5 行っちゃダメ ~ゴゴゴゴ ドーン~
むかし、むかし、崖に沿って進む細い街道の途中、王さまと王子さまを乗せた馬車の一行をその街道の真ん中に立ち、進行を止めるモノが突然現れました。
「どう! どうどう。」
隊列の先頭にいる騎士団長は、突然目の前に現れたモノに、騎乗している馬が怯え暴れているのを何とか静めます。
馬が落ち着いたところで、隊列を止めたモノに視線を向けると、そこには道の真ん中に大の字で立つ赤いずきんの少女、シャルマントの姿がありました。
そのシャルマントの後ろには五匹のオオカミがうなり声を上げ、騎士団長の馬を睨みつけています。
「お主は誰・・。」
騎士団長が怒りを込めて発した言葉を遮るようにシャルマントは叫びます。
「ダメっ! 行っちゃダメ!」
シャルマントは馬上の騎士団長に顔を見られまいと赤いずきんをより深く被り、少しうつむいて、その赤いずきんで覆われた中から真剣な眼差しだけを騎士団長へと向けて再び言います。
「行っちゃダメなの! 森の動物たちが逃げろって言っているの!」
その言葉が終わると、ザバンが首をもたげ、
「ウォ ウォ~~~!」
と雄叫びを上げます。それに続き家族のオオカミ達も
ウォ~~~
ウォ~~ ウォ~~
と雄叫びを上げると、崖の上に広がる森の中からも、どこからともなく多くのオオカミ達の雄叫びが王さまの隊列を包むかのように響き渡りました。
それに反応するように、騎士団長や他の騎士たちは辺りを見回し、警戒して腰の剣を抜きます。
馬車の中に座っている王さまは微動だにせずしっかりと前方を見据えていますが、王子さまは怯え、それをお付きの者が寄り添って周囲へと警戒を張っていました。
王さまの隊列の行く手を妨げたのが赤いずきんを被った少女だと分かると、騎士団長は顔を真っ赤にして怒りだし、
「こぉら! 王の隊列だと知っての事かー!」
と大声を上げます。
そのあまりにも大きな声にシャルマントは怯え、大の字に広げていた手を縮こませると、すぐさま騎士団長とシャルマントとの間にザバンが飛び込んできて、その鋭い視線をさらに鋭くし、下から騎士団長を睨みつけるようにして、ウ~~ウ~~と唸りシャルマントを守ります。
シャルマントは突然目の前に現れたザバンの大きな体にほっとし、少しだけ勇気が戻ったのを感じて、再び騎士団長に向かって強く言いました。
「ダメなの、湖が壊れたから逃げろって森の動物たちが言っているの。」
その言葉が終わるや否や、ゴゴゴゴゴという音と共に地面が下から突き上げられるように揺れだしました。
次の瞬間です。
ゴゴゴゴゴゴゴ ド~~~ン!
行く手のすぐ先に見えていた小さな川の上流の崖から大量の濁った水が一気に噴き出して来たではありませんか。しかも、その濁った水は土の茶色というよりは真っ黒な泥の色をして、周りの木々や大きな岩を飲み込み、その幅を大きく広げながら崖の上から飛び出していきます。
ゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴ
そうです、この鉄砲水は隊列がこれから通ろうとしている街道の、その先にある川をまたぐ橋をも飲み込み、轟音とともに上流から押し流されてきた多くの木や岩と一緒に太い木材で造られていた橋を破壊して、それらすべてを谷底へと落としていったのです。
その音と振動に怯え再び暴れだした馬を騎士たちは抑えようと馬上で奮闘し、馬車の中の王さまと王子さまはその光景を驚きの表情で眺めていました。
どれくらいの時間が経ったのでしょうか。
流れ落ちる水もほとんど無くなり、以前のような小さな川の流れになった時には、広がっていた美しい景色は分断され、一部の山肌は泥とむき出しの岩による黒褐色に塗り替えられ、崖に沿って続いていた街道は鉄砲水が流れたところが跡形も無くなっていました。
それを見た隊列の誰もが、
(もしあのまま進んでいたならば・・・。)
と恐怖の眼差しで流れ落ちて行った谷底をのぞき込んでいます。
やっとの事で馬たちを落ち着かせ、騎士団長が振り向くと、目の前に立ちはだかっていたシャルマントとオオカミたちの姿は消えていました。




