騎士様たち困っていなかったのよね。)
(あ~~残念・・・、あんなに多くの人がいたら “良い事したねポイント” がい~~っぱいたまったのに。)
(それなのに、あんなに怒るんだったら、もっとぎりぎりで教えてあげて、もっとも~っと怖い目に会わせてやればよかったのかしら。)
などと思うと恐怖に怯えていた気持ちが少し和らいで、ニヤリとしました。
しばらく森の中を駆けていたザバン達は安全な所にまで来ると、お互いの無事と少しの休憩をとるために立ち止まりました。
シャルマントはザバンの背から降り、周りの森を見回すと、自分達と同じように逃げてきたであろう多くの動物たちがその無事を仲間同士で分かち合うように、首を回したり、体をこすり合わせたりと、動物たちそれぞれ絆を伝え合う動きをしているのが見えました。
近くには鹿の親子もいます。
「キケキケピコピコ キクキクピョンピョン
キイタラズンズン ハヨノビロ、 鹿さん。」
シャルマントは例の呪文を唱え、その鹿の親子の会話を聞きます。でも以前とは違っています。そうなのです、シャルマントはカチューシャの上に手を乗せていないのです。
そう、この呪われたような、魔女のイタズラで付けられた聞き耳カチューシャも一年近く、毎日、毎日、何回も使っていたことで、シャルマントはカチューシャに手を乗せなくても動物たちの会話が聞けるようになっていたのです。
「ここまで来れば大丈夫よ。」
母親の鹿が小鹿の首に優しく頬をこすりながら言います。
「ねえ、あれは何だったの?」
小鹿も少し首を傾けて聞き返します。
「森の奥にある湖が壊れたらしいの。」
「湖?」
「そうよ、前に行って、その湖の畔で水を飲んだでしょ、あの湖よ。」
「ああ、あれ。僕が頑張って走っていった所だね。」
「そう、その湖が壊れたの。水を止めていた木が崩れたの。」
「どうして壊れたの? 雨も降っていないのに。」
「時々あるのよ。あの湖は動物が作ったものだから。」
「動物?」
「そう、ビーバーっていう動物なの。」
「ビーバー?」
「そうよ。木を切って、その木で川をせき止めて湖を作る生き物なの。それで、いっぱい木を積み上げて水をためていたんだけれど、その木が崩れてたくさんの水がいっきに流れ出して襲って来たのよ。」
「へぇー、怖いね。」
「しばらくしたらまた木を集めて湖を造ると思うから、それまでは遠くに行っていましょうね。」
「うん! また湖でお水飲みたいな。」
「そうね、楽しみに待ちましょうね。」
シャルマントは鹿の親子の話を聞いて、
(へぇ~~、ビーバーっていう動物さんも居るのか。木を切って湖まで作っちゃう動物さんってどんな姿をしているのかしら。)
(村にいる大工さんも大きな木を持ち上げていたから、きっとビーバーっていう動物さんも大工さんのように力があって、体も大っきいんだろうな~。)
などと太い腕を有し、切った大きな木を担いで立って歩く変な動物の姿を想像していました。
「シャル様、もうこの先へは行けませんね。まだ明るいので、少し遠回りして村に戻りましょうか。」
ザバンが言いました。
「そうね、残念だけれど、遠回りなら行ったことのない所だから楽しみよ。」
そうシャルマントが答え、再びザバンの背に乗ると、オオカミ家族は一斉に走り出しました。
どれくらいの距離を走ったのでしょうか。日はすでに傾き、遠くの山は茜色の空に覆われ、その姿を暗い色に変えています。
村に戻ったシャルマントは、森との境でオオカミ家族と別れ、自分の家へと速足で向かっています。
もうすぐお母さんが待つ家です。
楽しかった今日の冒険をお母さんに早く聞かせたくて、気づいたら走っていたシャルマントは近くの家の角を曲がったところで人とぶつかりそうになり慌てて止まります。
そして、ぶつかりそうになった相手を見上げ・・・。
「スミマ・・あっ・・・・・。」
今、ダムの放流を見学するのが流行っているらしいのですが、
大きなダムから噴き出してくる水流の勢いって凄いですよね。
実際に見てはいないのですが、映像からそう感じます。
自然界でのダムはビーバーが作ったものが有名ですが、
ビーバーの造ったダムの決壊は、思っているよりも頻度が高いらしいのです。
怖いですよね。




