4 怯える王子さま ~そして立ちはだかるモノ~
むかし、むかし、あるところに、王さまと王子さまを乗せた馬車の一行がのどかな村を抜けて進んでいます。
ほどなくして、のどかな草原が広がるゆったりとした丘陵地で王の馬車の隊列はしばらくの休憩をとるために止まりました。座ったままの、固まりかけていた身体をほぐすために王さまと王子さまは馬車を降り、あたりの景色を眺めます。
王さまの名前は、『ヴァルデック゠ヴィルドゥンゲン伯フィーリップ4世』と言い、王子さまの名前は、『アルドリック゠ヴィルドゥンゲン』と言いました。
どうしたことでしょう。
素敵な景色と晴れやかな天気なのに、王子さまはうつむき、少し震えています。
「父上、やはり私は呪われているのでしょうか。」
か細い声で王子さまが王さまに言いました。
「アルドリックよ、何を言う。お前は呪われてなどいない。」
「でも、先ほどの村でも私の馬車が、突然前を横切った黒猫に馬が怯えて急に止まりました。」
「ん~~、それはたまたまだ。馬車の前を動物が横切るのはよくある事。」
「でも、でも、昨日だって、空からフォークが落ちてきて私の目の前の地面に突き刺さりました。」
「あれは危なかったな~、でも、それも偶然だろうに。」
「ではその後の事はどうなのでしょう。そのフォークを拾おうとしたらカラスが襲ってきたではありませんか。」
「それは、キラキラ光るフォークを落としたカラスが取られまいとしただけだろう。」
「でもでも、でも、何故、私だけがこんな目に合うのでしょうか。」
「たまたまだから気にするでない。今はこの視察を楽しんでおるがいい。ほら、見てみなさい、このような自然あふれる景色など王宮では見られないのだぞ。整った庭もいいが、このような木々があふれる森もいいものだ。」
王さまにそう言われた王子さまも、うつむいていた視線を上げ、隊列に沿って広がる森に視線を向けました。そして、
「そうですね、父上。このように大きな木が並ぶこの森は、どこまで続いているのでしょうか。」
そう言ったとたん、王子さまが悲鳴を上げました。
「ひぃぇぇぇ~~~~!」
王さまは慌てて王子さまに向かって聞きます。
「どうしたアルドリック。」
王子さまは震える体で、その震える手を何とか持ち上げ、ブルブルと震える指で森のある一か所を指し示します。
王さまは王子さまが示す方向に目をやり、
「どこだ。何がある。」
「・・・・・・・。」
王子さまは答えることができません。
そのただならぬ雰囲気に護衛の騎士たちは王さまと王子さまを囲むようにして、周囲に警戒を張りました。
「アルドリック、何があった。何を見た。」
「・・・森に・・・森の中に・・・。」
「森? 森の中に何があったのだ。森の中に何を見たのだ。」
「い・・今、森の中を赤いひらひらしたものが横切って行きました。」
「赤いひらひらしたもの? 先ほど通って来た村の者ではないのか?」
「いえ、人などではありません。物凄い速さで森を横切ったのですから。人の走る速さではありません。」
「おぬしの見間違えではないのか?」
「いえ、はっきりと見えました。赤いマントの様なものが、真横になって、物凄い速さで宙を飛ぶように森の中を、木々を縫うようにぶつかることなく進んで行ったのです。」
王さまは警護で取り囲んでいる騎士たちに向かって聞きます。
「誰かアルドリックの言っている様な赤いモノを見たものは居らぬか。」
しかし、騎士の誰もがそのようなモノをみてはいませんでした。
しばらくの休憩の後、王さま一行は再び進み始めます。
王さま、王子さまが乗るそれぞれの馬車に騎士団長がやってきて、
「これより先、崖沿いの街道を進みます。曲がり道も多く、路面も悪いために揺れますが、我らを信じ、ご安心してお乗りになっていてくださいませ。」
そう言い、再び隊列の先頭に向け駆けて行きました。
いよいよ崖沿いの街道に入ります。
道幅も狭く、馬車の横に騎士の馬が並ぶことはできません。
いままで来たよりも進むのをゆっくりにして、慎重に崖に沿って進んでいきます。
崖沿いの道をいくつか曲がり、やや視界が開け、進む先のほうに崖を下る川が見えました。
その時です。
先頭の騎士団長の馬がヒヒ~~ンと鳴いて棹立ちと呼ばれる両方の前足を高く上げた態勢になり、乗っていた騎士団長は振り落とされまいと手綱を強く引いて自身の体を立ち上がらせました。馬はその前足を地面に叩きつけると首を震わしながらブブゥと鼻をならして止まってしまったのです。
すぐ後ろを付いてきた他の騎士たちの馬も驚き怯え急に止まると、その場で足踏みをするように足をバタバタと動かし体と首を揺らしています。騎士たちはどうにか落ち着かせようと馬上で必死に手綱を引き、馬の首をさすっていました。
そうです。
こんな崖沿いの細い街道で、王さまの隊列の前に立ちはだかるモノが現れたのでした。
馬車には乗ったことがありませんね。
まあ、多くの方がそうだとは思いますが、どんな感じなのでしょうか。
資料では中世の頃の馬車はサスペンションが悪くて、乗り心地はよくなかったそうですが・・。
こんど、馬車の代わりに人力車にでも乗ってみようかな・・って、
乗っている人たちは皆、楽しそうですし、乗り心地も良さそうですよね。
ただ、なんとなくなのですが、少し恥ずかし気持ちが・・・。




