3 オオカミは走る ~家族旅行はワクワクです~
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんを被った女の子が、楽しそうに、軽くスキップをしながら森の中を奥へ奥へと進んでいました。背中にはお出かけ用の小さなカバンを背負っています。
いつものオオカミ家族の住む樹洞へとやってくると、すでに五頭のオオカミ家族が揃って待っていました。
「おはよう。」
シャルマントは元気にあいさつをします。
「おはよう。」
「おはよう、シャルちゃん。」「来た来た。」「待ってたよ~~。」
「シャル様、おはようございます。」
オオカミ家族もそれぞれがあいさつを返してくれました。
シャルマントは今朝もザバンの毛並みを触り、その感触と、乗り心地の再確認を行います。
そして、その背に飛び乗ると、
「ウォウウォ~ じゃあ、行こう。」
ザバンが声を放つとオオカミ家族が一斉に走り出しました。
オオカミは森を駆け抜ける。
それは風のように早く、そして、不揃いに並ぶ木々の間を、これもまた風が澱むことなく流れるようにすり抜けて進んでいきます。
以前に『妖精の泉』から戻るときは、背に乗ったシャルマントはあまりの速さに怯え、ザバンの毛を握りしめていましたが、今は違います。
風を越えて進むオオカミ家族を、そのオオカミ家族と一緒に楽しんでいました。
シャルマントを乗せたザバンが先頭を進み、その後を家族のみんなが追っていきます。ある時は広がり、ある時は列を成すその隊列の自由さにシャルマントは「凄い!」と驚きの目をしていました。
飛ぶように過ぎ去っていく景色、木々。森が開け明るいところに出たと思ったら、再び行く手を妨げるかのように並んでいる木々の間へと飛び込んでいくオオカミ達。シャルマントは思わず声を上げます。
「きゃ~~~!」
そして木々を抜け、森に飛び込むと、
「すっごーい! 楽しい~~~~!」
声といっしょに片手を前に突き出していました。
どれくらい進んだのでしょうか。森を抜けると小川にたどり着きました。
シャルマントは見たこともない景色に目をキラキラさせ、周りをキョロキョロとしています。
「少し、休もうか。水もあるし。」
ザバンの声にオオカミ家族も走るのを止め、小川へと歩むと、その綺麗な水を舌で掬い始めます。
シャルマントも一緒に小川の水を飲み、
「冷たくて美味しい~~。」
そう言ってオオカミ家族に笑顔を向けました。
お日様はまだ高いところに向かって登っている途中です。
「ザバン、どれくらい来たの?」
「まだまだ、森を一つ抜けただけ。この先にはもっと広い森があるんですぜ。それをさら進むと、なだらかな山になっていて、その山に沿って谷もあるんです。」
「凄~~い。見たことのない、行ったことのない景色が見られるのね。」
シャルマントはさらに目をキラキラさせます。
シャルマントのワクワクしているその姿を見て、お母さんオオカミのアルマが言います。
「それにね、その森の間にはここよりも広くて大きな川があって、その川の上には湖があるの。その湖、生き物が作った湖なの。」
「へぇ~~、行ってみたいな~~。」
シャルマントは自然と言葉に出していました。
「でも残念ね、今日は無理。湖って遠いのよ。」
シャルマントはアルマの言葉に少しがっかりしましたが、すぐに元の笑顔になって、
「また今度、その湖に連れて行ってくれる?」
「ええいいわ。今度は湖を目指して走りましょうね。」
「うん!」
しばらくの休憩を終え、シャルマントとオオカミ家族は再び走りだしました。
小川をひょいっと飛び越え、その先に待つ森の暗闇の中に飛び込んでいきます。
どれくらい走ったのでしょうか、森が途切れ、明るくなると、目の前には空が広がっています。
森を抜けたところは高い崖の上になっていて、その先は深い谷間になっているところに出てきたのです。ザバンはシャルマントを背に乗せたまま、崖の縁に立つと、オオカミ家族の皆もその横に並びます。
崖のすぐ下には、山肌を削って作られた道がクネクネとへばりついていて、その道のさらに下に谷底が見えました。
谷底からの吹き上がる風。それは急に向きを変え、谷の上流へと向かっていきます。
シャルマントはその風を目で追うように顔の向きを変えると、そこに広がる雄大な景色に目を大きくして、思わず声が漏れます。
「すご~~い。」
オオカミ家族はというと、いつもの見慣れた景色なのか、オオカミの勇敢な立ち姿のまま目の前に広がる景色の中の、そのどこかに獲物でもいないのかと見ているようでした。
しばらくシャルマントが景色を楽しんだのを感じると、オオカミ家族は再び木の生い茂る森の中へと飛び込んで行きます。
さらに森を一つ抜けると、先ほどよりも大きな川にたどり着きました。
その川の縁に降り立ったシャルマントに、母親オオカミのアルマが言います。
「シャルちゃん、この川の流れだすところに湖があるのよ。」
「へぇ~~。 いつか見てみたいな~~。」
そう言って川の上流を眺めていた時でした、上流の木々が分かれている所から一斉に鳥たちが飛び立つのが見えました。
それから直ぐの事です。
何やら騒がしい音が聞こえてきます。
しばらくすると、上流から多くの動物たちが駆けてくるではありませんか。鹿やイノシシ、キツネにタヌキ、それとシャルマントが一緒にいるオオカミ家族とは別のオオカミたちも駆けてきてザバンに向かって何か言いました。
ザバンは素早くシャルマントに顔を向け言います。
「シャル様、背に乗ってくれ。すぐにこの場から逃げないとだめだ。」
それを聞いたシャルマントが慌ててザバンの背に乗ると、オオカミ家族は今出てきたばかりの森の中へと再び飛び込んで行ったのです。
カメラが小型化されて、野生動物につけた映像を見るようになりましたね。
どの映像を見ても、周りの景色・風景が飛ぶように過ぎ去っていき、物凄い速さを感じます。
もしも、動物の背に乗ることができたなら、きっと叫んでしまうでしょうね。




