2 赤いずきんの悪だくみ ~交渉には肉を~
冒険や旅行をするのならば、先ずは交通機関という『足』を手配しないとですよね。
さてさて、オオカミを『足』として使うことができるのでしょうか。
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんを被った女の子が、骨付き生肉をずりずりと引きずって森の中を歩いていました。
森に入ってまだのほど近いところ、歩いているシャルマントの横に後ろからスッと並ぶ影。
「こんにちは、ザバン。」
「こんにちは、シャル様。今日は何のようだい?」
シャルマントは歩きながら顔だけをザバンに向け、笑顔を見せました。ザバンは以前にシャルマントに捕まった時とは違い、食事の肉もたくさん食べて、身体もがっしりとして一回り大きくなっていました。
「私が来るの分かっていたの?」
「へへへへ、そろそろかなってね。」
お互いに見合わせて微笑みます。
「シャル様、それ重そうだから俺が運ぶよ。」
「ありがとう。」
「いいんだ、俺たちへのおみやげだろ。」
ザバンが肉を銜え、オオカミ家族が暮らす樹洞へとやって来ました。
樹洞の前では四頭のオオカミがじゃれあっています。
一年も経つと子供のオオカミ達もかなり大きくなり、大人のオオカミに近いくらいの大きさへと成長していました。
「あら、一緒だったの?」
母親オオカミが言います。
「アルマさん、こんにちは。」
シャルマントは母親オオカミに『アルマ』という名前を付けました。
シャルマントの声を聞いた子供のオオカミ達もじゃれ合うのを止め、
「こんにちは。」
「シャルちゃん、久しぶり。」
「おみやげのお肉、持ってきた?」
それぞれが言葉を返します。その三匹の子オオカミ達にもシャルマンとは名前を付けました。
長男のオオカミには『ウルバン』、二番目は女の子で『エマ』、三番目は男の子の『オットー』です。やっぱり大きくなっても三番目のオットーは食いしん坊で、他の二頭よりかは幾分ぽっちゃりとして見えます。
シャルマントはオオカミ家族みんなに名前を付けたので、例の呪文を唱えなくてもお話しができるようになっていました。
シャルマントはオオカミ家族を見て、
(う~~~ん、みんな大きくなったからこんなお肉じゃ足りないわね~。)
と思っていると、母親オオカミのアルマが言いました。
「まあ、今日も美味しそうなお肉、ありがとう、シャルちゃん。」
「でも、みんな大きくなったからこれだと少ないわよね。」
シャルマントが少し申し訳なさそうに言うと、
「いいのよ、食事は足りているから。シャルちゃんのお肉は美味しいデザートなの。」
シャルマントはオオカミ家族がお肉を分け合って、それを美味しそうに食べるのを見ていました。そして、食べ終わると、
「今日はねー、ザバンに聞きたいことがあって来たの。」
「なんです?」
「ねぇ、オオカミってどこまで走って行けるの?」
「狩りでどこまで走るのかって事?」
「そう。」
「ん~~、となりの町の近くまでは行くこともあるかな?」
「となりの町?」
「シャル様は行ったことないの?」
「うん、この村から出たことない。ザバンと一緒に妖精さんの泉に行ったのが一番遠くかな。」
「そうか~、となりの町は森を二つ抜け、谷を越えた先にあるんだ。」
「へぇ~~~~、すごく遠いんだね。」
「俺たちの走りならすぐさ。日が昇って、沈むまでには帰ってくるんだぜ。」
「やっぱりオオカミって凄いのね。」
しばらくの沈黙の後、シャルマントは思い切って自分の願いを伝えてみました。
「ねえ、私をとなりの町まで連れて行ってくれないかしら。」
オオカミ家族はお互いの顔を見合わせてから、ザバンが言います。
「それじゃあ、みんなで狩りをしながら行ってみようか。シャル様は俺の背に乗せて行くよ。」
「いいわね~~。」
そう母親オオカミのアルマが答えると、子オオカミたちは飛び跳ねて楽しそうにじゃれ合いだしました。
「それで、いつ行くんだ?」
ザバンが聞きます。
「その前に確認させてほしいの。」
そうシャマントは言うと、ザバンに近寄り、ザバンの毛に手を当てました。
「う~~~ん、まだフワフワね。これなら大丈夫。埃っぽくないし、ノミもいなさそう。凄いな『妖精の泉』。」
当てた手を、さらに毛の奥に忍ばせ、広げた指先でサワサワと撫でまわします。
すると、
「気持ちいいのよね~~。」
と言ってアルマがザバンにすり寄って来ました。それを見ていた子供のオオカミ達もいつしかザバンのフワフワの体毛に顔をこすり付けています。
ザバンはというと、まんざらでも無さそうに、鼻先を上げて目を閉じていました。
(これなら大丈夫。ザバンの背中に乗っても快適な冒険ができるわ。)
「よし、大丈夫。行こう。」
シャルマントが快適な冒険を想像して言うと、オオカミ一家は喜び全員で、
ウォ~~! ウォ~~!
と遠吠えを始めました。
シャルマントも森の奥深くまで響いていくオオカミの遠吠えにザバン一家の絆を強く感じ、そんな彼らと一緒に森を駆け抜けてとなりの町にまで行く新たなる冒険に心を躍らせています。
オオカミは日に数10キロメートルを狩りで移動するそうです。最大では100キロメートルに近いほどの距離を移動するなんてことがあるそうです。
車でこれくらいの距離を移動すれば、隣の町や県外にも行けてしまいますよね。
ちなみに、江戸時代の参勤交代は日に8~10里(約30km~40km)ほどを速足で移動していたみたいです。ゆっくりと進むのは街中だけ。
胆力がいりますよね。




